恋の続き


「ねぇねぇ、どうしてアヤト君は一番にならなきゃいけないの?」



「…しらない。でもいちばんにならなきゃいけないんだ。」



「私は一番じゃなくてもアヤト君がだいすきだけどな。」




多分花子のその言葉が心のどっかで支えになってたから壊れずにいたのに
アイツはそんな甘い事ばかり言う花子は傍に居ても俺様の邪魔だと言って彼女をどこか遠くへと捨てた。


…いや、もしかしたら殺してしまったのかもしれない。


ある日突然俺様の前から姿を消した花子は周りの記憶からも消えていて
もしかしたら「花子」って存在自体が夢だったんじゃないかって思えるくらいだった。




生きていたとしても死んでいたとしても
実際突然花子は俺様の世界から存在ごと消えたのだ。





「えー…あー…ここだっけか?」



幼い日の記憶を辿ってふらふらと寄ってみたのは小さな公園。
つってもここは何処か幻想的で現実からはパキリと切り取られてる感覚が少し俺様にはくすぐったい。
…でも、ここはすげぇ大切な場所だ。



「花子、元気にしてっかなー。」



ぽそりと呟いた言葉。
普段なら絶対に思い出すことさえ難しいその名前に柄にもなく静かに涙する。
ああ、そうだ。
普段思い出すことが出来ない位花子の存在が俺様の中でも風化しちまってる。
だってもう彼女が俺様の前から消えて何年だよ。思いだせねぇよ。




名前も
声も
笑顔も
…泣き顔も。




きっと当時何よりも大好きだった彼女の事柄が思いだせぇね。
俺様に関わったから、俺様に甘い言葉をかけたから花子は傍から消えた。
彼女にだって世界があったはず。
大切な人とか大好きな店とか、友達とか色々。
それも全部アイツの所為で彼女はすべて手放すことになってしまったんだ。



「…や、ちげぇ。俺様の所為だ。」



俺様が花子の言葉に救いや安堵、甘えなんか見つけなけりゃ
きっと今でも彼女は此処にいることが出来たんだ。
少しでも、花子に甘えたいって思っちまったからこうなってしまった。



「あー…花子、わりぃ。」



届くないはずのそんな謝罪。
今どこにいるんだよ。
つか生きてんのかよ。
もし生きてるなら…どっかに居るならちゃんと謝りたい。



俺様に関わったから花子の世界が壊れた。ごめん…って。



別に誰がどうなった所で構わないけれど花子は別だ。
優しい言葉をかけてくれた、一番じゃなくても俺様がすきって言ってくれた花子には
誰よりも幸せになってもらいたかったし、願わくば俺様が幸せにしてやりたかった。
…実際に幸せにするどころか不幸にしちまったけれど。



うん、きっと花子が俺様の初恋だったんだろう。




「ったく、初恋は叶わねーって言うけど、散々だな。」



只振られるだけならまだしも
こんな結末って…ねぇわ。



誰にも知られる事のない悲しい恋物語はあまりにも残酷で
小さく息を吐けばふわりと香る覚えのある香り。
…すっかり忘れてたけれど本能はそれを覚えていて、俺様の中の記憶が一気に溢れかえる。




「アヤト君の初恋話?私も聞きたいなぁ。…因みに私の初恋はアヤト君だったよ?」



「…うるせぇ。どうやらまだ終わっちゃいねぇみたいだ俺様の初恋はよ。つかどこいってやがった馬鹿花子。」



後ろから懐かしい声がした。
振り返りはしないでそのまま悪態を付いても体の震えは止まらない。
ああ、帰って来たんだ。
俺様の…初恋が。



「そもそも“だった”ってなんだよ。花子は俺様以外に好きになれんのかよ。」



「ううん。無理だよね。…無理だからこうして頑張って帰って来たんだけれど…迷惑だったかな?」



少ししょんぼりしたような声色で、それでも俺様の後ろから抱き締めてくる花子の感触はもう何年振りだろうか。
今すぐ振り返って俺様も壊れるくらい抱き締めたい。
けれど今は無理だ…だって嬉しくて多分今、ひでぇ顔してる。
これは流石に花子に見られたくない。




だからせめて、お帰りとごめんとすきと愛してる
そんな気持ちを全部唇に込めて俺様を抱きしめてる腕をそっと取って指先にキスをした。




「なぁ花子、俺様はお前と初恋の続きをしたい。」



アイツに強制終了されてしまったこの恋心を今再びお前に伝えたくてそう言えば
後ろからとても嬉しそうな了承の言葉が聞こえた。




初恋、どうやら叶わないって訳じゃないらしい。



戻る


ALICE+