【July】Wish Upon a Star


結構暑くなって来たある日、逆巻邸にはあまり似つかわしくないものがででんと置かれてしまっていた。




「…まさかここで七夕様をするとはおもわなか、」



「………ぐぅ」



「…シュウ、」



隣で直立不動なまま心地よい夢の中へと旅立とうとしている最愛の額を小突けば不機嫌そうだけれどゆったりと目を開けてくれたのでほっとする。
彼の左手には黄色い短冊。私の右手には桜色の短冊。
そして目の前には大きすぎる笹がひとつ。



「ったく…なんでこんな事…だっる。」


「でもいいんじゃない?たまには…織姫様達が願い叶えてくれるかもだし。」


「つっても…もう俺には願いとかないし。…花子が此処にいてくれるだけでじゅーぶん幸せ。」



ぐちぐちと文句しか出てこないシュウに願い事と言う餌をぶら下げて行事に参加するように促せば返ってきてしまったお約束すぎる甘い言葉にやっぱり私の顔はぼふんと赤くなるけれど
今回はされっぱなしでは癪なので私も反撃と言わんばかりに大きく一つ、咳払いをする。



「じゃぁシュウの短冊かして?私お願いしたい事沢山あるし。」


「……何、花子は俺の傍にいれて俺に愛されるだけじゃ不満なの?」



空いているもう片方の手を差し出せばむっとした顔になってしまったけれど
言われるがままに私に短冊をくれたシュウに苦笑してしまう。
…本当に願い事、無いんだなぁ。




「ちょっと待ってて。私大事なお願い事だから丁寧に書いてくる。」



「はぁ……好きにしろ。」



パタパタと机に置いて書こうと一旦その場を離れれば背後から「なんだよ…」ってご不満の声が聞こえてしまって静かに吹き出した。
シュウってば、私がこうしてシュウの隣に居れて愛されて…それだけじゃ満足してないって思ってるのか。



ううん、そんな訳ないの…こんなにベッタリなのに分かんないなんて案外シュウも鈍感だったりするのかな。




そんな事を考えながらもきゅっきゅと消えないように油性ペンで書いていく願い事に笑顔を崩すことが出来ないまま二つともしっかりと書き上げた。




「はい、シュウ。私背低いからコレ…シュウが一番高い所につけて?」



「…………なんで俺、が…、」




ずいっと差し出した二つの短冊をとんでもなく不機嫌な顔で受け取ったシュウが
それでも私の要望通り一番てっぺんにつけようとぐっと腕を伸ばしたときに内容を見たのだろう。



数秒腕を伸ばしたままビシリと固まってしまった彼はなんとも滑稽でぶふっと声をあげて笑ってしまった。



すると両手が塞がっているシュウからキツイ頭突きを頂いてしまい小さな断末魔が響き渡る。
そしてその後見えたすごく真っ赤なシュウの顔に私は満足して穏やかな笑顔になる。




「これ、どうしても叶えたくて。」



「…………俺も。」



小さく返事をしてくれたシュウに勢いよく飛びつけばぐらりと揺れてそのまま地面へとダイブ。
辛うじてその数秒前に短冊は付け終えていたのでまぁセーフであろう。
まぁ…ゴチンと彼の後頭部から鈍い音がしてしまったのだけは大目にみて頂きたいところである。




「願い…叶うといいね。」



「…そうだな。っていうか叶える。」



互いに笑ってどちらが先なんてわからないまま唇を重ね合う。
空に一番近い場所でひらひらと揺れる二つの短冊に書かれた切実な願い。




“シュウと私が倦怠期知らずの夫婦になれますよに”



“二人の間に生まれた子供とシュウとで私を取り合うような素敵な家族が欲しいです”




覚醒が前提になってしまっているのは以前私が強く決意したから。
もうそれは夜空の恋人に願う事ではない。決定事項なのだ。
まぁそう考えるとこの願いもどちらかと言うとお願い事と言うよりかは決意表明に近いのだけれど…




「こんな…俺からプロポーズしたかったんだけど?」



「シュウが七夕行事さぼるから悪いの。」



「………ちょっとこれからは穀潰し卒業しよっかな。」




そんな下らない会話をしながら
7月7日の夜は静かにふけて言ってしまった。




叶えてね?天上のカップルさん。
もし叶えてくれなくても私とシュウで現実にする気満々ではあるけれど…



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