月が綺麗ですね
「ヴァンパイアである俺達とお月見とかなんてチャレンジャーなんだって思ったけどそっか、別に十五夜が満月とは限らないんだね」
「ま、俺としては月見るよりこの団子を食えれば……ってあ?なんで俺の団子みんなよりでかくなっちまうんだ」
「ふふ………花子と、お月見………楽しみだね……折角だから七味とタバスコ……入れて……」
「おいアズサ、自分のものに入れるのは構わないが花子や俺達の分には入れるなよ?月見がロシアンルーレットになる」
各々思い思いに言葉を紡ぎながらも広い筈のキッチンにぎゅうぎゅう詰めになって
コロコロと生地を丸く形成していって私はこっそり静かに笑みを浮かべる。
9月15日。
そういえば今日は十五夜でお月見をする人達が多い筈だけど
私の最愛も、仲良くしてくれている人も月に影響を受けやすい吸血鬼さんばかりなので
きっとこの行事は一緒になんて難しいだろうと思っていた。
特に最愛、ルキさんはありがたいことに酷く私に気を使ってくれるから
恋仲になった今でも吸血は酷く渇いた時だけ、それもあまり痛くないようにと配慮をしながら吸ってくれるようなひとだから
きっと満月の十五夜なんて絶対にルキさんや他の弟さん達と過ごしてみたいだなんて言ってみても大反対されるのは目に見えていた
「あ、嘘……満月じゃないんだ」
そんな事を考えながら何気なく携帯で15日の月の様子を調べてみれば判明した事実。
満月に近い事には変わりはないけれど、それでもそうでないならと
断られてしまうのを大前提にルキさんに一度お願いしようとその足をまっすぐ無神家に向けたのだ。
だって私達、今思えばあまり穏やかに月を眺めたことなんてなかった気がして……
だから、一度でいいからルキさんと…それにいつもお世話になっている弟さん達とゆっくり眺めてみたいと思っていたのだ
なんて………昔の自分からは本当に考えられないくらい、自身の願いが溢れてしまって止めることが出来なかった。
「けれどまさかこうして月見団子まで作ることになるなんて思ってませんでした」
「どうせするなら徹底的に、だ。それに……」
あの後すぐに無神家に向かってルキさん達にその事を話してみれば即座に返ってきたイエスの言葉
こうして自身の願いが受け入れられるという事は本当に嬉しいし、でも甘えてしまっていいものかという葛藤もあったけれど
本当にいいのかと確認を取る前にぐいぐいと彼らに背中を押され、どうせならとショッピングモールで月見団子の材料を買いに出かけたのだった
私としては只、皆さんと月をぼんやりと眺めるつもりで提案したのだけれど
此処まで本格的になるとは思ってなかったので小さく苦笑を漏らせば隣で基本的な生地を作ってくれて、
今は手際よく形の綺麗な団子を作っていっているルキさんが穏やかな声色で視線を弟さん達へと向けたので私もそれに習って彼らを見つめる
「ほら!みてみてユーマ君!!ネコちゃん団子ー!!!可愛いでしょ?」
「ああ?んなもん湯に通した時に耳絶対取れ……ってくそっ、なんで俺の団子だけ野球ボール位の大きさに……っておいアズサなんだその真っ赤な球体は!!」
「これが……七味団子……これが、タバスコ………そしてこれがハバネロで……これはデスソース」
「まってまってまってアズサ君もうなんか最後の調味料は名前に死が入ってるよ?いくら死が祝祭でも俺月見団子食べて死亡は絶対嫌だからね」
三者三様に個性的すぎるお団子を作ってとても楽しそうな彼らの光景がそこには広がっていて
男性4人と女の私一人が調理するには少しばかり狭いこのキッチンもなんだか少しばかり温かく感じてしまうから
嗚呼、思い切ってルキさん達に自身の我儘をぶつけて良かったのだと少しばかり胸が軽くなって彼の隣で小さく微笑みを浮かべた。
「っわー!!!満月じゃないけどお月様キレーだねぇ……んん、吸血衝動は今夜だけは抑えないとねっ」
「嗚呼、お前たち…満月が近いからと言って花子に何かしてみろそれこそ調教のし直しだ」
「………さらっと怖え事言ってんじゃねぇよルキ。つか俺らも流石に花子には手ぇださねーっつーの」
あれからそれぞれいろんな形を作って最後の仕上げはルキさんにお任せして今はバルコニーでささやかなお月見パーティを開催している
コウさんの作った可愛らしい形のお団子は単純なものはそのままの形で仕上げられてるけれど
少し細かい形成はやっぱり型崩れしちゃっててちょっぴりもったいないなぁなんて思ってしまう
