悲しいリアリスト
「私のシュウに近付かないでよ!」
「…うーわー。」
今の気分は一言で言うとドン引きである。
そして今まさに私の隣にいる噂のシュウ君の顔には青筋が。
「…誰がいつあんたのモノになったって…あぁ?」
「シュウ!どうして!?どうしてそんなオバサンなんか…!あたしの方が顔だって身体って血だってイイでしょ!?」
あ…ヤバい。シュウの眉間皺が増えた。殺気も同じく。
シュウは何故か私を貶されるのをひどく嫌う。
別にいいんだけどなぁ…本当のことだし。私は一つ溜息をついて、目の前の逆巻シュウ信者を見た。
確かに私より若いし美人だしスタイルいいよねぇ。…血は流石にどうかわかんないけどさぁ。
「仕方ない。コレはシュウがババァ趣味でブサイ専でゲテモノ食いって確定したね。」
「は…?ちょ、アンタ。」
クスクス笑いながら、彼の言葉を無視して
呆然としている彼女に微笑みかけた。
「だぁーいじょうぶ。きっと私もそのウチ捨てられるから。」
ヴァンパイアと違って人の時間は有限なのだ。
それに私は彼女の言う通りシュウより年上だし
飽きられるのも早いだろう。
「花子、俺はずっとお前を…」
「感情ってのは曖昧なのよ。特に愛なんて。まぁ、私だってシュウ位の歳の頃には永遠の愛ってものも信じてたけど…」
悲しいけれどそんなものはありはしないのだ。
現に目の前の少女だって少し前までシュウと永遠の愛を夢見たはず。それを壊したのは紛れもない彼だ。
そんな彼の愛を永遠だと信じることが出来るだろうか。
「花子…」
「まーそう言うわけだから、私がシュウに飽きられるまで待っててくれると嬉しいな、お嬢さん。」
「なっ…!」
そう言ってシュウの手を取って彼女を通り越して道を進む。
悲しいなぁ…捨てられる不安なんかちっとも感じない。もういずれそうなるのだろうと諦めてしまっている。
やがて訪れるであろうその運命に身を任せることしか術を知らない私は何と無力なのだろうか。
彼を引っ張りながら歩いていると、ピタリと足音めるから思わず躓きそうになった。
後ろを振り返ると何故か悲しそうな彼の顔。
「シュウ?どうし…って、痛いんですけど。」
無言で強く強く抱き締めて来たシュウに抗議の声を漏らすが全く聞き入れてもらえずその力は更にきつくなる。
「ちょ、マジ…痛い、から…シュウ!」
「…あんたが、」
小さなリップ音が聞こえたかと思うと気付いたらキスをされていて、私は驚きで瞳を見開いた。
「あんたが【永遠の愛】とやらを信じる事が出来ないなら俺が信じさせてやるよ。」
嗚呼、どうして。
どうして声は自身に満ち溢れているのに、その瞳は悲しそうで切ないの。
ねぇ、無理よ。
永遠の愛だなんて、そんなもの信じる夢見る乙女じゃないの。
けれど、そんな事言えるわけがない。
だってシュウは今にも泣きそうだもの。
「だったら頑張ってごらんなさいよ、シュウ。」
「………うん。」
再び重ねられた唇はどうしようもなく悲しくて冷たかった
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