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君が彼への依存を解いてハッピーエンド。
嗚呼、とても素晴らしいお話だね。
けれど、うん。
ちょーっとありきたりすぎるかな?
「人生には時に刺激が必要とか、あの人も言ってた気がするんだよねぇ。」
地下牢に飄々とした気色悪い声が響き渡る。
俺の両腕には床につながれた鎖。
目の前には檻が見える。
何度も何度もコイツを引き千切ろうと暴れてはみたがどうにも現実は残酷らしく一向に千切れる気配も、根元から抜けてくれる気配もない。
ただ虚しく、暴れるだけ、手首へ食い込んだ金属がそのまま更に深く奥の肉へと沈んで真っ赤な血をボタボタ無駄に垂れ流すばかり。
「おい、それ以上花子に近づくんじゃねぇ。ぶっ殺すぞ。」
檻の先、その軽い口調の本人に低く唸ってもその表情は余裕めいてしまっている。
そんな彼の先には怯えきって小さく丸まってる俺の最愛。
油断してた…もう、彼女にひでぇ事なんて絶対起きないって、思ってた。
普段通り道を歩いてた。
今日は珍しく花子も俺の腕から離れて自分で歩いて二人で手を繋いで…
そんな当たり前のことが酷く幸せできっと浮かれてたのだろう、背後のキモチワリィ気配になんて全く気付かなくてこの状態だ。
気が付けは俺はどっかの地下牢に閉じこめられていて
花子は牢屋の外で、再び近づく悪魔に怯え、震えている。
「なんで…なんでここまで花子に執着してんだテメェは!血もクソまずいんだろ!!体だってどうでもいいんだろうがよ!!何なんだよ!!」
叫びというか、もはや吠えるという行動に近い声を上げるとその余裕めいた瞳はスッと細められて
ムカツクその唇は不気味なくらいニタリと口角をあげた。
「だからだよ。血も体も何も価値がないこーんなゴミが幸せにっておかしいと思わない?」
「…っテメッ!」
「ひぅ、」
ぐいっとその汚ねぇ手で花子を体を引き寄せて見せつけるように強く抱きしめた。
奴の腕の中でもう限界だったのか花子がボロボロと涙を零して必死に震えながらこちらに手を伸ばす。
「ゆーまく、…ゆーま…くん」
「花子!ちょっと待ってろすぐ助けてやっから…すぐっ!」
「おおーっとダメだよ花子ちゃん?この手は届かないの。はーい、ないないしてね?」
必死に伸ばらされた手、
安心させるようにできる限り優しい声色で宥めてやりながらも、もう手首とか千切れてもいいって思いながら再度今まで以上に腕を動かし、暴れる。
けれど無情にも伸ばされた花子の手は彼女を抱いている悪魔に絡めとられてちゅっと白い手に唇が落ちた。
「やだ、…や…っ、いや…っ!」
「んー?んふっ♪この様子だと今から僕にナニされちゃうかわかってるみたいだね。」
「おい…やめろ…マジでやめろって…おいっ!」
じたばたと弱いけれど必死に暴れる花子を見てそいつの口角はますます上がる。
やめろ…また花子を壊すっていうのか。
今まで花子は十分すぎるくらい苦しんできたっていうのにまた…また同じ目に遭わせるってのかよ。
しかも今度は俺の目の前で…?
