プリン戦争


「もう花子なんて知らねぇ」



「ユーマ君なんて知らない。」




「「ふんっ!!」」



「………、」




いや正直お前たちが喧嘩しようが何しようが関係ない。
…関係ないのだが。



「コウ君はユーマ君よりお兄ちゃんだからユーマ君よりたくさん私の面倒見てくれる。」



「え……えええええええ」



「…っ!あ、アズサは俺の弟だけど花子より物分かりいいもんなー!?」



「………ユーマ…喧嘩は…よくない、よ?」



駄目人間である花子はコウに抱き着き、それを見たユーマが言葉に詰まりながらも
アズサの頭をわしゃわしゃと撫で始める。
互いにバチバチと視線で火花を散らしながら…




……くだらない喧嘩に俺の弟達を巻き込むのはよせ。




原因なんて酷く下らない。
聞く話によるとユーマが誤って花子のプリンを食べた。それだけだ。
たったそれだけの事なのにどうしてここまで話がこじれてしまったのかはよくわからないが
巻き込まれた側としてはもうため息を吐くしかない。



「おうなんだよルキ、ため息なんか吐いてねぇであの駄目人間追い出せよ俺はアズサ構うのに忙しい」



「あのなぁユーマ…」



「お兄さん私を追い出すの?コウ君コウ君、私鬼畜ドS野生児血も涙もないクズ男の指示受けたお兄さんに追い出されちゃう助けて」



「………花子それはいくら何でも言い過ぎ、ってホラ…ユーマが涙目だ。」




意地になってしまってるユーマがため息を吐いた俺さえ巻き込む言葉を投げかければ
花子も負けじとじとりとこちらを睨み、コウに抱き着いたまま大暴言。
…やはり女は口が酷い。



「はぁ…今日は珍しく花子が動いて彼氏であるユーマの家というか無神家に遊びに来たんだろうが。もう喧嘩は止めろ。」



「「いやだ」」



「………。」




ぎゅうぎゅう
なでなで



二人を窘めようとしても同時に拒否の言葉が返ってきてもう何も言えない。
普段なら抱き着いて撫でる相手はお互いだというのに今日はその対象者が違って見ているこっちも違和感…
全く…意地になりすぎにも程がある。




「そもそも…花子さんは…どうしてプリン、食べられて怒ってるの…?」




ユーマに乱雑に頭を撫でられ続けてもはや鳥の巣状態になっているアズサが素朴な疑問。
すると花子はコウに抱き着く腕の力をぎゅうと強めて何かボソボソと呟いたがこちらまでは聞こえてこない。



「ぶはっ!なにそれ〜!花子ちゃん可愛すぎっ」



「あっ!おい!ちょ、コウ!!離せよ!!」



唯一彼女の言葉を拾い上げたであろうコウが噴き出して
そのまま自身からも彼女の体をぎゅうと抱き締めれば焦ったユーマがアズサから離れて
コウの元へと駆け寄り、そのままべりっと彼女とコウを引きはがす。




「…………」



「…何ぶーたれてんだクソ駄目人間。」



「しらないもん。」



「っだぁぁぁ!くそ!おら、行くぞ花子。」



彼女をコウから奪還したユーマがじとりと見下ろすが
未だに花子は不機嫌顔。
そんな彼女を見てしびれを切らしたユーマはわしゃわしゃと何度か自身の頭を掻きむしって
そのままぐいぐいとその華奢な腕を引っ張りリビングを後にした。




…………。




何だったんだ。




「コウ、花子があそこまで怒った原因はなんだ。」



「んー?えっへへ〜それがね?聞いてよルキ君〜」




厄介な嵐が去ったので気になっていた原因をコウに問いただそうとした瞬間




「はぁ!?そんなことで怒ってたのかよ!!チクショウ!!可愛いも大概にしろよ馬鹿花子!!!!」




ユーマの部屋から気持ち悪い雄たけびが聞こえてしまい
残された俺たちは数秒固まってしまったが
一番最初に噴き出したのはすべての原因を知っているであろうコウだった。




「コウ…教えて…?花子さん……どうしてプリンだけで…あんなに怒ってたの?」



理由が全く分からずくたりと首を傾げながらずいずいと迫るアズサに
コウは一通り大きな声で笑い、ひいひいと息を整えながら
下らなさ過ぎる彼女の怒りの原因を暴露した。




「花子ちゃんね…あのプリン、ユーマ君とはんぶんこして一緒に食べたかったんだって!!」




「…………末永く爆発すればいい。」





余りも下らない原因に俺は頭を抱え天井を仰いだ。




もう二度と、もう二度とあのバカっプルの喧嘩には巻き込まれたくない。
絶対にごめんだ。



「そういうのは二人でやっていろ。」



俺の心からの言葉に
コウもアズサも困ったように微笑んだ。



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