はじめてのあまやかし


「なぁ花子、知ってるか?俺って実は逆巻家の長男なんだぜ?」



「う、うん。知ってるよ?…すっごい今更だね、どうしたのシュウ君。」



「………。」




むすっ




シュウ君の突然の言葉に書類整理をしなが首を傾げれば
とんでもなく不機嫌なふくれっ面をされてしまって傾げていた首の角度を更に強める。
だって知ってるもん。
シュウ君は逆巻って家のご長男で、とんでもないお貴族様って事。
そしてそんなすごいご長男がずーっと私にべったりって事。


そんなお貴族甘えん坊シュウ君は不機嫌顔のままのそのそと私に近付いてきたかと思うとのしっと背中に覆いかぶさってしまうから
必然的に前のめりになってしまいぐしゃっと音を立てて書類を握り潰してしまった。



「…なぁ花子年上だろ?何で俺の言いたいこと分かってくんないの?察しろよ。」



「ええええちょっと難しいよソレ。私エスパーじゃないし、ちゃんとシュウ君が口で言ってくんなきゃ分かんないよ。」



「俺に甘えろ。今すぐにだ。」



「………この状態で言うんだ。」




すっごく不満気に理不尽な欲求をしだしたシュウ君に対して
ちゃんと思ってることを口に出すようにせがめば
先程のモノより比べ物にならない理不尽な言葉が飛んできて思わず苦笑してしまった。
後ろから私にぎゅうぎゅう抱き付いてきながらすりすりと頬を寄せておきながら甘えてこいとか…
ねぇ、無茶にも程がある。



「ていうか何?いきなり甘えろって…今までずーっとシュウ君が甘えてたのに。」



「これ…あと、これ…ああこれも。」



「ん…ぅわ…ちょ!」



突然の彼の要望を疑問に思い、本人に聞いてみれば
そのむすっとした不機嫌顔はそのままに書類を持っていた指先、瞼、最後に唇へとキスをされてしまった。




「手、荒れてる…眠そう…唇カサカサ…仕事、大変なんだろ?」



「………シュウ君ってさ、意外と見てるよね、そういうの。」




別に家に持ち込む仕事量を増やしたつもりはない。
私の事が大好きなシュウ君が心配しちゃいそうだったから…
けれど確実にオフィスでの業務は積み重なっており、大変とかそう言うのは言ったら余計にしんどくなってしまうから口にしなかったけれど
どうにも私の最愛は誤魔化せないらしい。



「うーんでも甘えるって言ってもなぁ…何してくれるの?」



「………。………えっと。」



「ぶふっ!シュ、シュウ君のそう言うトコ、私結構好きだよ…っ」



あ、どうしよう。
つい言ってしまったけれどシュウ君の眉間に皺寄っちゃった。
そうだよね、私の事心配してくれて言ってくれたのに笑っちゃ悪いよね。


きっとシュウ君は長男で沢山の弟さんがいるからさりげない甘やかしとかはよくやって来たと思う。
でも、うん…真正面からストレートに誰かを甘やかすって事はした事無いんじゃないかな。



「じゃぁシュウ君が私にされたいなって事をしてくれればいいよ。」



「俺が花子にされたい事………ん、」




いつも私がシュウ君を甘やかしてるから立場を逆転すれば簡単だって思ってそうアドバイスしてあげれば
何を思ったのかシュウ君は何度も何度もこの疲労困憊の唇を啄む様に奪っては舐めて奪っては舐めてを繰り返し始めてしまった。
待って待って、本当にちょっと待って!
あの、シュウ君の綺麗な顔を唇があのもう…ちょっと心臓が破裂する。



「あと…は。」



「え、ちょ…シュウく…うわぁ!?」



ぐいっとそのままシュウ君に抱え上げられてバサリと書類たちが床へと落ちてしまう。
けれど、そんなのお構いなしに運ばれる先はふかふかのベッドの上だ。



「シュウ君…?」



「こうして、抱き締めて…ゆっくり頭撫でて…」



そっと優しく、壊れ物を扱うかのように抱き締められて
空いている彼の手がふわりと私の頭を撫でる。
…正直今まではこう言う事、してきた側だったから
こうされるとどうしていいかわからず私の涙腺はだらしなく緩んでしまう。



「しゅ、シュウ君…しゅ、んぅ…」



「ん…ちゅっ…そしてこうして大好きな唇をたくさん奪って、涙も全部掬い上げる」



時折してくるような深くて激しいキスじゃなくて
穏やかで酷く優しいそれにもう私の涙は零れ落ちるばかりだけれど
それさえも全て彼の唇が掬ってくれる…。



どうしよう…いつも甘やかしてるシュウ君に甘やかされるのってすごく恥ずかしい。




「花子、すき…あいしてる。」



「…っ、シュウ君のばか。」



鼻同士をこつんを触れあわせてそんな事言わないで…
もうさっきから胸がぎゅうぎゅう痛いの。


照れ隠しに悪態を付いてその広い胸板に顔を埋めれば「花子が自分から甘えてくれた」ってすっごく嬉しそうに言っちゃうから
もう何だか余計に恥ずかしくなってぐりぐりと顔を摺り寄せてしまう。



「ああそうだ。子守唄も歌おうか…どーせ甘やかすなら徹底的にしたい。」



「………好きにしてよ。もう。」



もう何をいっても無駄そうなシュウ君に素早く見切りをつけて好き放題させる様にすれば
それから甘い声での子守唄や、合間合間に唇や瞼、いろんなところにキスをされてしまい
ちょっとは抵抗すればよかったって思うくらいでろでろに甘やかされてしまった。



シュウ君の初めてのあまやかしって加減知らずで恐ろしい。




でも、うん…
全然嫌じゃないし…寧ろ…ちょっと嬉しい、かも。





後日、「俺が花子にされたい事を実行してみたら実際されたくなったから全部して。」とか爆弾発言をされて
色んな意味で死にたくなったし、疲労が半端なく溜まってしまったのはまた別の話。



…やっぱりシュウ君は甘やかしてあげる方がいい。



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