崇拝者


ちゅ、ちゅ、ちゅ


ぼんやりとそんな可愛らしい音を聞いていると
ぐっと首に圧迫感。
反射的にひゅっと喉を鳴らすと楽しそうに笑う私の存在意義。


「俺を前にして何か考え事?」

「…っ、ぁ…」


苦しくて必死に首を横に振るとようやく解放されてげほげほ咳込めばふさがれる唇。
卑猥な水音だけが響いて大して働かない私の頭は更に甘く痺れてしまう。


「只でさえ足りない頭なんだ…俺の事だけ考えてろ」


ぐいっと髪を引っ張られて暗示の様に囁かれれば私は只々頷くしかできない。
それに満足したのか彼はニッコリ微笑んで再び私の足を持ち上げる。


彼は執拗なまでに爪先に唇を落とす。
私が無知だと思い込んだ哀れで愛おしい吸血鬼。


「ホラ、名前呼べよ。…俺を求めろ、花子。」


有無を言わせない命令なのに瞳は懇願しているのを私は知っている。


愛して、求めて、許して、認めて


けれど私は知らないふり。
貴方の前で馬鹿で愚かな人間を演じるのだ。
そうすればほら…


「シュウ…シュウ…」


いとも簡単に貴方の優越感は満たされてしまう。


「はは…っ、哀れだなぁ…花子」


嗚呼、またソコにキス。
哀れなのはどっちだ。


「お前は俺の事だけ考えて、俺の味だけ覚えてればいい…他は何もいらないだろ?」


「うん…いらない。いらない…」


わらう、笑う、嗤う
私の答えに貴方はわらう。


「なぁ、花子。俺が好きだよな?」


「すき、スキ…好き」


私は見逃さない。
一瞬、ホント一瞬だけ見せる貴方のそのほっとした表情を。
どうしようもなく依存してしまっているのはどちらだろうか…


「あいしてる、シュウ」


爪先にキスをする貴方が誰よりも愛おしいよ


そう囁けば見開かれた瞳。
ニヤリと口角を上げて呆然とした唇に噛み付く。ようこそ、私の底なし沼へ。



知ってたよ、爪先のキスが『崇拝』ってことくらい



ねぇ、餌を崇め奉る気分はどんな感じ?


彼の首に両腕を絡めてシーツの海へと引き摺り込めば
声をあげて嗤ってやった。
愚かなのも、哀れなのも、滑稽なのもどっちかなぁ



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