【February】Lover of events
酷く寒い中、珍しくシュウと並んで街中を歩いていた。
繋がれた手は冷たいからと彼のコートのポケットの中、そんなシュウの首にはクリスマスの時に最初にプレゼントする筈だった黄色のマフラー。
まさか抱かれた後私が渡す前にこの箱が見つかってしまいちゃんとしたプレゼントの言葉を捧げる前にビリビリと包装紙破かれて中身見られてしまうとは思わなかったけど…うん
外出の時は必ず付けてくれてるのを見るとどうやら気にいってくれてるみたいで嬉しい。
「花子、あれなんだ。人すごいけど…」
「あー…バレンタインだから、明日。」
沢山の女の人が群がってるワゴンを見つめてシュウが首を傾げたので
私は小さく苦笑して彼女達が張り切っている理由を教えてあげる。
バレンタインか…大好きな人にチョコを送っちゃう女の子の一大イベントだけれど私には関係ない話である。
だってシュウは甘いものが苦手だから
別にどうしても14日、シュウにチョコを渡したい訳じゃない。
苦手なものを貰ったって嬉しい訳でもないだろうし、私だってそんなのは申し訳ないと思うし。
只…うん、全く興味がないと言えば嘘になる。
私だって人並みに好きな人にチョコ渡して「だいすき」って言ってみたい。
特に今回は両想いで付き合っているのだから尚更だ。
まぁチョコにこだわらなければいいのだろうけれど…やっぱり渡すならチョコがいいなと思ってしまうのはめんどくさい女ごころって奴だろう。
「………花子、ちょっと」
「え?シュウ?どうし…っぅわ!」
じっと私を顔を覗き込んで何を思ったのか足を女性達が群がってるワゴンへと向けてそのままずるずると私を引きずっていく。
そして目的地のワゴン前へとあっさりと辿り着けばさっきまでワゴン内のチョコ達に夢中だった彼女達の視線が一斉にシュウへと注ぎ込まれてみんなピタリと動きを止めてしまった。
……そうだった。シュウってすっごく綺麗な顔してるんだった。
けれど彼は自身に見惚れてる女性達を気にも留めずにずんずんとワゴンへ近付いて中にある沢山のチョコたちをじっと数秒見つめて
その後くるりとこちらを見てちょいちょいと数点の商品を指さしていく。
「花子、これとこれと…あとこれ。」
「え、え、え?」
指さされた商品を必死に視線で追いかけて次第に私の顔はやっぱり赤くなる。
え、これ…遠回しに、というかもうなんか…うん。
有無を言わさず私にチョコ作れって言ってるんだよ…ね?
シュウが指定した三つの商品。
カカオ含有率の高い板チョコと白い箱。そして可愛らしい黄色いリボン。
確かにシュウは甘いものが苦手。
だから彼にチョコなんて…って諦めてたけれど…
カカオ含有率が高いチョコなら確かに甘くない。
…というかシュウ。あの、その…
「そ、そこまでして私からチョコ欲しい…の?」
自分で言っててすごく恥ずかしい。
恥ずかしいけれどそう言う事でしょう?
きっと私の顔を見てシュウにチョコあげる気がないって言うのを悟ったのだろう。
だからこうして「甘くなけりゃチョコ、大丈夫だから」って教えてくれたんだよね。
ぶるぶるとそんな事実に体を震わせてればシュウは少しむっとした表情になってしまって
そのまま公衆の面前なんてお構いなしで私の唇をそっと塞いでしまった。
「シュウ!?」
「当たり前だろ俺がどれだけ花子を好きだと思ってるんだていうか一つになった時に俺の愛は伝わってるとおも」
「うわああああ!わかったわかりました!!作る!!!愛情たっぷり込めて作るから黙って!!」
「もがもがもがもが」
いきなり爆弾発言をしてしまったシュウの口を繋がれていた手を離して両手で必死に抑えるけれど
それでも私の言葉が不満だったのか塞がれているにも関わらず文句のオンパレードは止まらない。
これ以上周りの女性達にシュウの言葉が聞こえないように必死に抑えながらも店員さんに先程の三点を購入すると伝えて買い物袋へと入れてもらい素早く代金を払ってシュウをさっき私がされた様にずるずるとひきずってその場を後にした。
「は、恥ずかしくて死ぬかと思った…!」
「花子が悪い。…花子からのチョコ、楽しみにしてたんだぞ。」
「………シュウってそんなに乙女チックだったっけ?」
ようやくワゴンから離れたところまで引きずって一息つけばそんな事を言われてしまってまた顔が赤くなってしまう。
…いつだってなんでもどうでもいいダルい好きにしろしか言わないくせに私のチョコが楽しみとか…なんなの、シュウってこんなキャラだっけ?
未だに不機嫌そうな表情だったシュウは私の言葉に意地悪に笑ってちゅっとまた可愛らしいキスを唇へと降らせてしまう。
だから、ここ、道端で、他の人とかも見てるんだけど!?
「花子の事になると乙女チックになってるのかもな…知らなかった。」
「う、う、う…も、もう知らない。」
「知ってろよ。後チョコ…ちゃんと作れ。それで0時きっかりに俺の部屋来てちゃんと捧げろよ?」
コツンと額を小突かれたけれどもう反論する気は起きない。
だってシュウ…すっごくわくわくしたような顔してるんだもの。
「れ、れいじ…あと何時間?」
「ええと…三時間位?」
「え!?嘘!!帰る!!!今すぐ帰る間に合わない!!」
チラリと時計台を見つめるシュウにつられて今の時刻を知らせる針を見つめれば「9」と「12」を指していて顔面蒼白。
今から帰って色々準備して作るってなると本当に時間がない。
小さなパニックを起こしながらシュウをいつもなら考えられない位強い力でぐいぐいと引っ張りながら帰路につくと後ろから小さな笑い声が聞こえた。
その声が酷く幸せそうだったので
もうなんだか先程の恥ずかしい公開処刑も全て許して本当に0時ぴったりにこのほろ苦のチョコをシュウに捧げたいと思ってしまったので本当に私は単純に出来ている。
「甘くないチョコ…がんばる。」
静かな決意を口にして進む足の速度を速めた。
どうやらバレンタイン…私は無事に最愛に「チョコ」…渡せるようだ。
もっともっと伝えたい。
シュウが…シュウが大好きだよって。
愛してるって…こういう行事以外にも沢山…たくさん。
「シュウ!急いで!!間に合わないって!!!」
「ん、」
急かす私の言葉にいつもなら何の反応も示さないくせに
今日だけは一緒に歩くスピードを上げてくれたシュウを見て本当に楽しみにしてくれてるんだって思うと
また私の顔の温度がぼふんと上がってしまった。
…私、そろそろ赤い顔が通常の状態になってしまうんじゃないだろうか。
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