なれない王子様


「180cmのにゃんにゃんとか私は聞いた事無いけれどね。」



「…………にゃーん。」




「ちょっとは否定してよヤダその棒読み可愛い。」




私の膝の上でごろんと寝転がりながら
もぞもぞと沢山の書類を書きあげていくシュウ君に溜息。
全く、こういう難しそうな書類を素早く片付けながら全力で甘えてくるとか…ある意味スゴイ器用だよね。



何だかんだで逆巻家の長男である彼は時折こうやって沢山の書類に自身のサインを記入している。
普段は見せないけれどやっぱりお貴族様なんだなぁって…色々社交界であるんだなって思うけれど
彼の態度だけは全然そんなの微塵も感じさせない。



「花子…目、つかれた。ぎゅって…」



「ううん、これで目の疲れが取れるとは全く思えないよ?シュウ君。」



「目だけじゃなくて体の疲れも全部吹っ飛ぶ。…花子は柔らかくて暖かいから。」



ぎゅっぎゅっと何度か強目に目を瞑ってしょんぼりした表情で私を見上げるから
彼のご要望通り体制はそのままでシュウ君をぎゅっと抱え込めば
嬉しかったのか彼もそのまま手に持っていた万年筆を放り投げて私を抱き締め返す。



「…………寝る。」



「ダメダメ。もうすぐパーティでしょ?主賓のご子息様準備をどうぞー。」




「……花子って最近レイジに似てきたよな。」




ゆったりとリラックスモードでそんな事言いだしたから
ちょっとミルクティー色のふわふわな髪をかき分けて額をコツンと弾けばむすっとふくれっ面をしながらものそのそとどいてくれたシュウ君はちょっと偉いって思う。
大体はさぼっちゃうくせにこういう大事なものはうとうとしながらもちゃーんと参加するんだもん。



「花子…ハイ。」



「………シュウ君ってホント甘えん坊だよね。」




向かい合う体制になってゆったりとバンザイをした彼に小さく苦笑しながらも
そのままスポンと彼の洋服を脱がせて予め用意されていたタキシードへと着替えさせてあげる。
こういうのは正直日常茶飯事で、最初は恥ずかしかったんだけど慣れればもはや流れ作業である。



「ホラホラ下も脱がせてあげるからちょっと腰浮かせてよ。」



「……ねぇちょっとは照れなよ。苛めがいないだろ。」



「年下お坊ちゃんのお着替えで一々顔赤らめる程純情な若人ではないのですよ私は。ハイすぽーん。」



「………。」




むすっ
あ、すっごい不服そう。
だって仕方ないよね。そりゃシュウ君より年下な女の子だったら恥じらっちゃって手くらい震えるかもだけれど
彼より年上な私は慣れてしまえば心頭滅却位お手のモノなのだ。




「はい、出来た。……って、やっぱりこれだけは慣れないなぁ。」



「なぁに?…格好良い俺に惚れ直した?」




ようやく全て着替えさせてあげればムクリと起き上がって
きゅっきゅとネクタイを直しちゃうシュウ君は紛れもない王子様みたいで
いつだってこの姿に慣れる事はない。



ちょっとドキドキして顔を赤らめれば少し意地悪に笑う彼に対して小さく頷き、そのまま自身もドレスへ着替える為にその場を後にする。
背後から「此処で着替えればいいのに」とか頭おかしいシュウ君の声は無視である。
全く…私がいなきゃ絶対に金輪際パーティに参加しないとか宣言するのやめてほしい。



お蔭でそれ以来私までも巻き込まれる始末だ。




「…花子ってドレス着たらちょっと大人っぽい。…綺麗。」



「………その恰好で綺麗なんて言わないで」



着替え終えてシュウ君の元へと再び近付けば
満足気に微笑んでそんな台詞だ。
いつもは「かわいい」ばかり言うくせに、こういう時に「綺麗」とか言わないでよ心臓が爆発する。
今の王子様みたいなシュウ君に言われるとお姫様みたいだなって思っちゃうじゃない。




そんな事を考えてればシュウ君がそっと私の右手を自身の左手で取ってちゅっと音を立てて指先にキスを落としたと思えば
そのまま掌に頬を寄せてスリスリと心地よさそうに擦り寄り目を細める。



