一時休戦


「うーわー私の椅子と机が吸血鬼に超進化してるぅー」



ぎゅうぎゅう
ぐうぐう



あれ、あの私の家具ってもっとこう…無機質的な感じだったはずなんですけどね。
静かに息を吸って今世紀最大級に大きな声を張り上げた。



「お願いです!!仕事させてください!!!」



「「駄目だ」」




まさかの即答!
そして家具が喋るなコノヤロウ!!!
じたじたと暴れてみても腰に巻き付いている腕は離れないし、
膝に乗っかってる頭もどいてくれない。



「もうもうもーう!ルキ君もシュウ君も何事よ!!帰ってくるなりまさかの拘束プレイ!」



「ふぁ…花子が悪い。」



何 が だ よ !
大きなあくびをしながら私に擦り寄ってくるシュウ君は可愛いけれど
私別に悪いことしてないのになんで怒られなきゃならないんだよ。


今日だって残業して帰ってきて後は簡単な資料をまとめるだけなのにそれさえもさせてもらえる隙を与えてくれないまま
こうしてルキ君に後ろから抱き締められて、前ではシュウ君が私の膝を借りてうとうとしてしまっている。



「花子、本当に分からないのか?」


「や、うん…全くなんだけども」



ルキ君がコイツ信じられないみたいか表情で見つめてきたからちょっとだけ動揺してしまう。
え、何?私は一体この二人に何をやらかしましたか?
もし本当に何かやらかしてるんだとしたら確実に今日が私の命日だ。



逆巻と無神の長男敵に回して無事でいられる気がしない。



何だか怖くてガタガタと震えてしまえば私を抱き締めていたルキ君の腕に力が籠る。
そして耳元であの甘くて優しい特有の声。



「一週間。」



「は?何が一週間?」



ルキ君の言葉の意味が分からず首を傾げれば
今度はシュウ君がちゅっと私の太腿に唇を落としてその綺麗な瞳を伏せながら呟いた。



「花子が俺とルキを放置してもう一週間。」



「……………あ、」




シュウ君の言葉にようやく彼らが私の帰宅直後にこの拘束プレイをおっぱじめたのか理解できた。
そう言えば一週間前から仕事、残業、帰宅、お風呂、爆睡の繰り返しで
この二人とまともに会話すらしてなかったっけ…



「だ、だから今日こんなに仲良しさんなの?」



「時には休戦も必要だからな」



そう、いつだってこの二人は自分で言っちゃうのもどうかと思うけれど
私の事に関して常に喧嘩腰だ。


「俺は今日花子と一緒に寝た」「俺なんか今日花子と一緒に朝ごはん食べた」とかなんかもう訳わかんない自慢話の応酬で
しかも互いに煽り耐性皆無なので最終的には取っ組み合いのけんかになり

いつだって私がこの二名に美形の頭に
げんこつによる特大のたんこぶをつくって戦争を終結させているのだ。



…お互いそれぞれ単品ならちゃんとしたお兄ちゃんなのに、どうしてかセットになると大人げなさすぎる。



なのに今回はこうして二人で協力して私を自身の腕に閉じ込めることに成功してしまっている。
いや、仲良くしてくれるのは嬉しいし
この連係プレーマジすごいって思うけど…思うけど!!!



「でもでも私には資料整理…がぁ!?」



いきなりルキ君がそのまま後ろに倒れて、シュウ君は私を押し倒したから三人して地面にダイブだ。
一瞬何が起こったかわからなかったけれどすぐさま再びじたばたと暴れはじめる。



「はーなーせぇぇ!!仕事をさせろ!!!」


「…そんなの明日でいいだろ。一緒に寝よう?花子、」



「俺達が手伝ってやるから…な?今夜は何も考えるな、家畜」



「寝ないし!家畜じゃないし!仕事には守秘義務があるしー!!」



一つ一つに突っ込んでいれば前と後ろから呆れたような溜息が二つ。
オイ、呆れたいのは私なんだからな!!
そして同時にお約束の死刑宣告が私に降ってくる。



「「ヴァンパイアが人間の常識に捕らわれるなんて…」」



どうやら本気で今夜は仕事をさせてもらえないらしい。
それもこれも私がこんなに私を大好きな吸血鬼を一週間放置したのが悪いって言うんですか神様。
観念してシュウ君を抱き締めながらルキ君に頬擦りしてみると
二人は嬉しそうに微笑んだ。
…くそう、笑うな。惚れるだろ。




「仕方ないから今日だけ一緒に寝てあげる!今日だけだからね!!」




負け惜しみの様にそう言い捨ててぎゅっと目を瞑れば両瞼に柔らかい感触。
知ってる…ホントは只淋しかっただけじゃないって。
だってそんな子供じみた理由だけで二人はこんな事をするひとじゃないもの。



「おやすみ花子…一週間、お疲れ様」



「いい夢を…、花子」



いつだっていがみあってる二人が協力してまで私を拘束したのは
一週間がむしゃらで働き続けた私を心配してだ。
もう、だから私は本当に二人を嫌いになる事が出来ない。



「ありがとう…だいすき」



絶対に、絶対に聞こえないようにそう呟いたのに
二人がまた嬉しそうに笑うから
私も恥ずかしくてくすぐったくて彼等と一緒に微笑んだ。



たまにはこうした休戦も悪くない。



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