恋する乙女ババァ


「おやおや、この程度で動揺するなど…レイジもまだまだ子供というわけか」



「……っ、この程度とは……次は負けませんよ花子さん…っ!」




「やめとけレイジ……花子のチェスの腕は本物だ……また罰ゲームで髪の毛滅茶苦茶にされるぞ…」




「………」



むかつく




俺は今棺桶の中からこっそりばれないように外の様子を伺っている
目の前にはむかつく認めたくねぇけど兄貴が二人
一人は椅子に座りつつもう一人の野郎の惨状を見つめ珍しくも目を開けてクツクツと喉で笑ってやがる
もう一人はその惨状の人物……いつもきっちり整っているはずの頭は無残にもボサボサで心なしか愛用のメガメもずれてる気がする…




そして




「まぁ愛しのスバルの兄なのだから多少加減してやってもかまわないのだが……それはきっとレイジのプライドが許さないのだろう?」




「当たり前です。貴女が望んだ親睦会にわざわざ付き合って差し上げているのに更に手加減などコケにされてはたまらない…もうひと勝負です」




「ったく、どーせまた罰ゲームで頭好き放題撫でられるのがオチだっていうのにレイジは懲りないな」





そんな彼らの前に優雅に座りながらもチェスのクイーンの駒をコロコロと手のひらで転がし微笑んでいるのは俺の最愛、花子…
もともと俺の婚約者にも拘わらずお試し期間として逆巻邸に転がり込んで
いとも簡単に俺の心を奪ったクソババァ……




「………………」




未だに俺の視線に気づいていないであろうその三人の様子を棺桶から睨みながらも小さく舌打ち
クソ…………三人そろってクスクスクスクス楽しそうにしやがって。




俺と花子が晴れて公式に婚約という形となってからしばらくして
あのクソババァが「スバルと新婚になるには他の兄弟とも仲良くしないとな」なんて言い出して今の現状だ。
仲良くっつったって俺ら本人同士が最高に仲悪いのにどうして花子が他の野郎と仲良くしなきゃなんねーのか全く意味が分かんねぇと叫んでみても
花子は一度言い出したら聞かない……結局俺の喚きは盛大に無視されて今こうしてまず長男と次男との親睦会が開かれてるわけだが…





「…………にしても、」





ちらりとレイジの頭を見れば今までずっとイライラしてた気持ちが一瞬消えて思わず吹き出してしまいそうになる
今回の親睦会を持ち出した花子に向けて承諾の代償として奴らが提案したのがチェス勝負を親睦会とし、負けたら勝者命令を罰ゲームとして叶えるってやつだったらしい




そんなもん、チェスが得意なレイジと何でもかんでも本気出したらスゲェシュウの事だ
花子をコテンパンに負かして血でも貪るんじゃねぇのかと大反対したけれど
結果は俺の心配は全く持って無駄なもの…





連戦連勝な花子は無傷で未だ余裕な笑み
最初彼女に勝負を挑んだシュウも連敗で短いその髪には可愛らしいリンゴのリボン
もちろん花子の仕業だ。
シュウはその時点で叶わないと察したのか早々に傍観側へと転じたが無駄にプライドの高いレイジはもう何度花子に負けたのかはわからない
さっきから負ける度に撫でまわされてなんかもう見てるこっちが哀れに思えるくらいボロボロだ…




そんな状況を改めて認識すれば先ほどまで収まっていたイライラはいとも簡単に復活してしまう…
だって花子は他の誰の物でもねぇ………俺のモノなはずなのに




「おやおや、このままではまた私が勝ってしまうよ?ほうら……チェックメイトだ」



「く……っ、こ、これ以上撫でられてはたまりませんよ…!!」





花子は俺のモノ……なのに今の彼女は俺の兄達を好き放題してとても楽しそうだ
それに……そいつらも、なんか楽しそうで……



ギリリと棺桶の端を握る手に力が入っちまう




やっぱ花子は一番餓鬼な末っ子の俺より少しでも年の近いあいつらと一緒の方が楽しいのかよ…
旗から見たら大成功な親睦会に、花子の望む結果になったんだから喜んでやりゃいいのに
胸の内のガキっぽい独占欲がそれをよしとしない




ああ、俺って本当にお子様なんだな…




そんな事を自覚しちまって、でもそれを抑える術を知らなくて
ぽつり…遂に俺の胸の内の感情が小さく言葉にして口から零れ落ちてしまった





「花子、俺のだっつーの」




「!」




瞬間、さっきまでレイジとシュウと楽しそうに親睦深めてやがったババァがすごい勢いでこっち向いたと思ったら
その眉は情けなくはの字に下がってぷるぷると震えながらその目が涙目になっちまって
あ、ヤベェ事いったと後悔しても、もう後の祭りだ





「す……すばるぅ」




「ち!ちげぇ!!べ、別にヤキモチなんて妬いてね……あっ!!」




「スバル、私にヤキモチ妬いてくれていたのか?そんな、私の心は既にスバルの物だというのになんて愛しい子なんだろう」




「っだぁぁぁぁ!!!ちげぇつってんだろ調子乗んなババァ!!!うおおおお!!棺桶に入ってくんなせめぇ!!!」




ふいに出した餓鬼な嫉妬と独占欲
こんなもん、言葉に出しちまったらこうなるのくらい分かりきってたのに出しちまった数秒前の俺をぶん殴りてぇ
もう花子は俺の言葉に親睦会なんてほったらかしてぐいぐいと俺の棺桶へと入ってこようとする
おい!シュウ、レイジ!!笑ってないで止めろ!!!と目線で合図しても二人は笑って花子の背中を見つめるばかりだ




「レイジ!!シュウ!!私は急用ができた!!親睦会はまた今度だ、今はスバルを愛でるのに忙しい!!!」




「はぁ!?ちょ、おまっ、愛でるって俺が愛でる側だろうがバカ花子!!」




「スバル…っ、いつも素直じゃないお前が私を愛したい等……ああ、明日はきっと槍が降る…カールハインツに対処を申請しておこうな!!」



「テメェェ!!どういう意味……ちょ、マジで入ってくる気かお前せめぇって…うおおおお!!!」






彼女の最高に自己中心的な意見により親睦会はあっという間にお開きとなり
そのままレイジもシュウも互いに顔を見合わせてパクパクと「お幸せに」と口を動かしてどこかに去っちまったが…
おい!花子との親睦のついでにお前らの親睦も深まってねぇか!?と突っ込みたかったが今はそれどころじゃない。




「花子!!お前大人のくせにちょっとヤキモチ妬いただけで調子乗るな!!落ち着け!!!」




「いやだよ!私はババァだけれどスバルの前では恋する少女なんだ落ち着かない!!!」





今はこの最高に年上なくせに
俺の言動ひとつで一喜一憂が激しすぎる年齢クソババァ、精神年齢自称恋する乙女をどうにかする事が優先のようだ




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