二人の王様
「吸血鬼と始祖の和解が出来たと思えばまた君と争う事になるとはね…滑稽な話だ」
「嗚呼、それは私も同意見だが…こればかりは引く気がないのでな」
ご機嫌に二人を探しながら廊下を歩いていると静かにそんな物騒すぎる会話が耳に入り、私の体は思わずビシリと固まってしまう。
え、うそ……カルラさんとカールハインツ様は最近和解を遂げたばかりだと言うのにまた争ってしまうの?
けれど…それにしては…
じっと扉の外から二人の様子を伺いみる。
カルラさんもカールハインツ様もそれぞれの種族の王だけれど、それ以前に個人としてとても素敵な人達で私は大好き。
そんな二人が最近長年の対立から漸く和解できたと聞いて浮かれてエデンにお邪魔すればこのありさまだ。
私みたいな一般人がその会話に入るのはおこがましいけれど
それでもまた大好きな二人の仲が険悪になってしまうのは嫌だと、部屋の扉の隙間からこっそりと様子を伺っているのだけれど
再び対立すると言う割には二人とも優雅にお茶を飲んでその表情はとても穏やかだ。
「無知故の純粋さとでも言うのだろうか…愚かで滑稽だが、何処かで救われる」
「そうだね。王と言う立場にある以上…我々の根本を見つめる者はそう存在しないから…惹かれてしまうのだろう」
………なんの話をしてるんだろう。
カルラさんが出されている紅茶を嗜みながらぽつりと何かを呟けば
それに同意したのかカールハインツ様もにこやかに微笑んで同じく出されていたハートのクッキーをつまんでご機嫌だ。
ん、あれ?
あの二人これから何かを賭けてまた対立するんじゃなかったんだろうか?
その割にはさっきから凄く表情も空気も穏やかで優しい気しかしない。
そして二人が吐き出す台詞が難しすぎて分からない。
「カールハインツ。貴様は私より長く生きているだろう…少なからずとも未熟な私にアレを受け渡してはどうだ?少々大人げがないと思うが」
「おや?誇り高き始祖王がそこまで遜るなんて…余程アレにご執心の様だ。…けれど私も長く生き過ぎているが故の孤独をアレで癒されたいね」
「王には癒しが必然なのだ。カールハインツ」
「それは私も同じだよ、カルラ」
わ、分からない……
会話がなんかレベル高すぎてよくわかんない!!
さっきから難しい単語ばかりを選んで会話をしている二人に思わずガタガタと震えながらも視線は外さない。
そ、そうだった…二人ともすごく偉い人…と言うか王様なんだから普段はこういう感じで会話するよね…
私と話してくれる時はもうちょっと砕けた感じでお話してくれるのであまり意識しなかったけれど…
そんな今更過ぎる二人の配慮に気付き、そっと感謝しながらも
ますますその会話内容が気になって少し…もう少しだけ扉を開いて一生懸命君耳を立てた。
「非凡は平凡に惹かれる…それだけではない気がするな。彼奴と過ごしていると……常に胸の奥の波が穏やかに揺れるばかりだ」
「随分と可愛らしい表現をするものだね……嗚呼、それも彼女の影響かな?全く……我々の威厳も彼女の前ではまるで無かった事になってしまうから恐ろしい」
クスクスと互いに微笑み合う彼らは本当にどこからどう見ても昔からの友人の様で…
けれど彼らは今から対立すると言うから私の頭の中は「解せぬ」でいっぱいだ。
でも……ううん、二人の難しい会話を拾い上げて回転の鈍い私なりに結論付けたのはひとつ。
カルラさんとカールハインツ様は誰かの事を話している。
そ、それ位しかわかんない!!
嗚呼、こんなんだったらもっと勉強しとけばよかった!!!国語とか!!!
自分の頭の悪さに小さく聞こえないようにため息をつけば再び彼らは口を開いた。
「まぁ私達の今までの言葉を聞いても本人は全く理解できていないようだけれどね……ふふっ」
「おい花子。貴様、いつまで私達の会話を盗み聞ぎしていれば気が済むのだ」
「!?……っと、うわぁ!?」
クスクスと悪戯に笑うカールハインツ様に続いてさっきまで穏やかな声だったのに
地を這う声色で私の名前を呼んじゃうカルラさんに思わず大げさに体を揺らしてしまう。
あれ!?これ、もしかしなくても最初からバレてたの!?
別に盗み聞きが趣味とかそういうんじゃなくて、ただ二人がまた対立しちゃいそうだったから心配で聞いちゃってたと
言い訳をしようと慌てて部屋へ足を踏み入れようとした瞬間、動揺と焦りで足がもつれて私の体は床へと一直線…
やばい、王様二人の前で格好悪くころんじゃう!!!
