兄とライバルと溺愛者
僕の唯一の弟は素直じゃない。
「え、えっとスバル君…」
「あ?」
「な、なんでもない!!ごめんなさい!!」
「…………」
恐る恐るスバル君に話しかけようと試みる花子ちゃんに
いつも通り不機嫌丸だしてひとつ睨みを聞かせてしまった彼に彼女はビクリと体を揺らして一目散に退散だ…
嗚呼、だめだよスバル君…花子ちゃんは臆病なんだからね。
そんな顔しちゃ逃げちゃうの分かるでしょ?ホントに……
「(ま、さっきの「あ?」ってスバル君としては花子ちゃんに話しかけてもらって嬉しかったの「あ?」なんだろうけどね…)」
そんな彼の些細な変化に気付ける僕はやっぱり何だかんだ言って彼の兄な訳で…
それから…
「嗚呼、もう…僕ってこういうトコ、お人よしなのかもね…んふっ♪」
一目散に去っていった彼女の背中をとても悲しそうに見つめる彼をそのまま放置して自分が抜け駆けしようともどうしても思えないのはきっと
僕もスバル君と一緒で彼女への想いが本気だからだろう。
後、やっぱり不器用すぎてスタートラインにすら立つことが出来ない唯一の弟が放っておけないから。
「あー!僕だって末っ子がよかった!!」
花子ちゃんを愛しく想い始めたのはいつからかだったかなんて覚えてない。
けれどこの胸の内の想いは確かなもので…本当はなりふり構わずに、今スバル君に威圧されたと思って傷心している花子ちゃんの心の隙に付け込んでそのまま僕のモノにしちゃった方がいいんだろうけれど
何だかそれって違う気がするんだ…
逆巻でほぼ、末っ子に近いはずの僕は
唯一の弟と想い人が重なって余裕がないはずなのに、
やっぱりどうしてもこういう所ばかりはお兄ちゃんの様だ
「あっれー?スバルくーん。花子ちゃん逃げちゃったけど放っておいていいのー?んふっ♪」
「…っうるせぇよ!!」
頭の中でそんな自分の変な所お兄ちゃん気質な部分に溜息をついて
スバル君の後ろからひょっこり、いつもの飄々とした態度で登場してみれば案の定イライラ満点、殺気ムンムンの視線で射貫かれちゃう。
嗚呼、ほら花子ちゃん…これが本当の不機嫌なスバル君だよ。
さっきのは本当に空気柔らかかったでしょ?分かってあげて?
「ええー?そんな事言っちゃうの?んもー僕傷付いちゃったなぁ……このまま花子ちゃんに慰めてもらいに行っちゃおうかなー、なんてね?」
「はぁ!?なんでライトが花子に慰められに行くんだよ!!寧ろ花子が……っ」
「そうだね。本当は花子ちゃんを慰めないとね?」
わざとらしく大げさにふざけた言葉を並べるとやっぱりそれに過剰に反応してしまうスバル君は相変わらず面白いけれど
今回ばかりはこのままからかい続ける為に態々話しかけた訳じゃないから少し目を細めてお兄ちゃんからのアドバイス。
本当はこんな事する暇あるなら僕が花子ちゃんの所へ行きたいんだからね?
「花子ちゃんはスバル君の態度に怯えて傷付いちゃってるだろうなぁ…もしかしたらもう話しかけてくれないかも」
「………、ならそうすればいいだろ。花子がそうしたいってなら…別に、どうせ俺は」
「スバル君さ、今傷付いてるのは花子ちゃんだから。なんでスバル君が悲劇のヒーローぶる訳?素直にごめんなさいも出来ないの?」
少し煽って焚き付けてやろうと言葉を紡げば返ってきたのは予想外と言うか…まぁある意味予想通りの言葉でため息が出てしまう。
スバル君は僕みたいに器用な子じゃないからね…さっきみたいに不器用な態度でまた花子ちゃんを傷つける位ならこのままいっそって考え…分からなくもない。
分からなくもないけれど……
ギリリと彼の肩を掴めば痛みに少しだけ歪むその表情に
僕は目を細めたまま兄として最後のアドバイスと、ライバルとしてひとつの警告を囁いた。
ねぇスバル君……僕は君の兄であると同時にライバルであるって事も忘れないでね?
「不器用だから離れるの?スバル君はそんな簡単に花子ちゃんを諦めちゃうの?もしそうなら…………僕は彼女を簡単に怯えさせたお前を許さないよ?」
ギロリと睨みつければ滅多に見せない僕の態度に彼は本気なんだと一瞬怯んでしまうけれど
すぐに真剣な表情を見せて肩を掴んでいた手を僕なんかよりもっと強い力で引きはがして真っすぐ前を向く…
その方向はさっき彼女が怯えて逃げてしまった方向だ。
「花子に謝ってくる。後………俺はそんな簡単に諦めれる程半端な想いであいつを愛してない。」
「……さっきまで悲劇のヒーローごっこしてたくせに」
「う、うるせぇ!!!そんなの知らねぇよ!!ばーか!ライトのバーカ!!!」
何かを決心したような瞳で真っすぐ彼女が去った方向を見つめる僕の弟は
さっきみたいな彼女を怯えさせてしまう自分ならもう離れてしまった方がいいなんて後ろ向きな彼ではなくて
不器用だけれどきちんと頑張って花子ちゃんに歩み寄ろうと決心したような表情で…
あ、やばい。僕ちょっとやりすぎちゃったかもと少しだけライバルとしての後悔が胸の中で過ってしまう。
それ位今のスバル君は、一生懸命で格好良く見えたから。
「でも、僕だって今回ばっかりは傍観者のままじゃないからねー?」
彼女に「さっきはごめん」と謝る為に走り出しらスバル君の背中を見つめて聞こえないようにそう呟いた。
僕だって花子ちゃんに対しては本気なんだ。
だからちょっと決心した位のスバル君になんか負けやしない……多分きっと恐らく
「あー……お兄ちゃんとしては満点だけどコレ、ライバル的には超マイナス点だよ!!待って待ってスバル君!!僕も花子ちゃんの所に行くよ!!」
唯一の弟に対する接し方としてはきっと人間の世界的に満点で
けれどライバルを励ましちゃうだなんてそれはホントに恋の駆け引き的には言語道断な行動をしてしまったと後悔しながらも慌てて彼の後を追う。
まぁ、お兄ちゃんとして…なんて半分本当で半分嘘。
花子ちゃんを愛してるって言っておきながら
不用意に怯えさせて謝罪もせずに悲劇に浸ってるのが気に喰わなかったていうのも本音の一つ。
「さーて、漸くスバル君もスタートラインだよ。花子ちゃん…君は僕とスバル君、どっちの手を取ってくれるのかな?んふっ♪」
兄として
ライバルとして
君の溺愛者として…
色んな感情が入り乱れた胸の内を抱きながら
小さく笑って駆け足の足を速める。
さぁ、花子ちゃん……君はどちらを選んでくれるだろう
そんな事を考えながら彼に追いついた僕は
二人一緒に怯えて部屋に惹き籠った君のドアを一緒にノックする
(「花子…!さっきは悪かった……その、今度からちゃんと優しく接するから」)
(「あーん!花子ちゃんそんなまたいつ怖い態度取られるかわかんない乱暴な弟よりいつだって色んな意味で優しい僕といちゃらぶしよーよー!んふっ♪」)
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