仲直り〜スバル君の場合〜
「な…ない…!」
俺は愕然と自身の部屋の前で立ち尽くす。
ない…ないのだ…!俺の…俺の!
「俺の棺桶ー!」
「ふふふ…スバル君の棺桶は私が預かった!返してほしくば私の部屋までやってくることだな!さぁ、行け!アヤト君!」
「おっし!しっかり捕まってろよー!?」
「うおおおお!花子テメェこの野郎!!」
俺の断末魔が響き渡れば背後から得意気な花子の声。
振り返ってみるとなんとも言えないドヤ顔でアヤトに肩車されながら先程の台詞だ。
馬鹿だ馬鹿だと思ってたがここまで馬鹿だったのかコイツ。
取りあえずひっつかまえてどういうことか説明させようとしたのだが、アヤトの野郎がすげぇ速さで花子を担いだままアイツの部屋へダッシュしたもんだから俺もそれに続いて全力で追いかける。
く、くそっ…は、はえぇ!
必死に追いかけてようやく花子の部屋に辿り着けば突然閉められた扉。
そして無機質なガチャリという音。あれ、これもしかしなくても…
部屋の外からアヤトのヤツの笑い声が聞こえる。くそ、やられた!
「おい花子…どういうことだ。ああ?」
ガシィっと頭を掴んで宙ぶらりんにしてやっても相変わらずの不敵な笑みを浮かべる花子に更にイライラする。
チラリと横目で本当に花子の部屋にあった俺の棺桶を見て溜息をつく。
一体何だってんだ…
「だってさぁ、スバル君私と寝たいのかなぁって。」
「は?んだよソレ。」
「コレ。」
ペラリと見せられた紙切れに俺の顔面はいきなりぼふんと音を立てて沸騰する。
い、いつの間にコイツ…!
「ち、ちが…それは、その…ちがう。」
「私の写真と寝る位なら私と寝てよ!」
唇を尖らせてぶーぶーと文句を言う花子の声とかもう聞こえない。
もう恥ずかし過ぎてどうにかなりそうだ。
つーかしにてぇ。
「だーかーらー!大切な棺桶を人質に取ってスバル君をおびき寄せたのだよむふふ。」
「ちょ、ちょ…!ぅおわ!」
じたばた、びちびち魚みてぇに動き回って俺の手から逃れた花子はそのまま俺を彼女のベッドへと押し倒す。
全身がふわりと花子の香りに包まれて赤かった顔は更に赤くなる。
「ねぇねぇ、スバル君どっちがいーい?」
「な、なに…が、」
くっそもうこんな嬉しそうな顔されちゃ怒る気にもなんねぇ。
つかさっきから全身の体温が異常に高い気がする。くっそ!
「私のベッドで一緒に寝るのと…スバル君の棺桶で一緒に寝るの。どっち?」
そんな花子にでかい溜息を一つ吐いてがばりと抱き付いて小さな声で答えた。
「…ベッド」
別に、花子の顔をちゃんと見てたいとか
別に、花子の香りに包まれてたいとか
決して、断じて思ってない。思ってないからな!
(「ところで、どうやってアヤトを手懐けたんだよ」)
(「たこやきで…逆巻アヤト、安い男よ…ふふ」)
(「やめてやれよ、流石に可哀想だろ」)
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