「頼む…なんでも、なんでもするから…やめろ…やめてくれよ」
「ふーん、ユーマは花子ちゃんの為に頭下げちゃうんだ。愛されてるねー花子ちゃん?んふっ♪」
今すぐにはこの鎖が解けないと判断した俺は最愛を穢そうとしている本人に懇願するけれど
奴はそんな俺の願いを軽く受け流して花子の服に手をかけた。
「ほーんと、………ムカツクよ。」
ひとつ、ふたつ…
数えきれないくらいの俺の咆哮と花子の悲痛な叫びが部屋に響き渡った。
「はー…楽しかった。やっぱりキミはそうしてきったなくボロボロな方が素敵だよ。んふっ♪じゃぁね。」
どれだけ時間が経ったかとかはわからない。
けれどようやく檻の扉とつながれた鎖のカギを外されて身も心も満身創痍のままずるずると這いずって彼女のもとへ進む。
バラバラにして殺してやりたい対象はスッキリした表情でそそくさとこの部屋を出て行ってしまった。
「花子、花子…」
「……………、」
暴れすぎてボロボロになった手を彼女へと伸ばせばいつもならすぐに飛び込んでくるくせに
スススと後ろへと引いてしまう体に俺の顔は酷く歪んでしまう。
嗚呼、また…また花子は…
「おう、駄目人間。こっちこいよ…お前のだいすきなユーマ様のでかい手だぞ?ん………?」
「……、……、」
首がゆっくり横に振られる。
花子がだいすきだった俺の手にさえ擦り寄ろうとはしないその眼にはもう光なんて存在しなかった。
ただ、辛うじて静かに涙は零れはいたけれどそれにさえ彼女の心は入っていない気がした。
「花子…ごめん、ごめんな……こんな腕、引き千切ればよかった。」
後ずさる花子の体を少しだけ強引に腕の中へと収めて何度も撫でる。
けれど返ってくる言葉は「ごめんなさい」ばかりだ。
…なんで花子が謝んだよ。悪いのは全部お前を守れなかった俺とお前をまた穢してしまったアイツだ。
………名前さえもう言いたくない。
「花子…つらかったな、苦しかったな…お疲れさん。」
ぎゅうぎゅうと力いっぱいに抱きしめるとミシリと骨が軋む音がした。
心は完全に崩壊してしまってるのに体はまだ形を保ってるなんておかしな話だ。
…だったらこのままこの器も壊してやって俺も一緒に壊れてやるのも悪くないのかもしれない。
花子が幸せを感じるたびに悪魔が壊しに来るのなら、いっそ。
「なぁ花子……どっちがいい?選ばせてやんよ。」
「…………、」
スリスリと頬を撫でながら今世紀最高に優しい言葉を紡ぐ。
守ってやるとか大口叩いといて現実は目の前で壊されちまった。
花子の大好きなこの大きな手は結局役立たずで終わってしまった。
「俺のこの手で全部壊すか、それとも俺と花子だけを壊すか…どっちでも、」
じっと俺の目を見たと視線をだいすきだった手に移してそっと取り
静かに彼女は自身の首へと俺の手を宛がった。
ああ、そうだな…全部ぶっ壊すのは時間かかって面倒だ。
…なんとも駄目人間のお前らしい選択だよ。
「っし、できるだけ一瞬で…な?」
「…ゆーまく、」
「ん…?どうした?」
出来るだけ苦しめないと、誓ってやればふいに紡がれた俺の名前。
最期に見るであろう彼女の景色を幸せなものにしてやりたくて優しく笑って問いかける。
「ごめんね……やっぱり、わたし…」
「ばーか、汚ねぇからこうするんじゃねぇよ。……ごめんな」
悲しげな言葉に俺は笑う。
馬鹿だな…別にあの野郎に何度穢されようがお前は穢れねぇよ。
…だからこうして苦しんで壊れたんだろうが。
本当に穢れたんなら胸の内の心も穢れんだろーが。
そして紡いだ俺の謝罪は三つの意味。
守れなくてごめんな
役立たずでごめんな
こんな方法しか見つけられなくてごめんな
「なぁ花子………愛してる。」
ゴキリ、
鈍い音がしてうなだれた体に小さく涙を流した。
何が人生に刺激だクソが。
そんなもんいらねぇ。
俺はただ、花子とどうでもいいクソつまらねぇ平凡な毎日が送りたかっただけなのに…
「ったく、世の中は甘くねーわ。」
ぽつり、呟いた言葉が最期
この無機質な部屋に響いて消えた。
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