オカシイ愛
「愛している」
彼は私にそう言う。
けれど私は喜びも、怒りもしない。
只々呆れるだけだ。
「ねぇ、シュウは牛とか豚にも愛を囁くわけ?」
「花子、」
優しく抱き締められてしまうけれど、抱き返すことはしない。
だって彼は捕食者であって、私は餌だ。
恋人の真似事だなんておかしいだろう。
「愛玩するのなら分かるけれど、愛を囁くのはいただけないわ。」
「どうして…俺はこんなにも、」
「シュウ」
彼を咎める様に大きな声で名前を呼ぶとビクリと揺れる身体。
どうやら彼は愛というモノを勘違いしているようで、ペットやソレに対すると愛情と生涯を共にする者に抱く感情をごちゃまぜにしている。
でなければ餌に愛を囁くだなんて異常な事する訳がないもの。
「愛玩と愛情は違うのよ。」
「黙って、」
もうそれ以上は聞きたくないと言わんばかりに私に噛み付くようなキス。
嗚呼、だからこういうのは餌にする事ではないだと何度言えばわかるのだろうか。
ちゅ、っと触れるだけの口付けの後に優しく頬を撫でる彼の瞳は悲しみで濡れていて
私は深い溜息を吐く。
「ねぇ、分かってる?シュウ、異常よ。食べ物に愛情を抱くなんて。」
「花子を愛せるなら異常だろうが何だろうがどうだっていい…」
おかしい、こんなのおかし過ぎる。
彼が私を愛すると言う事は、私達人間が鶏や豚などの家畜を愛すると言う事だ。
そんなの傍から見ればどう考えても異常な光景で…
けれど彼はそれでもいいと言う。彼は本格的に狂ってしまっているのだろうか…。
「花子、愛してる…愛してるんだ」
悲痛な彼の告白に酷く顔を歪めてしまう。
仮に餌から格上げされたとしても精々ペットの立ち位置までだ。
人間と吸血鬼が対等になれるわけがない。
永遠を生きる彼等と有限を生きる私達とはそもそもの造りが違うのだから。
「どうせ私が死ねば次の愛玩に愛を囁くクセに。」
吐き捨てればまた塞がれる唇。
嗚呼もう、覚醒さえも出来ない只の餌にこんな優しいキスしないで
選ばれた人間ではないのだ、私は。
「大丈夫、花子が死んだら俺も死んでやるから」
「意味が分からないわ。」
徐に手を取られ、何度も掌に唇を落とす彼の行為がくすぐったくて身を捩る。
けれどシュウは離してはくれない。
絶対的なその力で私を押さえつける。
「花子いない世界は意味がない…俺の愛は永遠にお前のものだよ。」
だからどうか俺の愛を受け入れて
そう呟きながらまた掌にキス。
そんなに懇願しないでよ馬鹿。
貴方の異常な愛を受け入れろと?只の餌である私に?無茶を言わないでよ。
「シュウ、おかしいわよ。こんなの、」
「お前がどう思うがそんなのどうだっていいさ。俺の気持ちは俺が決めるんだ」
そう言って落とされた三度目のキスは深くて熱くて
私はもう降参だと、白旗を上げて彼のオカシイ愛に身を任せるように瞳を閉じた。
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