愛とは滑稽なモノ
「嗚呼、花子…やはり今日も麗しい…今す
ぐここで抱いてしまいたいよ」
「だったら抱けばいいのに。相変わらず口だけなのですね。」
私の言葉に黒いドレスを身に纏った彼女がそっけなく返す。
この私にそのような態度を取って未だに生きていられるのは彼女位だろう。
彼女は、花子は聡明で淫らで無垢である。
故に世間に馴染むことが出来ずに心を壊してしまった愛おしき薔薇。
このまま体を掻き抱いて心を壊してしまえば私のモノになっただろうに
彼女は出会った時点で壊れていたのだからもう壊しようがない。
「ルキが私に言うんです、愛してるって…」
「ほう…」
「愛だなんて只の性欲を美しく人間が変換しただけの単語なのに…」
瞳が揺れる。
愛を誰よりも信じていないくせに誰よりも愛に飢えている
矛盾した気持ちが葛藤しているのだろうか。
そんな酷く脆くて儚げな彼女が愛おしくて仕方ない。
「では、ルキはキミを抱いたのかな?」
「…いいえ、だから分からないんです。」
『彼の言う愛が』
されるがままの彼女の髪を自身の手で纏め上げ、首輪の代わりにネックレス、手錠の代わりにブレスレットをはめていく。
嗚呼、やはりどのような装飾品も君の前では霞んでしまう。
「ふふ…ルキは本当にキミを愛しているんだね。」
彼が穢した後も、吸血した後もない綺麗な体をそっとなぞって微笑むと、彼女は困惑の色を隠さないでいた。
「抱く価値も、血の価値もない人間を置くメリットなんてあるのでしょうか?」
彼女は重大な勘違いをしている。
ルキも相当大変だろう。
彼女の体は本当に男を誘うソレだ。そして血は溢れていないにもかかわらず甘美な香りを纏っている。
きっと我が息子たちならばすぐにでも辱め、血を啜っていることだろう。
それを行わないルキは相当強固な理性を持ち合わせているのか…
そして彼をそうさせる理由は紛れもない―
「やはり愛ではないだろうか」
最後の仕上げにと、跪いて足枷の代わりにヒールの高い靴を履かせる。
その前に一つ爪先に口付けを落とすとピクリと反応する身体と甘い声。
「嗚呼、そんな声で啼かないでおくれ。折角着せた衣装を台無しにしてしまう。」
今ここで犯して、愛して、孕ませてしまえと本能が叫ぶ。
身体も、声も、血も、全てが甘い菓子のようなこの娘を…
けれどもうこれ以上彼女自身に価値を見失ってもらいたくはないのも事実なのだ。
故に私はせめてこれから彼女が出会う全てに愛と幸福がありますようにと額に口付けを落とす。
「せめてこれくらいはさせておくれ。私の愛しき薔薇。」
そう微笑むと、彼女はその愛しい顔で困ったように微笑んだ。
嗚呼、この私を惑わせるのだからこの人間は本当に腹が立つほど愛おしい。
「さぁ、お手をどうぞ?可憐な姫君よ。」
「流石に女性の扱いは慣れてらっしゃるのね。」
そう言いながらもおとなしく私の手を取る彼女はきっとこの扉の先にいるヴァンパイア達よりも美しい。
嗚呼、やはり私だけのものにしてしまいたいよ花子。
「…どうかされましたか?カールハインツ様」
そんな私を不安げに覗き込むものだから
私は安心させるように、そっと彼女の頭を撫でた。
「なに、只私も君を愛してしまったのだなと思っただけさ。」
欲しいのならば無理やりにでも奪えばいいだけの話だというのにそれが出来ずにいるのは
やはり私もルキ同様彼女を愛してしまった証拠なのだろう。
「ふふ…愛とは実に滑稽なものだね。」
私のそのような独り言は誰に拾われるわけでもなくこの漆黒の闇に溶けて消えた。
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