お人形の憂鬱


「ふふふ、花子ちゃん今日は私の選んだ洋服着てくれたんだね!嬉しい!!」


「う、うん…これ、気に入ってて…」



ぎゅうぎゅうと私の腕に抱き付いてくるユイちゃんはすっごく可愛い。
可愛いけれどこんな事したら…


嫌な予感は的中してしまい、彼女が抱き締めていない私のもう片方もぎゅうぎゅうと抱き締められる。
あの、嬉しいんです。可愛い子二人にモテモテって嬉しいんです。嬉しいですけどね…?


「ああ、でもこのアクセサリと靴は僕の選んだものですよね?花子さん…ふふ、やっぱりユイさんのセンスはどこかつめが甘いから」



「メインの洋服を選ばれなかったカナト君に言われなくない!!!」



バチバチバチ!!!
先程からもう片方の腕を抱き締めているカナト君とユイちゃんが
私を間に挟んで視線で戦争を始める。
これでも…これでもマシになった方である。


「あ、あの…今日は着れなかったけど…カナト君の選んでくれた洋服も、ユイちゃんが選んでくれた靴も…だいすき、だから」



「「ほんとう!?」」




私の言葉に同時にこちらを向いて瞳を輝かせる二人はとっても可愛らしい。
両腕は彼等によって塞がれてしまっているから代わりに感謝の気持ちを込めてぐりぐりと頭を二人の方にこすりつければ
嬉しそうな声が上がる。


「えへへ、やっぱり花子ちゃんは可愛い!だいすきっ!」



「僕の方が花子さんの事大好きですよ。ねぇ…?花子さん。僕の方がユイさんより貴女を愛してるよね?」



「私は…ふたりとも、大好きなんだけど…」




困ってしまってそう返せば、今度は二人でどれだけ私を愛しているか
どんなところが大好きかだなんてそんな恥ずかしい議題で論争が始まってしまった。
…嬉しい、嬉しいですけれど。




…ここは道路ど真ん中だって事を理解していただきたい。




「うぅ…ユイちゃんも、カナト君もやめてよ…」


「「!!!?」」


恥ずかしくて恥ずかしくて、遂に涙を零してしまえば
拘束されてしまっていた両腕は解放されて、遂に始まってしまった取っ組み合いのキャットファイト。
ああ、泣くんじゃなかった…



「ユイさん!僕の花子さんを泣かせるなんてどう言う事!?死んで詫びるべきです!!!」


「カナト君こそ私の花子ちゃんを泣かせるだなんて!!女の子は優しくされたい生き物なの!!ドS吸血鬼は引っ込んでて!!」


「僕はいつだって花子さんに優しいもの!!」


「私の方が花子ちゃんに優しい!!!」



ぎゃいぎゃいと道路の真ん中で大ゲンカの二人をオロオロと見つめている私に
周囲の疑問形の視線が突き刺さる。


そりゃそうだ、これが男女一人ずつのカップルなら単なる痴話げんかで済まされるけれど
自分で言うのも非常に恥ずかしいのだが、コレは普段から行われている私を賭けた彼等の大戦争の一コマなのだ。




ぐぅぅぅー。




そんな戦いの中響き渡ったのは私のおなかの音。
恥ずかしくでボフンと顔を赤らめてしまったけれど二人の戦いはピタリと止まり
今度は勢いよく両腕を左右に引っ張られる。



「花子さん、こっちに美味しいケーキ屋があるんです。行きましょう?」


「花子ちゃん、こっちに可愛いクレープ屋さんがあるんだよ?行こう!」



「えっと…」



「「ああもう!邪魔しないで!!!」」



私の身体は悲しい事に一つなので、このまま左右に分裂と言うわけにはいかない。
というか本当に私を大切にしているのならギリギリと両サイドに引っ張らないでほしい。


けれどやっぱり二人が私を大好きでいてくれてるのは紛れもない事実で…
どうしてこんなかわいい二人が私の事を可愛いって言いながら構ってくれるのかは分からないけれど
それは素直に嬉しいから、隠す事はしないで言いたかった感謝の言葉を口にする。



「ふたりともだいすき…ありがとう」



私のその言葉で引っ張り合う力は止まってその場にへなへなと座り込んでしまった二人を見て苦笑。
これもいつもの光景だ。



「ねぇカナト君、ユイちゃん。私も素敵なスイーツ店しってる。そっちに行こう?」



「「!うん!!」」




小さく笑って自身の行きたかった店を勧めれば素直に頷いて
また両腕を拘束されたまま動きづらいけれどよたよたと歩き始める。
結局いつもこのパターンだ。



私を巡る大戦争はいつだっておなじみの幕引きで終結してしまう。



「二人とも、私の事だいすきなんだね」



そう、いつだって完全勝者は戦いに参加していない私だ。
二人はいつだって私の事を最優先にしてくれる。
それが何だか嬉しくてくすぐったくて
いつだって私の顔は幸せで満たされる。



「だって花子ちゃんは可愛い可愛い私のお人形さんだもの!」



「ううん、僕のだよ。」



二人の好みの洋服に髪型、全部全部私を構成しているのはこの二人。
すっかり二人の好みに変えられてしまって昔の私なんてもう存在しない。
でもそれがいまは酷く心地いい。



「違うよ。私はふたりのお人形なの」



私の言葉にユイちゃんもカナト君も二人してとっても嬉しそうに微笑んだ。



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