仲直り〜カナト君の場合〜
「ふふ、今日も可愛いね。テディ」
「………」
「ああ、おなかすいちゃったね、何か食べようか」
「………あの、」
「あれ、何か聞こえた?気のせいかなぁ。気のせいだよね…ふふ、」
「………ええと、」
間違いやすいけれど今僕のテディにニコニコと話しかけているのは僕ではない。
僕の恋人の花子さんだ。
そして先程の戸惑いのつぶやきが僕だ。
始まりは些細な事だった。
僕がいつも通り自分で言うものなんだけれど理不尽な要求を彼女に沢山して、彼女もいつも通りそれに対してニコニコと微笑みながら答えていた。
それがまずかったんだと…思う。
突然、本当に突然何かがブツンと切れる音がしたんだ。それからここ数日花子さんは僕じゃなくてずーっとテディに話しかけている。
悲し過ぎることに僕の存在は完璧に無視だ。
「花子さん…」
「あれ、テディ何か言った?」
「花子、さん」
「あー、悲しいなぁ。私テディとお話したいよー。」
「………ぐす、」
ひどい。あんまりだ。
こんなにも彼女に無視されるのが悲しいだなんて思わなかった。
こんなにも彼女がだいすきだなんて思わなかった。
僕は抱き締めていたテディを放り投げて
ぎゅっと花子さんを抱き締めた。
「あれー?テディって飛べるんだぁ。」
「花子さん!」
大きな声で力いっぱい彼女の名前を叫んで
抱き締める腕に力を込める。
もうお願い、僕を無視しないで。やだよ。こんなのいやだ。
「ごめんなさい…もう我儘言いません…ごめんなさい…ごめんなさい」
何度も何度も花子さんにごめんなさいって言うと僕の背中に暖かい腕がぎゅっと絡みついてきて、それが数日振りの彼女のものだと確信すると今度は嬉しくて涙があふれる。
「ふふ、私もごめんねカナト君。だいすきだよ」
「僕の方がだいすきだよ…」
ごめんなさい、だいすき
もう絶対君を困らせたりなんかしないからね。
心の中でそう決意して、数日振りに彼女の唇に噛み付いた。
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