仲直り〜アズサ君の場合〜


どうして
どうして
どうして


貴方なら分かってくれると思ってたのに。


「ねぇ花子、どうしてこんな事するの。」


怖い。
アズサ君が凄く怒ってる。
彼の手にはナイフの刃。強く握りしめているからボタボタと血が流れている。
そのナイフは先程まで私が自身を切り刻んでいたものだ。


どうして?
アズサ君だって私と同じじゃない。
アズサ君なら私の気持ちわかってくれると思ったのに
何でそんなに怒ってるの、どうしてそんなにたくさん涙を零しているの?


カランと、金属音がしたと思えば
細くしなやかな腕が私を包み込んでいて、柔らかい香りに思わず目を細める。

ひっくひっくと声を殺して泣いているのは私ではない。アズサ君で
何度も何度も大好きなその声で私を呼んでくれる。


「アズサ君、」


「ああ、わかったよ…ルキもコウもユーマも、俺が自分を傷つけたとき、こんな気持ちだったんだ…」


震える声でうわ言の様に言うアズサ君が私には理解できない。
それってどんな気持ち?泣いちゃうほど悲しいの?

傷だらけの私の体を優しく撫でてその傷一つ一つに唇を落としていく。
その度にピリッとした痛みが走り何度も身体を揺らしてしまう。


「ねぇ、花子。今この瞬間から、俺が君の存在証明になるよ。」


「アズサ君が…?」


首を傾げて尋ねるとアズサ君は優しくニッコリ笑ってくれた。
ああ、私は彼のこの笑顔がだいすき。
そして未だに傷がついていない首をなぞられて小さな声で啼いてしまう。


「これからは花子を傷付けていいのは俺の牙だけ…他は認めない…例え花子本人でも」


やさしい…
優しいはずなのに有無を言わさない絶対的支配者のような囁き。
「ね?」と首筋に舌を這わせられればもう、私に拒否権なんかなくて


「あ、」


ゆっくり、いたぶるように入って来た牙に私は只々はしたなく喘ぐしかなかったのだ。


相互理解を求めていたのに
気が付けば私は否定され、そしてこうして貴方に支配される。



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