膨らんだ頬
「シュウさん可愛い」
「貴女の目は節穴なのですね花子さん」
「レイジ君の目が腐ってるだけでしょ?」
「は?」
「は?」
………目を開けることが出来ない。
どうするんだこれ。
いつものようにソファでうとうとしていたらいつの間にか眠っていて
なんだか突き刺さるような視線と興奮したような視線を感じて意識を現実へと戻した。
そしてうっすら目を開けたらこの状態である。
目の前には花子の悦に入った顔。
………いや、だから俺が起きてる間に近付いて来いよ何で寝てる時だけこんな至近距離なんだよ馬鹿。
以前の寝たふりした時みたいに間近にあった彼女の顔にため息を付きながらキスでもしてやりたかったけれど
もう一つの視線が気になり様子を窺えば聞き覚えのありすぎる声が聞こえて起きるに起きれなくなった。
「そもそも〜?レイジ君にシュウさんの魅力なんてわかんないもんね。こんな高尚な魅力分かるわけない。」
「こんなどこでも眠る自堕落な穀潰しの寝顔を可愛いなど仰る花子さんの美的センスを私は疑いますよ。…嗚呼、貴女は下等な人間ですからセンスも下等でしたかこれは失礼。」
「シュウさんの寝顔が下等だと言いたいの?宜しいならば戦争だ。」
「上等ですよ」
あの日以来…レイジが花子を殺そうとして失敗して以来、彼女とコイツの関係はこんな感じに落ち着いてしまった。
ひたすら俺を讃える花子と、それに真っ向から反対意見しか言わないレイジは常にいかに俺が素晴らしい存在かといかに俺がクズな存在かの意見をぶつかり合わせて
ついには取っ組み合いの喧嘩に発展しそうになるまで論争を起こす関係…
あれだ、ある意味俺の為に争わないで状態である。
「ほら見てよ!!シュウさんの寝息可愛い!!すぅ…すぅ…って守ってあげたくなる吐息だよね!!」
「人間だろうと吸血鬼だろうと誰だって肺呼吸位しますよそんなものが可愛いだなんて貴女の脳細胞は沸いておられるのですねお可哀そうに」
「シュウさんの肺呼吸はトクベツ可愛いんだってば!!」
………俺の彼女がキモチワルイ。
何だ肺呼吸が可愛いって、と言うか寝息を可愛いと言われたのは生まれて初めてだし
今回はレイジの言葉にすごく頷きたい気分だがこの険悪すぎる雰囲気の中では流石の俺でも微動だにできない怖い。
「というかこんな眠ってばかりで血は一人前に沢山吸うのですからそろそろ中年太りでも始まるでしょう。メタボリックヴァンパイアの爆誕ですね嘆かわしい。」
「……………そ、そんな事ないもん」
「おやおや、数秒の間と目逸らしですか。貴女も奥底では危惧しているのではないですか?この穀潰しの下腹部が垂れ下がるのではないかと…」
……レイジぶっ飛ばす。
得意気な弟の言葉に眠ったふりをしたまま顔面にビキリと青筋を立てた。
というか花子も花子で即答してくれよ「シュウさんは太らない」って。
何かちょっと不安になってきたじゃないか…
そんな事を考えていたら何か物音がしてすぐにゴチンと鈍い音がしたので流石に目を開けた。
するとそこに広がっていた光景に俺の胸の内は酷くもやっとしてしまう羽目になる。
「いい加減にしなさいよレイジ君。天使で妖精なシュウさんをこれ以上貶さないで」
「はぁ?私はこの穀潰しに夢を見ている花子さんに現実と言う引導を渡してやろうとしているのです寧ろ感謝なさい」
目の前に広がる光景は先ほどの最愛の顔なんかじゃなくて
その最愛がレイジとギリギリと組み手を交わしながら何度も額をごちんっごちんとぶつけて互いに鬼の形相でいるものだった。
…………なんで花子が俺よりレイジと仲悪くなってんだよ。
いや、と言うかこれはどちらかと言うと…
「そもそも目障りなんですよいつもいつも「シュウさん可愛い」「シュウさん可愛い」と嬉しそうに…見ていて虫唾が走ります」
「何よ!そんなの単なるヤキモチじゃんっ!!知らないよシュウさんが可愛いのがいけないんだよ世界の摂理だし!!」
「そんな不快な世界私が消し炭にして差し上げますよ…っ!!」
「…………」
次第にぶつかり合う額の音はでかくなってきて
両者真っ赤になりながら俺に対しての持論をぶつけまくる。
………何か、こいつら仲いい気がした。
「(…手とか組んじゃってさ)」
二人にそんな下心なんて皆無と言うか本当に戦闘態勢に入っているだけなのはわかってるけど、どうしてももやもやとしてしまう。
がしりと力強く組まれた指はいつだって俺が無理やり絡み取ってるものなのに…
「(…ていうか顔近いだっての)」
ガンガンと額をぶつけ合っているから必然的に花子とレイジの顔の距離は近いわけで
その距離だっていつだって俺が頑張って縮めている距離だってのにこんな簡単にさ…
「…………ずる」
「「!?」」
「あ」
思わず心の声を口に出してしまえばぐりんと同時にコチラを向いてしまった二人にまた間抜けな一言を発してしまった。
でも本当になんか喧嘩友達みたいで俺以上にすんなり距離が縮まっている二人を見てもやっとしてしまったのは事実。
…別に花子と恋人ではなく喧嘩友達になりたいってわけじゃないけど…うん、
「しゅ、しゅ、しゅ…シュウさん?どうしたんですかその顔可愛い写メ取っていいですかいやもう撮りましたけど」
「……こんな下らない事で嫉妬なんて、貴方女子ですか?」
にやける最愛の顔
呆れ果てている弟の顔
言葉の途中で数回カメラ機能の連写音が聞こえた気がしたが今はそんな事はどうでもいい。
「花子は俺のだろ…」
「ホラどうよレイジ君シュウさんマジ天使可愛いどうしよう近づけない崇めたい」
「はぁ…下らない。こんな情けない男が次期当主だなんて聞いてあきれますよ。」
ガクガクと足を震わせながらコチラを号泣しながら見つめてくる最愛は今日も今日とてこちらに近付いてきてはくれない。
崇めなくていいからこっち来てくれよ馬鹿。
彼女の手に持っている携帯に写る俺の顔。
ガキっぽい嫉妬に煽られて膨らんだ両頬なんて
今の俺はまだ全然気付いてはいない状態だ。
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