13:貴方は姫、私は王子
「おぅ…来たか。」
「…花子。」
「…お久しぶりです。」
ああ、困った。
彼らの前ではどうも偽りの笑顔は作れない。
コウさんに抱えられて連れられた無神家。
ユーマさんとアズサさんに迎えられたけど二人とも全然元気がない。とても悲しそうだ。
「しゃーねぇからカギは俺が壊した。」
「花子…ルキと、おはなし…して?」
「……」
ルキさんの部屋の前まで連れて来られて
それでも気が進まず中に入らないでいるとアズサさんがそっと私の手を取ってゆっくりとルキさんの部屋へと放り込んだ。
そして静かにその扉は締められる。
「…ルキ、さん?」
名前を呼んでも返事はない。
静まり返った部屋に響くのは僅かな息遣いだけで私はそれを辿るようにベッドへ向かった。
「…見つけた。」
静かに眠っているルキさんはとても綺麗で思わず見とれてしまう程だった。
そっと頬に触れるとひやりと冷たくて、ああこの感覚も久しぶりだなぁなんて…。
「ルキさん、ルキさん。起きてください。」
柔らかな髪を一撫で。
ふわふわしていてとても心地いい。
「皆さんに心配かけてどうするんですか、長男さん。」
嗚呼、前会った時より痩せてしまっている。
これ以上細くなってどうするつもりだ。
「コウさん、すっごく不機嫌です。ユーマさん元気ないです。アズサさん悲しそうです。」
そっとその唇に指を這わせる。
何度も何度も愛してると言葉を紡いでくれた優しい唇。
「もう、“愛してる”って言ってくれないんですか…?」
ねぇルキさん。 この唇で、この声で。
私を前みたいに縛り付けなくていいんですか?
未だに目覚めない彼にそっと、静かに唇を落とす。
好きです、愛してる、私だけを見て、貴方は私のでしょう?
恋も愛も嫉妬も独占欲も全部全部込めたキス。
そっと唇を離すとうっすらと開かれた瞳に私が映る。
「ん…」
「お目覚めですか?お姫様?」
未だに覚醒しきっていない彼の瞼に唇を落とすと
くすぐったそうに身を捩るので
その仕草が可愛くて思わず笑ってしまった。
「ぅ…ん、…花子?」
「お久しぶりです、ご機嫌いかがですか?」
「ん…」
私の問いに答えることは無く、まだぼーっとしているルキさんは本当に可愛らしくて愛おしい。
頬を撫でると心地よさそうに擦り寄ってくる。
嗚呼もう、本当に…
「だいすき」
するりと、突然私をゆっくり抱き寄せ
弱弱しく、けれどぎゅっと私を抱き締める腕に力が籠る。
「花子…花子、花子…」
何度も何度も私の名前を呼び、存在を確かめるようにどんどん抱き締める力が強くなる。
少し苦しいけれど、こんな心地よい苦しさは初めてかもしれない。
「ふふ…苦しい。」
「もっと苦しめばいい…俺は何倍も苦しかった…」
震える声。込められる力。
嗚呼このまま壊れてしまうのも悪くないけれど
そうしてしまうときっと彼は泣いてしまうからそれだけは見たくないなぁ。
「ん…花子、」
ちゅっと首筋にキスを落とし、何か言いたげな彼の表情。
そんな彼に思わず吹き出してしまった。
「おいしくないかもしれないし、いい声もきっと出せませんよ?」
「…ん、そういうのは、関係ない。」
そう言って彼はもう一度私の首筋に顔を埋め
私はこれが彼の久しぶりの食事になるだろうから貧血を覚悟して瞳を閉じた。
ガチャリ
「ルキくん…!ルキくーん!!」
「おい!ルキ!心配させるんじゃねぇよ!ったく!!」
「ルキ…おはよう…」
「お、おいコウ、抱き付くな重い。ユーマも泣くな。アズサ、今は夜中だ。
…その、心配かけて悪かったな。」
ルキさんは少し照れながらもバツが悪そうに三人に向かい謝罪すると
彼の言葉を受けてコウさん、ユーマさん、アズサさんはそれはもう嬉しそうに笑った。
そしてその反対に私の顔色は真っ青である。
「あれ?花子ちゃん、どうしたの?」
「あ?花子、顔色ワリィじゃねーか。ん?アレ、ルキはやけに顔色がいいな。」
「………。」
「あ、その傷…。」
三人が一斉に私を見て、ルキさんは更に気まずそうに眼を泳がせる。
「眠り姫に襲われる王子様を実体験致しまし…た。」
「ぶはっ!!ね、眠り姫!!る、ルキ君が眠り姫!!!!あっははははは!!!」
「おーおーおーお熱いことで。起き抜けに激しかったってかぁ?」
「花子は、ルキを起こしに来たのに、こんなになるまで吸うなんて…酷い…ね」
「…ルキさん、私は今猛烈に鉄分たっぷりの美味しいご飯を所望しています。」
「……わかった。」
いつもの悩ましげなポーズで宙を仰いだルキさんはそそくさとキッチンへと向かった。
そんな彼の背中を見送って、残されたみんなで笑いあったのはまた別の話。
(「姫ー!早く作ってあげないと王子様死んじゃうよぉ?」)
(「うるさいぞコウ!!」)
(「ヒステリーな姫さんだなぁ。生理か?」)
(「ゆゆゆユーマァ!!!」)
(「アレじゃないですか?二日目。」)
(「花子も乗るんじゃない!!」)
(「大丈夫ですよー。二日目でも愛してますよー。」)
(「な…っおま…っ!」)
(「王子様・・・格好良いね…ふふ」)
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