ユーマさんの作ったお団子は本当になんというか豪快で……
お団子というよりかはもはやボールというくらいが正しいかもしれないけれど、ユーマさんは手が大きいから仕方ないのかもしれない
アズサさんのお団子は形こそとても綺麗だけれどすべてが真っ赤で
その色の濃さからどれが人体にとって危険レベルなのかもよくよくわかってしまい先ほど一つ勧められたけれどルキさんが全力でかばってくれたのは感謝したい
互いに作ったお団子の味を楽しんでいる弟さん達を眺めつつも
こんな穏やかに、楽しく月を皆さんを見れる日が来るなんてと一人感傷に浸っていれば不意に目の前に差し出されたとても綺麗な形のお団子が一つ。
「ルキさん」
「俺が作ったんだが……一つどうだ?」
「!はい、いただきます…」
差し出されたそれはどうやら先ほどまで私の隣で作っていたルキさんのお手製のものらしく
そっと受け取って口に含めば広がる程よい甘さにほわりと表情が緩んでしまう。
「嗚呼、どうやら口にあったようだな……よかった」
「はい、すごくおいしいです……形も綺麗で」
「おい花子どうして自分の作った分を後ろに隠すんだ俺に寄越せ」
「あ」
私の表情を見つめ、気に入ったと判断してくれようでこちらとしても気持ちが伝わってとても嬉しいけれど
こんな形よし、味よしの団子を食べてしまってはその後に良かったら自分が作ったものもいかがですかなんて言えるわけもなく
そっと後ろ手に自身の団子を隠そうとすればそれはあっけなくルキさんに取り上げられてしまって思わず情けない声をあげてしまう
毎回毎回ルキさんはそんな人じゃないと分かっているのに思ってしまう
こうして料理が完璧な人に自分の不格好な味もどうせ今一つなものを食べさせてしまったら
材料の無駄遣いだとか一から作り直せとか言われるんじゃないかといつも進んで自身の手作りを差し出すことが出来ない
嗚呼、こういう処は相変わらずだなぁと自身の思考を恨みながらもビクビクと無遠慮に彼の口に運ばれた団子の感想をひたすらに待つ
嗚呼、数秒な出来事の筈なのに何十年にも思えてしまうのは
それだけ自分が酷く不安だからだろうか
「ん、俺とはまた違った味だな……うまい」
その言葉と共に頭に置かれた大きくて冷たい手にようやく安堵の息を吐いて
次いで訪れるのは胸の奥底の温かさ
嗚呼、なんだかんだでルキさんに食べて貰えて……喜んでもらえて嬉しい…
そして
とてもしあわせだ
ふともう一度上を見上げれば
普段より月の光が柔らかく感じれてゆっくりと唇で弧を描く。
きっとこんなに穏やかに、柔らかに光を感じることが出来るのはコウさん、ユーマさん、アズサさん……そしてルキさんと一緒に見ているからだ
一人だと特に何も感じなかったからきっとそう……
「ルキさん、コウさん、ユーマさん、アズサさん」
それぞれの名を噛みしめるように紡げばゆったりとこちらを向いてくれる愛しくも大好きな彼らに
今日、私の願いをかなえてくれたお礼としてぽつりと言葉を紡ぐ
こんな私ごときの言葉でお礼になるのかはわからないけれど、うん……
「私がしたい」から、言葉の意味が届かなくても……それでいい
「月、綺麗ですね」
紡いだその言葉に弟さん達は呆れて溜息
そしてルキさんは困ったように眉を下げて何度も私の頭を撫でるけれど
皆さん、私だってこの言葉の意味位知ってます。
月が綺麗ですね、は愛していますの意
コウさん、ユーマさん、アズサさんには将来なるであろう家族愛を
そしてルキさんには勿論最愛としての混じりけなの愛を捧げたい
この私のひそやかな願いが現実になるかどうかはまだわからないけれど
もし、もしその日が訪れることがあるのならば今日、この日のこの言葉の種明かしをいつかしたいと思う
貴方達が私の中に植えた愛はキッチリ育って花が開いていますよと
そう……伝えずにはいられないので
(「そうだな、花子……月が綺麗だな………今度図書室へ行こう。教えたいことがある」)
(「ルキ君大人げないよ自分だけじゃないからってそんな一から教育とか」)
(「いいじゃねぇか今の花子でよぉ……んな言葉なくたってお前らアチィんだし」)
(「ルキ………花子、絡むと………本当に、子供」)
(「(ううん、これは早々にタネアカシをした方がいいのかもしれない)」)
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