公開告白
ぼすっ
がいんっ!
ぼふっ
がいんっ!
ごすっ!
「…………」
ヤベェ。
今、すげぇ光景を目にしてる。
今日はあの噂の聖夜ってやつ。
それにかこつけてキモチワリィカップル共が道を占領しやがるすげぇうぜぇ日。
正直こんな日、ルキに買い物頼まれなかったら絶対外には出なかったっつーの。
ひとしきり頼まれたモン買い込んで帰るかって時に見つけちまったそいつ。
てかこんなの絶対目に入っちまう。
一人の女がカップルまみれの道にいた。
けれど足がおぼつかないのかすげぇ色んなカップルにぶつかっては
その反動でふらふらとよたっては電柱や柱にぶつかり、またその反動でふらふらしてほかのカップルにぶつかるの繰り返し。
ヤベェ……コイツ、マジやべぇ。
関わり合いになってはいけない。
本能ではそんな警報をガンガン鳴らしてるのに
気が付けば俺の足はそのヤベェ女の方へと向いていた。
「おいネェちゃん大丈夫か……よ。」
「…………巨人。」
「オイなんだテメェ初対面の男捕まえてその言い草は。」
ガシリとよたよたと不安定すぎる足取りの女の腕を掴んでやればこの台詞。
ぼやーっとした目で見上げてきてソレは失礼すぎんだろ。
でも…なんだこの目。
なんか……何だろう、なんか…濁ってる?
そんな彼女の違和感を感じながら、けれど今手を離したらコイツまたバンバンと色んな所にぶつかっちまうと思ってぐっと手に力を籠めれば
そのぼんやりとした目はその腕を掴んでいた手に落とされる。
「て……おっきいね。」
「あ?そりゃぁこの図体だからな。手だって必然的に……」
「うん、この手なら大丈夫かも。」
「………っ!?」
当たり前の事を言い出したこの女に正論を返そうとしたら
ヘラリと笑うその笑顔が完全にツボって俺の心がズドンと撃ち抜かれてしまった。
なんだこの顔……可愛い。
「お、おい…オメェ名前は?」
「花子。花子っていうの。……巨人君は?」
「花子か……へぇ…花子ねぇ…って俺は巨人じゃねぇわ!!ユーマ様って言う立派な名前があるっつーだんよ!!」
「ユーマ君。ユーマ君か…ふへへ、ユーマ君。」
彼女の名を噛み締めようとしたら巨人呼ばわりそのままだったので
ムカついて即座に名乗っちまう。
……嬉しそうに名前連呼してんじゃねぇよクソ可愛い。
「あー…花子、ここ道のど真ん中だしよ。どっか移動しねぇ?言いてぇ事もあるし。」
「?いいけどもう歩くの面倒だから小脇に抱えて運んでくれる?」
「………………あ?」
もうなんかその仕草一つ一つがツボで
これも何かの縁だって思って告白を決め場所移動を提案したら返ってきたぶっ飛んだ言葉に流石の俺も固まった。
え?め、面倒だから運べ?
…コイツ何言ってんだ。
「ユーマ君、ユーマ君。だっこ。もう立てるのもめんどくさくなってきた。」
「おわああああいきなりこの場で寝ようとすんな!!スカート!!スカートなんだからパンツ見えるだろバカ花子がぁぁぁ!!!」
「いいよクリスマスの聖夜に彼女以外のパンツみたいなんて言う男いないよ大丈夫。」
「俺が!!!俺が嫌なんだっつーの!!花子のパンツ他の野郎に見せてたまるかクソがぁぁ!!!」
………………
人ゴミだってのに俺の渾身の雄たけびで静寂が走る。
お、おいバカップル共さっきまでお前らの世界に浸って移動してたじゃねぇか…
その場に立ち止まって無言で俺を見るんじゃねぇクソ恥ずかしくて死ぬ。
ブルブルと突き刺さる視線に震えながら耐えていると
既に道端で寝転がり態勢だった花子がじーっとそのぼやぼやした瞳でコチラを見つめてゆったりと口を開いた。
「……私をユーマ君の彼女にしたいの?」
「………ヨロシクオネガイシマス。」
的を得すぎたその言葉にもう乗っかるしかなくて
片言で彼女の疑問を肯定したら、その両腕はぬっとこちらへと伸ばされた。
「なら抱っこ。もう私は疲れたの。」
「…あー!クソっ何なんだよお前はよぉ!!」
そんな俺を求める両腕を照れ隠しながらぐいっと引っ張った。
これが俺と史上最高の駄目人間…花子との出会い。
今思えば彼女が差し出した腕はあそこから移動したいというだけじゃなく
俺に助けてと懇願していたのかもしれねぇ…なんて
らしくない事を静かに考えたりしている。
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