不可抗力
「れれれレイジ君私を放さないでお願い。」
ぬ
「言われなくとも今は貴女を離すなんてマネ、絶対しませんよ花子さん……ご安心を」
ぎゅうっと私を庇う様に目の前に立ってくれてるレイジ君の背中に縋って懇願する。
すると優しい微笑みと共に頼もしい言葉が返ってきて私の涙腺は思わず崩壊しそうになったけれどぐっと堪えた。
嗚呼、なんて…なんて頼りになる弟君なのだろう!!
「どけレイジ……俺は花子に用があるんだ。」
ゆらりと体を動かしながら一歩一歩とこちらに迫ってくる悪魔…
声色も空気も酷く威圧めいて泣いてしまいそうだけれど今はレイジ君の後ろから離れたくない。
「穀潰し……いいえ、シュウ。目を…目を覚ましなさいっ!!」
レイジ君の必死な叫びが部屋に響き渡る。
そう…迫る悪魔は紛れもないシュウ君。私の最愛で可愛い可愛い甘えん坊。
……しかし今は違う。
普段は眠そうなうとうとした目も今は違った意味で座っている。
「う……うぅ…シュ、シュウ君諦めてよ。……私やだよ。」
「やだ……俺は諦めないって心に決めたんだ。」
「シュウ君……」
レイジ君の後ろで震えながら彼を説得しようとするけれど
少し強めの口調で拒否されてしまいついに私の目には涙が浮かぶ。
それを見たレイジ君は申し訳なさそうに顔を歪めてしまうけれど…嗚呼、違うよレイジ君。
レイジ君は悪くない…あれは不可抗力だもの。
「レイジにパンチラ見せておきながら恋人の俺に見せないとか狡すぎるだろスカートめくれ。今すぐだ。」
「やだよおおおお!!!な、何でそんな恥ずかしい事自分でしなきゃなんないの!!あれだって不可抗力じゃん!!」
「花子さん…私が…私が貴女の下着を目撃してしまった為にこんなつらい思いを…っ!!申し訳ありません…っ!!」
「レイジ君は悪くないよ!?悪いのは北風と意地になっちゃってるシュウ君だからねっ!?」
そう、事は数分前。
ヴァンパイアの世界の城下町をシュウ君とレイジ君とで歩いていた時の事。
ちょっと作りたいお菓子があって材料を買いたいと申し出ればレイジ君が荷物持ちをと言ってくれたのでそのお言葉に甘えようとしたら
「レイジと浮気お買い物デートとかありえない」とか言っちゃうシュウ君も一緒についてきちゃったのだが…
その時、やっぱり眠かったのかうとうとよ、目を閉じながら歩いているシュウ君に苦笑しながら
手をつないで歩いていれば不意に通り抜けてしまった少し強い北風。
……そう、その時事件は起きたのだ。
その風は事もあろうに私のスカートをぶわりとめくり上げて去ってしまい。
目を開けていたレイジ君にはバッチリ私の下着を見られてしまい、目を瞑っていたシュウ君は当たり前だけれど見なかったわけで…
『ご、ごめんねレイジ君!お見苦しいものを!!』
『い、いえ…私こそ穀潰しの最愛の花子さんの下着を不可抗力とはいえ見てしまうとはその…っ』
『………………あ?』
そして今に至るのだが…
「もういいじゃない!!シュウ君もいい加減諦めてよー!!」
「ぜーったいヤダ。レイジだけが花子の下着見れて俺が見れないとかぜーったいヤダ。」
「大人げないですよシュウ!!貴方もうそろそろ下着の中も見れるでしょうに!!」
「そういう問題じゃないかな!?レイジ君!!!」
ぎゃんがぎゃんと三人でわめき散らしていれば
ぶっ飛んだ台詞を言っちゃうレイジ君に思わずツッコミを入れたけれど
そんな彼の言葉にシュウ君は一瞬静かになって、真顔でもっとぶっ飛んだことを言い出してしまった。
「モロ見えとチラリズムは違う。」
「…………じゃぁ私が自分からスカートめくり上げるのも違うよね、次の北風に期待。解散。」
彼の言葉の上げ足を取ってレイジ君の後ろでそう言えば
小さな舌打ちと尊敬のため息が聞こえた…。
そうです。私も伊達にシュウ君と長くいるわけではないのです。
彼のかわし方くらいちょっとは身に着けてますよっていうんだ!!
後日。
「ねぇ花子君…シュウが最近北風起こせって詰め寄ってくるんだけど何かあったかな?」
「…………。」
王の間でそんな相談をカールハインツさんからされて頭を抱えたのはまた別の話。
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