【October】I doubt love


どこをどうしてこうなったのかは分からないけれど…
私は自分の好きで好きでたまらない人と付き合うと言う事になったらしい。



「何ぼーっとしてるんだ?俺の顔…そんなに好き?」



「え!?あ、や…そうじゃなくて…いやそうですけど…ええと、」



ずいっと近付けられた最愛の整い過ぎている顔を目の当たりにして思わず自身の顔が音を立てて赤くなる。
自分は悪い事なんてしていないのにどうしてこんなにも必死に弁解しているんだろうか。
あわあわと混乱しながらもその弁解を続けていれば目の前の顔はクスリと意地悪な表情を作ってしまう。


「慌て過ぎ」



「ご、ごめんなさい…」



ぴんっと軽いデコピンを受けてしまい額をさすりながら謝罪をする。
すると彼はそんな私の言葉に長い溜息をついてしまう。



「……なぁ、敬語やめろよ。折角恋人同士になったんだぞ?」



「で、でも…だって…しゅ、シュウさんにタメ口…?えええ?」



呆れたような表情の彼…今日から最愛のシュウさんの言葉に困惑を隠せない。
確かに私はシュウさんが大好きでいつだって目で追いかけてはいたけれど…



まさかこんな事になるなんて思ってなかった。
…シュウさんが私と付き合うって言いだした時は正直彼の頭を疑ってしまった。




別に私は付き合いたいなんて思ってなかった。
…確かに好きだけど、大好きだけど。
こんな素敵な人に私なんかが釣り合わない事は誰よりも自分自身が知っている。



だからこの恋人関係の申し出も一度は断ったのだ。
…私にシュウさんの彼女役は荷が重いと。
けれどシュウさんは「花子が俺の事を好きなのは知ってるから付き合わないって言うのは無理」なんて言ってしまうから
もう半ば強制的にこの関係が今日5分前に開始してしまったのだ。




…けれどこんなのどうせすぐ終わりを迎えるに決まってる。
きっと暇だったシュウさんが気まぐれに起こした恋愛ごっこ、恋人ごっこだ。
どうせすぐに飽きて何処かにぽいって捨てられる。
分かってる…分かってるのに無理にでも離れようとしなかったのはやっぱり…




「すき…だからなんだろうなぁ。」


「知ってる」


「!?や、ちが…さっきのは…っ!」


「は?付き合って5分で浮気?イイ度胸だな花子。」




思わずポロリと出た本音を拾い上げてまた笑ってしまうシュウさんに再び弁解すれば
変な風に取られてしまって不機嫌な顔になってしまったのでもうどうすればいいかわからない。



只やはり好きな人を怒らせてしまった事実は酷く苦しいもので、思考回路が働かないままでも悲しいという気持ちだけは芽生えてしまう。




「…何て顔してるの。すっごく悲しそうなんだけど。」



「ごめんなさい…」



「…だから、敬語。ったく…昨日なら誕生日プレゼントに敬語外せって言えたのに…タイミング悪い。」



「……え?」



「ああ、知らなかった?俺、誕生日10月18日。昨日。」




…そうだったんだ。
その言葉に何だか胸に悲壮感が漂う。
嗚呼、きっと私は恋人としてシュウさんのお誕生日をお祝いすることは出来なんだろうなぁ…って。
だってこんな戯れが後一年なんて続くわけがないもの。



シュウさんの気まぐれでもいい。
この彼女という立場のまま…お祝い、したかったなぁ…なんて。




これが只の気まぐれの戯れだと頭で割り切っているのにこんな事を考えてしまう矛盾すぎる自分に溜息が出る。
すると彼はじっとまた私を見つめてボソリ、小さく叶う事のない優しい言葉をくれる。



「来年は、今年の分までプレゼント…もらうから。」



「…………そうですね。」




そんなのあるはずないのに…
やっぱりシュウさんはこんな言葉を使って私に期待を持たせて遊んでるのだろうか。
だったらせめて…




せめてこの戯れの期間中は彼の言葉に敢えて乗ってしまうのも悪くないかもしれないなぁ…なんて
とても虚しくて悲しい事を考えて、ひとつ…曖昧な笑顔を向けて彼を見た。




両想いもどきの恋人関係は、最愛の誕生日プラス一日から始まってしまった。



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