永遠の夢
「嗚呼、とても綺麗だな。」
「それは私が?それともこの雪が?」
意地悪く聞いてみればルキは困ったように微笑んで優しく私の頭を撫でた。
舞い降りる雪たちはとても静かで、辺りにはルキと私以外の音はない。
まるで初めからそれ以外は存在していないかのようだ。
真っ白な世界での彼はひときわ目立つ。
真っ黒な髪と瞳。
そして同じく夜空のような漆黒のタキシード。
対象に私は純白のドレスに身を包んでいる。愛おしい彼が選んでくれた最初で最後のプレゼントだ。
「…後悔はしていないのか?」
「後悔できないように躾けたのはルキでしょう?」
不安げに私を覗き込むものだから、小さく笑って額を弾く。
するとぎゅっと瞳を一瞬瞑って、「嗚呼、そうだった」と彼も楽しげに笑う。
そして冷たく大きな手を私の前に差し出して、甘い声で私の名を呼ぶのだ。
「行こうか…花子、」
「うん」
その手を戸惑う事無く取れば嬉しそうに「ありがとう」と囁かれた。
彼に感謝の言葉を言われるだなんて思ってもみなかったなぁ。
ゆっくり、ゆっくりと一歩一歩を踏み出す。
新雪に刻まれるのは私とルキの足跡だけ。
嗚呼、きっとこの跡さえも時間が経てばすべてなかったことになるのだろう。
「愛してる、花子…今までも、これからも…」
「嬉しいな…ルキに愛されて私は幸せだね」
愛おしい愛の言葉に冷えていく身体とは裏腹に込み上げてくる熱い気持ち。
そんな気持ちで胸を一杯にして嬉しくて嬉しくて顔を緩ませてしまう。
「そんな愛らしい顔をして俺を困らせないでくれないか。」
「ならルキもそんな愛おしい顔をしないで。私も困ってしまうわ。」
お互いにクスクス笑えば、その小さな笑い声さえもこの世界には良く響いて
此処だけ世界と切り離された箱庭のようだなぁなんて乙女チックな事を考えてしまう。
ドサリと白銀世界に二人で身体を放り投げればもう後は何も聞こえない。
只々絡められる指先に愛おしさを込めて唇を落とすだけだ。
「真っ黒なルキに白い雪…ふふ、綺麗…」
「俺に綺麗とは…花子位だな…そんな事を言うのは」
絡められた指を解かれ多かと思えば今度はその指で私の髪を弄ぶ。
ゆっくり、愛おしげに何度も何度も…確かめる様に。
「花子…すまない。お前を愛してしまって…」
悲しげなその言葉と一緒に零れた彼の涙。
嗚呼、掬ってあげたいけれど生憎もう手は動かすことができない。
代わりに今まで生きてきた中で一番の笑顔を彼に送る。
「ねぇ、ルキ…さっきも言ったけれど、私は貴方に愛されて幸せよ…しあわせだった…」
「花子…」
微睡む意識の中、出来るだけ長くルキを見つめていたくて一生懸命瞳を開ける。
最後の最期まで愛おしい貴方の姿を焼き付けておきたいの。
「病める時も健やかなるときも…貴方を愛すると誓うわ。」
「死が二人を別つまで…か?」
「いいえ…」
降り積もる雪。
動かない身体。
遠ざかる意識。
もう動かなくなってしまったルキの手の重みに心地よさを感じながら
小さく、小さく囁いた。
「“死”なんかが私達を別つことなんてできないわ。」
「そう…だ、な…」
ほっとしたような彼の顔に思わず笑み。
大丈夫。ルキを独りになんてしないわ。
ずっとずっと、永遠に一緒よ。
「さぁ、もう眠りましょう?」
「嗚呼、そうだな…おやすみ、花子」
互いにゆっくりと瞳を閉じて
静かな世界に身体と命を投げ出した。
『きっとまた、来世で』
真っ白なヴァージンロードを二人で歩いて
この先の永遠へと夢を見る。
もう誰にも邪魔をされない二人だけの理想郷。
私達の亡骸を包み込む雪達だけが
静かに、冷たく、愛おしげに祝福してくれた。
さようなら、次の世界でもきっと私を愛してね?
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