「だって綺麗だし。……花子は綺麗って言われるの、いや?」



「や、じゃない…けど。今のシュウ君にそう言われれると照れるって言うか…」



「……ふぅん。そっか…花子、綺麗…綺麗だ…愛してる。」



「も、もうもう!黙ろうかシュウ君!恥ずかしくてしんじゃう!!」




私の返答にニヤリと口角を吊り上げたシュウ君の顔がずいっと近付いてきて
吐息がかかるんじゃないかって位の至近距離で「綺麗」のマシンガンを撃ってきたので彼の顔をぐいっと押しのけて
その冷たく大きな手をぐいぐいと引っ張りパーティ会場へと向かった。





「ううん、相変わらずの人気っぷり。」



会場につくや否やシュウ君は素敵な女性や、社交界のダンディなおじさまたちに捕まってしまい、引っ張りだこ状態である。
彼の愛人になろうとしたり逆巻家に取り入ろうとする腹黒連中に小さく聞こえないように溜息である。


ちょっとシュウ君可哀想かも…


でも彼は嫌な顔一つせず…というかもはや魂ここにあらず状態で全ての言葉を受け流してしまっている。
正直に、ハッキリ言えば本気で寝そうである。
だ、駄目だよシュウ君!ここで寝ちゃったらきっと運ぶの私だし!流石にシュウ君は大きいから担げないよ!!




ハラハラしながら見守っていれば不意に彼に渡される契約書の類。
小さく溜息をついてスラスラとサインをしたかと思うと今度は彼の点数を稼ごうとした女性がシュウ君にグラスを差し出す。
そこで気付いたちょっとした違和感。



ん?




「全部右手じゃない…」



私に触れる時はずーっと左手使ってたのになんで…?
え、シュウ君って左利きだよ…ね?
疑問に思ってじっと彼を見つめれば視線に気付いたのか、ゆったりとこちらを向き、人差し指を唇に当てて「ナイショ」のポーズ。



「?」




よく分からなかったけれど彼が内緒にしてほしいならそうしようって…
そう思って私はシュウ君を囲む群れを見つめ続けていた。





「はぁ…怠かった。」



「お疲れ様、シュウ君。」



「ん、ご褒美に綺麗な花子から俺にキス、して?」



「帰ったらね。」



「……………けーち。」




相変わらず可愛いふくれっ面になっちゃうけれど、今日は何しても格好良く見えるからまた小さく苦笑。
ようやく解放されたシュウ君が会場の隅で私の隣にぴったりとくっつき、彼曰く「花子補充」をしている間に先程の疑問を投げかける。



「ねぇシュウ君。なんでさっき右手使ってたの?左利きだよね?」




「んー…」




間の抜けた返事の後にまたふたりきりの時みたいにこっそり指先にキス。
意味が分からずに首を傾げてればシュウ君はふわりと微笑んだ。



「いつも花子に触れてるこっちの手はなるべく他の事に使いたくない。…花子の感触…一秒でも長く覚えてたいんだよ、俺は。」




「…っ!?」




すっごい殺し文句を言われて私の顔面は火を噴いたように赤くなる。
え、え…まって…ちょっと待って。今、うん…恥ずかしくて嬉しくて死にそう。
どうすればいいかわからずに只々固まっていればスクスク微笑むシュウ君は本当に王子様みたい。




「ごめん花子、あんたやっぱ可愛い。」



「う、ううううるさい!年下君のクセに生意気!!!」



「そんな年下君の正装見る度にドキドキしちゃってる年上さんに言われたくないな。」



「…っ!もうもうもーう!」




私のせめてもの悪態も全然効かないで
またシュウ君にからかわれる。
悔し紛れの私の叫びは会場に響き割たる優雅なBGMにかき消されて消えた。




悔しい。
いつもは可愛さ100%なシュウ君のクセにこんなドキドキのさせたかするなんて悔しい!!!




「もういいよ!シュウ君なんて知らない!!もう二度と甘やかしてあげないんだから!!」



「………え。」



「あ、やだやだうそうそごめんなさい冗談だよシュウ君。だからそんな泣きそうな顔しないで。」




あ、あれ?
さっきまでムカつく位格好良かったのにやっぱりシュウ君も可愛いままだ。



どうやら私もシュウ君も綺麗と格好良いというカテゴリには
そう長い事とどまれない運命らしい。



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