ババァ的誕生日


「そ、そういや花子…その、あの…えっと…なんだ…あ、あした何の日か知ってるか?」



「はて?何かあったかな?ううん、覚えがないなぁ…よもやここまでババァになっているとは思わなかった。スバル…このババァに教えてはくれないか?」



「……別に、なんもねーよ!ばーかばーか!!花子のばーか!!」



俺の部屋で静かに読書をしていた花子に柄にもなくそわそわしながら尋ねれば
予想外すぎる答えに少しばかり苛ついて彼女に罵声を浴びせながら自室を飛び出した。
くそう!まさか当の本人が自分の誕生日忘れてるとは思わなかった!!!



「ボケるにはまだ早いだろあの馬鹿花子!!!」




デカい声で喚いても誰も答える訳もなく
1人でこのイライラをどうにかしようと手近にあった壁を殴りつけようとしてピタリと止める。
今ここで盛大に壁粉砕して修理費で小遣い持ってかれたら花子の誕生日に何も買えねぇ…




「くそ…っそっちがその気なら勝手に祝ってやる。」




一つ小さな決意を胸に俺は参考になるかわかんねぇけどとある兄貴の所へ足を向ける。
仕方ない…俺は馬鹿でガキだからひとりじゃきっと花子の喜ぶもんなんて思いつかねぇ。





「ふーん…それで可愛いものとスイーツに詳しい僕と…」



「一番花子に歳の近いじじぃの俺に相談…ってスバルお前殺されたいの?」




ガシリと頭をじじぃ…じゃなかった。シュウに鷲掴みにされて体を宙に浮かされたけれど仕方ない。
俺に思いつくのはこれくらいだったんだ。




「仕方ねぇだろ!?俺可愛いのとか女々しい趣味もってねぇーし!!ガキだからご老体の趣味なんてわっかんねーんだよ!!」



「…シュウ、そのままスバルの頭握り潰していいですよ。女々しんだなんて失礼だ!!」




ジタバタと体を宙に浮かせたまま暴れてるとカナトがヒステリックに叫び散らすけれど
シュウが長い溜息を吐いてそのままぱっと手を解放してくれたのはいいが、突然の事だったのでその場にベシャリとしりもちをついてしまった。



「まぁスバルが花子の為に一生懸命になるのは悪くない…婚約者だらな。協力してやるから今すぐにじじいを訂正しろ大人って言え。」



「…んだよ、気にしてんのかよ。」




よろよろと立ち上がればすげぇ威圧で脅されたけど今はそれどころではない。
花子の誕生日までもう時間がねぇんだ。



「た、頼む…花子の誕生日、祝ってやりたいんだ。」



「「………。」」



初めて、生まれて初めて目の前の二人に深く頭を下げた。
確かに俺も花子も永遠を生きるヴァンパイアだけれど…更には俺以上に何百年以上歳を重ねてる花子だろうけれど
でも…それでも祝いたい。
大事な、だいすきなひとが生まれた日だから祝いたい。



さっき花子が自分の誕生日を忘れちまってるのを目の当たりにしてすげぇ胸が痛かったんだ。




俺だって今まで誕生日とかどうでもいいと思ってたけど…
でも何か…うん。
だいすきな人が生まれた日なのに本人があんなに無頓着だと…すげぇ、いやだ。




祝ってやりたい。
お前の事、こんなにも好きな奴がいるんだぞって
お前が生まれた日に感謝する奴がいるんだぞって教えてやりたい。



俺がこんな事思うのはすごく滑稽だと思うけど…でも、それでも、だ。




「…わかりました。弟にそこまでされたら僕だって無視することはできませんよ。女々しくないですけど。」



「そうだな…大人の誕生日ってのを一緒に考えてやる。…じじいじゃないけど。」



ふたりのそんな言葉に心の底から頼もしい兄貴がいてよかったって思ったのは…うん、絶対内緒である。






「スバル、一体どうした?急にダンスホールに呼び出しなんて珍し…」



「花子…その、た、誕生日!!!お、おめでとう…」




あれから数時間、カナトとシュウの協力の元魔界のダンスホールを貸し切って花子を呼び出した。
勿論日付は変わって彼女の誕生日だ。
会場にはカナトが教えてくれた沢山の宝石のような綺麗なスイーツと可愛らしい人形たち。
そして俺はシュウがセレクトした白いタキシードに身を包んでいる。



「……ん、」



「スバル…?」



「手…貸せ。」



自身の手を差し出せば花子は戸惑いがちに俺に問うてくる。
仕方ねぇか。
なんの連絡もなしのサプライズ誕生パーティだもんな。
流石の花子も驚きを隠せないのだろう。



そんな彼女の手を強引に取ればそれが合図。
優雅で静かな音楽が会場全体を包み込んでじじい…じゃなかった、シュウに教えてもらった付け焼刃なダンスステップをおぼつかないまま踏んでいく。



「すば、スバル…っ」



「突然で悪かったな。でも…どうしても祝いたかったんだ。花子の誕生日。」



おぼつかない俺の足取りに戸惑いながらも俺より上手にステップを踏んでしまう彼女はやっぱり大人で…
こういうとこ、悔しいって思うけど…今は足取り大人のクセに顔面は恋する少女ばりに真っ赤で嬉しそうな花子に夢中だ。



「スバル…スバルありがとうっ!誕生日…こんなに嬉しいモノだって私は忘れていたよ。嬉しいっ!!」



「……っ、そーかよ。」




よほど嬉しかったのか感激の余りその瞳に涙を浮かべながらもそう言ってくれる花子に対してああよかったって…素直に思ってしまう。
そうか、大人ってこういう何気ない事を忘れてしまったりするんだな。



「なぁ花子…これからいろんな行事しようぜ。お前となら絶対楽しい。」



「うん、うん…そうだな。スバルとならきっと楽しい事全部思いだす。悠久の時を生きてきた私に欠けていたモノ全部取り戻せそうだ。」



俺の言葉にそんな可愛い返答。
それ、俺と一緒なら何でも嬉しくて楽しいって言ってるも同然なんだぞ?分かってのか花子。



「花子……ってうぉ!?」



「嗚呼、楽しい…楽しいよスバル!!ここからは私がリードさせてもらうよ!?ふふ…ふふふっ」



「ちょ、おま…っお、俺はさっきステップ練習したばっかで…うおおおお!?」




誕生日を祝われるという事がよほど嬉しかったのか
大はしゃぎの花子はそのまま自分のペースで、俺はそっから男なのにも関わらず彼女の激しく、優雅すぎるステップに振り回される羽目になってしまった。
ああもう、こんなに動くときっと明日は筋肉痛だろう…
でも、まぁ…




「改めて、おめでとう…花子」



「!ありがとうスバルっ」




普段落ち着き払ってるコイツがこんなにも嬉しそうなら
この先の筋肉痛も安いものか…



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