【April】Real intention


ふわふわと日中は随分と暖かくなってきた。
夜だってその影響は少なからずある訳で…




「…でね?それで…ってシュウ、聞いてる?」



「ん?んー…あー…えっと、やっぱり肉はレアに限るよな知ってる。」



「………はぁ。」




いつもの夜更け。
けれど今日は特に暖かで心地いい気温。
そして私達は今日、彼の弟が頑張って昼に起きて干してくれていたぽかぽかなベッドの中にもふんと埋もれてしまっている。
こんな快適すぎる空間でシュウが正気を保てるわけがない事くらい知ってたけど…



「シュウ…眠いならもう寝ちゃえば?私の話全然聞けてないじゃない。」



「んー…んぅ…うん…う、ん。」




呆れ果てた声でもう寝るようにと頬や髪、頭を撫でてやれば
曖昧な返答が返ってきてそのままぎゅうっと抱き締められる腕に力が込められてしまった。
…少し苦しい。



「シュウ…?」



「いい匂い…柔らかい…あったかい…花子…これで寒くない。」



「………、」



一緒に包まれているシーツは太陽の日を沢山浴びているから暖かいはずなのに
私を必死に抱き締めてそんな言葉を紡ぐシュウに首を傾げる。
既に半分夢の中の彼の口からは普段言えなかったであろう本音がとめどなく溢れて落ちる。




「花子…花子…いなくならないで…傍にいてくれ…お願いだ。」



「シュウ…」



「離れないで…ずっと、一緒に…えいえん、」



「………そんな事、」




うつらうつらとしながらも紡がれる懇願。
普段なら余裕で意地悪な微笑みしかしないのにこんな眠そうだけれど必死な言葉…
こんな切実な願いが聞けるとは思わず、少し驚いてしまったけれど
うん…悪くはない。




「シュウ…大丈夫。ずっと一緒に居るから。ね?」



「ん、花子…」



もう既に半分眠っている目で何かを訴えてくるシュウに苦笑。
何だか冬のあの日と正反対の立場だなぁ…なんて。
あの日は私がシュウにどこにも行かないでって縋り付いていたのに今度はシュウが私にずっと傍にと懇願する。
嗚呼、もしかしてあの日…私がシュウに縋り付いた時、彼もこんな気持ちだったのだろうか。



今、酷く目の前のシュウが愛おしくて仕方がない。




「シュウ…シュウ…もう寝よう?ホラ、あったかいでしょ?」



「………ん、花子…手、」



「ふふ…大丈夫。離れないから…って、もう…」



両手で私を抱き締めていたけれど、片手を解放して目の前に差し出してきちゃうから吹き出してしまう。
そんな絡めて繋ぎとめなくったってもう私はこの心地いい彼の傍から離れる気なんて毛頭ないと言うのに…
けれど私のそんな言葉も全部無視して強制的にぎゅっと手を握って、指と指を絡めてそのまま満足気に瞳を完全に閉じてしまったから溜息しか出ない





安心しきった顔、しちゃってさ。



「シュウ…あったかい?」




「………」




「私はね…あったかいよ。」




既に安らかな寝息しか聞こえないけれど
穏やかな微笑みのまま絡め取られた手をじっと見つめる。
現実的に言ってしまえば温かな訳がない。体温のないヴァンパイアに抱き締められているのだから。
けれど…暖かいのだ。




体も、心も…
こんなにシュウに愛されて求められてると思うと酷く暖かくて幸せで…泣きそうになる。




「眠にり堕ちかけてるシュウの本音…すごく嬉しかったよ。」



「ん…んぅ、」



ちゅっと本人に気付かれないように繋がれている手にキスを落とせば唸ってしまったので静かに苦笑して私も目を閉じた。
これ以上シュウに悪戯して起こしてしまっては可哀想だ。
どうせなら嬉しい本音を言ってくれたシュウと同じ場所に…夢の世界に行ってそこでだって彼に会いたい。




「…しあわせ、」



最後に呟いた私の言葉はシュウにも届く事無いまま
ふわりと心地よすぎる空間に溶けて消えてしまった。



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