人選ミス
小森さんはとても綺麗。
私はいつだってその美しさを目の前にすると劣等感でまっすぐ前を向くことが出来ない。
「嗚呼、まぶしいな…」
いつだって優しい笑顔の彼女は本当に聖女のようで
彼女の光を見つめていれば自身の影が酷く濃くなっていく気がしてしまう。
「でも……」
あと数日で少し特別な日…
あの日くらい…あの日くらいは何とか…何とか小森さん程でなくても背伸びしたい。
……なんて、ちょっと昔の自分だと考えられないかもしれない。
「花子ちゃん、俺はとても感動している。」
「ぐすっ…う…ひぐ…っうぇ…く……っ」
「ユーマが…遂に花子が自分から…綺麗になりたいって…成長したな…俺は嬉しいって…」
「あ、ありがとうございます…?」
今回もとても申し訳ないと思ったけれどこんなの相談できるのはこのお三方しかいないと思い
震える手で携帯で連絡を取って無神家リビング。
私のお願いを聞いて
コウさんは真顔のまま、ユーマさんは号泣してしまって何を言ってるか分からない。
そんなユーマさんの言葉をアズサさんが一生懸命解読して私に伝えてくれた。
せ…成長って…私はそんなに成長したとは思ってないのだが。
「あの…もうすぐクリスマスで…その…その日だけでも…綺麗に、あの…」
自分で言ってて恥ずかしい。
もうすぐクリスマス…私もその、普通の恋人らしくルキさんとこういうイベントごとをしてみたいなんて思ってしまった。
けれどその時不意に鏡に写った自分の姿を見てしまったのだ。
……綺麗じゃない。
ルキさんやシュウさん…弟さんたちはそんな事ないって言ってくださるけれど
私は…私はそうは思わない。
もっと…もっときれいになりたい。
ちらりと鏡越しに写った通りすがりの小森さんを見てその思いはますます強くなってしまった。
小森さんみたいに…私も…
私も綺麗になりたい。
「うんうん、花子ちゃん…本当に花子ちゃんはルキ君が大好きなんだねクリスマスデート、俺から言っとくね。」
「え、あの…コウさん?」
「もうどうせなら下着もエロいやつ選ぼうぜ聖夜…ルキに性夜をすごさせようぜ…ぐすっ」
「…………、」
「ルキへの…プレゼントも…一緒に、えらぼう…ね?」
「あ……アズサさん…」
私の気持ちを察したのか涙ぐみながら高速で携帯をタップしていくコウさんを止めようとしたら
聞き捨てならないユーマさんの言葉に無言になり、アズサさんの癒しの言葉にほわっと表情が緩んだ。
「よおおし!そうと決まればルキ君を一発でメロメロに出来るように本気出そう!!今が可愛いから十分だよなんて綺麗ごとはいらない!!」
「ま、じゅーぶん今でも可愛いけどなぁイベントごとだと雌豚共も着飾るんだ。花子も着飾るべきだなうん。」
「コウ…今日…仕事…休み…とって。」
ぎゅうとコウさんが私を抱き締めてそんなことを言う。
……何だか瞳が闘志に燃えてしまっているのは気のせいじゃない。
ユーマさんも何だかあの、表情が…その、今から戦いに挑むみたいな感じになってしまっている。
アズサさんに至っては本当に真剣過ぎてもう何も言葉が出ない。
「あ、あの……どうしてみなさんそんなに真剣なんですか。」
ぐいぐいと腕をひっぱり、恐らく今から買い物や美容院、その他諸々に連れて行って下さるであろう彼らに問うてみる。
確かに綺麗になりたいとは言った…言ったがここまで真剣にというかこう…戦意むき出しで外に赴かれるとは思ってなかったので
戸惑いを隠せないまま背の高い彼等を見上げる。
するとくるりとコチラを振り向いた三人
その表情はもう…あの、
私、今から向かう場所は聖戦か何かなのですか?
「当たり前だよね。花子ちゃんが自分から綺麗になりたいって言ってくれたんだよ?」
「しかも俺らにそれを相談してくれたんだぞ?」
「そんじょそこらの女のひとなんか………足元にも及ばない位…綺麗にして、あげる」
笑顔が…
彼らの笑顔が酷く恐ろしくて私は…
「よ……宜しくお願いします…」
そう伝えるので精一杯だった。
もしかしなくても私は、相談する人を
盛大に間違えてしまったのかもしれない。
その後、クリスマス…
ルキさんとのクリスマスどうなったかは、また別の話。
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