ぶひにゃん


「おい雌豚」



「エム猫ちゃんっ」




「うるせぇ黙れ私は人間だ」




無神家にお世話になりだしてから数か月。
花子ちゃんそろそろ人間としてのアイデンティティーが崩壊一歩手前です。





「えー!?どうしたのさエム猫ちゃーん!なんで今日そんな不機嫌な訳?折角アイドルの俺が休日を利用して君を甘やかしに来てあげたのに酷くない?」



「ったく、折角畑仕事手伝わせてやろうって来ればうじうじうじうじと…雌豚通り越してナメクジかてめぇは」




「うるせぇっつってんだよ!!!なんださっきからエム猫エム猫雌豚雌豚ってぇぇ!私にはちゃんと花子って名前が……ナメクジは流石に泣くけど!?」




いきなり私の部屋に上がり込んできたかと思うとユーマ君もコウ君も相変わらずな呼び方で私を呼んじゃうものだから私はもう我慢の限界。
何だよ、豚とか猫とかさ……私はちゃんと大好きな二人を名前で呼んでるのに何か一歩通行みたいで寂しいよ。



いや、ルキ君の家畜よりかは品種を特定してもらってるだけ数段マシ……いやいや品種ってなんだ確実に無神さんのおうちに来てたら思考がそれなりにドMに調教され始めてるぞ
品種特定されていたとしてもこんな呼ばれ方酷いに決まってる気をしっかり持て花子。




ベッドに体を投げ出してぐりぐりと枕に顔を埋め不機嫌全開ですよアピールを決め込んでも
さっきからコウ君もユーマ君も猫猫豚豚煩い……ううう、そ、そっちがその気なら私だって考えがあるんだから。





「おい雌豚!!何拗ねてんのか知らねぇけどいい加減………」



「そうだよエム猫ちゃん!機嫌なおしてくんないと今度は俺達が不機嫌に」



「……ぶひにゃん」




「「ん?」」





いい加減私の不機嫌にイライラしてきたのか
二人の声色が少し低めになってきた頃合いに顔を上げ、真顔でお返事。
そっちが私の名前呼んでくんないならこっちだってそれなりの対応してやるからな覚悟しろよアイドルと農夫め。





私の独特過ぎる返事にビシリと部屋の空気が凍った気がした。










「お、おい花子……悪かったって、マジで。な?」



「ぶひーぶひぶひ…ふごっ」



「ね、ねぇ花子ちゃん……これからは俺達ちゃーんと花子ちゃんて呼ぶからさ……ね?ね?」



「ふしゃー。ゴロゴロ…ふぎっ」




「「うぅ………」」




あれから数時間、私はずっと真顔で彼らとお話している。
そう、ちゃんと雌豚とエム猫としてである。
途中でどうして私が不機嫌になっているかをコウ君が目を使って察したみたいだけれど時すでに遅しだ。
今日一日はずっとこの会話と言うか鳴き声で答えてやるんだ。
私がどれだけ悲しかったか思い知ればいい。




「ぶひー、ぶひぶひひひ…ふごー」



「花子……ほんっと悪かったって、あー…えー…野菜食うか?」



「ゆ、ユーマ君!それだけじゃ多分無理だよ!!花子ちゃーん……ええとええと、ああ!目逸らされた!!くそうっ!」



「ふしゃー…ふぎゃ…んんんに゛ゃぁぁぁ」



「ていうかさっきから思ってたけど猫なのに可愛く鳴いてくれやしない!!すっごい怒ってる!!!」




さっきまで私が不機嫌だと今度は自分らが不機嫌になるぞーとか言ってた威勢はどこへやら。
必死に私のご機嫌を取ろうとしちゃう二人にますます腹が立つ。
違うもん…こういうちやほやがされたいんじゃなくて、ちゃんと名前で呼んでほしかっただけだもん。
まぁ、今それは叶ってるんだけれど今まで我慢してきた感情が暴走して止まらないのである。




「嗚呼、こんな所に居たのか。コウ、ユーマ、家畜。夕食の時間だ」



「あ、うんありがとうルキ君。すぐ行くね?」



「はぁぁぁ!?ちょ、花子!なんで俺達のは駄目でルキはいいんだよ!!!」



「そうだよ花子ちゃん!!ルキ君の家畜呼びが一番ひどいんだからね!!」




気が付けば、もう太陽が沈みかけていて
そろそろ時間だと私達を探しに来てくれたルキ君には普通に返事をしてみれば
ぎゃんぎゃんと背後からうるさすぎる抗議が大音量で響き渡ってしまったで、手近にあった紙にきゅきゅきゅっとペンで走り書きをして二人に突き出した。
ねぇねぇ、私がどうして二人に名前で呼ばれなくてこんなに怒ってるかまだ気づてくれていないの?




「ぶひにゃん」



「「…………ふはっ」」




差し出された紙にはたった一言






『コウ君とユーマ君はトクベツにだいすきなの』





それだけ。




けれどそれを見つめた二人は数秒固まっていたけれど
すぐにとてもおかしそうに笑ってぎゅうと私を一緒に抱きしめた。





「そっかそっか…花子ちゃんは俺達がトクベツに大好きなのか……ふふっ、かーわい」



「ならどっちが花子のご機嫌を早く取り戻せるか勝負だなー…ククッ」



ぎゅうぎゅうっと抱き締める腕に力が込められて正直苦しいけれど
でも……うん、もうご機嫌はこうやって名前呼ばれてぎゅーってされたからなおってるんだけどな…と言いたいけれど
今はまだこうされていたいから…二人のエム猫兼、雌豚…もとい花子ちゃんはもう少し黙っていようと思います。





(「おい!!三人とも!!!夕食だと言っているだろ!!!!いちゃつくのはその後にしろ!!!」)



(「「「は……はいっ!!!」」」)










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