けれどいつまで経っても覚悟していた衝撃は訪れず、
転んじゃうのが怖くてつぶっていた目を恐る恐る開けば私の体は四つの腕によって支えられていた。
「あ、あれ?」
「全く…貴様は愚かだな。盗み聞きして慌てて入ってこようとして体制を崩し、私の手を煩わせるなど…怪我はないか?」
「本当に……私達の会話を聞いて少しは自覚してくれるかなと期待していたけれど全然わかっていないしね?…ホラ、立てるかな?」
私を転ばないように支えてくれていたのは紛れもない二種族の頂点に立つ王様で。
前半は辛辣な言葉を並べるけれど最後はこうして私を気遣ってくれる所が本当にだいすき。
「ご、ごめんなさい……あ、でも気になります。どうして二人はまた喧嘩しちゃうんですか?」
「…………………喧嘩」
「ふふ…っ!け、喧嘩だって……カルラ、私達はどうやら喧嘩をしちゃうらしいね…あはは」
まず盗み聞きしたのとこうして手を煩わせてしまった事をきっちり謝罪して
それでもやはり二人がまた仲悪くなっちゃうのはどうしても避けたかったのでストレートに聞いてみれば
カルラさんは呆れたように頭を抱え、カールハインツ様はおかしかったのか必死に笑いを堪えようとするけれど堪え切れない分が時折漏れちゃっていて私は首を傾げるしかない。
あれ、私…おかしなことを言っただろうか。
「王の愛を賭けた会話をまさか喧嘩と言う幼稚な言葉に変換されてしまうとは思わなかったぞ…花子」
「え?あ、ごめんなさ……って愛?」
「いやいや、もしかしたら案外我々の会話の根本は本当に幼稚なものなのかもしれないよ、カルラ。」
呆れかえったカルラさんから意外な単語を聞いて私の首の角度はますます深くなるけれど
ひとしきり笑ったカールハインツ様が笑いすぎて浮かんだ涙をぬぐいながら改めてコチラを見つめて微笑んだ。
「花子、私とカルラはね?花子が欲しいなぁと二人で取り合いっこをしていたんだよ。」
「ふぁ!?」
「カールハインツに貴様を私に寄越せと何度言っても聞いてはくれない。ご老体が大人げないと思わないか?」
「んぇ!?」
「いやだなカルラ。恋に大人も子供も関係ないじゃないか。私だって花子とイチャイチャしたいよ」
二人がようやく私の理解できる単語に先程までの言葉を噛み砕いてくれて漸く私は顔を真っ赤にしてしまう。
え、あのレベル高すぎる会話ってそういう事だったの!?
いやしかし今はそれよりもすごく意地悪そうな表情でコチラをみつめながらタネアカシをしてくる王様二人に
恥ずかしさと嬉しさと困惑と…後めっちゃ馬鹿にされたような悔しさでいっぱいだ。
「も、もおおお!それならそうと言って下さいよ!!!私また吸血鬼と始祖が戦争でも起こしちゃんじゃないかって心配したんですからね!!!」
「おや、これもある意味立派な私とカルラの戦争だよ?ねぇカルラ……ふふっ」
「ああ、そうだな。王が一人の女を巡って争い……いや、喧嘩をするとはなんとも……くくっ」
「あ、ちょっと!カルラさん!!からかってますね!?わ、私が喧嘩とか言っちゃったの繰り返さないでくださいよ恥ずかしい!!」
未だに私へのからかいが止まる事を知らない王様達に怒ってみるものの全く効いていない様子で
どうしてだか更に私達のいる空間は穏やかな空気へと変わる。
嗚呼、もしかしてさっき二人が言っていたことはこういう事なのかもしれないなぁ。
「さて、ひとしきり笑った所で花子。私達の気持はこういう事だからこれからは君を取り合って喧嘩、させてもらうからね?」
「私も花子……貴様だけは譲るつもりはないからな……始祖王の女になる事を覚悟しておけ」
相変わらず意地悪な表情でそう宣告されてしまって私は小さく苦笑。
きっとそれは取り合いの宣戦布告をされてしまったにもかかわらずどうしてだか二人とも私を見る目が穏やかだからだろう。
大丈夫、こうして言葉も私に合わせてくれる二人だもの…私の気持の成長、変化にだってきっと合わせて、待ってくれる。
「しりませんよ!!それより私は今仲間外れでお茶された事に傷付いてます。“三人で”お茶、させてください。」
二人の言葉にむすっと頬を膨らませてそう言えばカルラさんもカールハインツ様も互いに顔を見合わせて苦笑してしまう。
ごめんなさい。私はまだ二人とも「だいすき」なままなんです。
なのでこの気持ちがどういう形で変化するかはわかりませんが少し待ってほしいです。
「ああ、そうだな。何も急くことはない。私の時間は悠久だ…今回は花子に免じて“三人で”茶を楽しむか」
「そうだね、今日は“三人で”仲良くお茶をしようか……あ、クッキーもあるからね?」
私の言葉を真意を汲み取ってくれたのかカルラさんは右手、カールハインツ様は左手を優しく引っ張ってくれて
先程まで二人きりで楽しんでいたお茶会へ私も招待してくれる。
きっといつか……いつか左右の手のどちらかを選ぶ日が来るのだろう。
けれど今は……今はまだ、こうして偉大で意地悪で優しい王様二人と楽しくお茶がしたい。
(「それにしても貴様…あの程度の会話が理解できないとは………もっと学んだらどうだ」)
(「いやいやいやだってカルラさんさっき無知故のなんちゃらって言ってたので私はこのままでいいんですぶっちゃけ勉強めんどくさい」)
(「なんちゃら………ふふっ、カルラの言葉が変な略されたらして……ふふふっ」)
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