15:長男vs長男
「アンタが花子の彼氏?ふーん…へぇ…花子って男の趣味悪…」
「あの…いきなりなんですか。」
「うるさい…あんたは黙って俺の顎置きになってろ。」
いつも通り三年の教室でルキさんと談笑していたら頭にずしりと衝撃が走る。
何事だと思えば未だに夢から醒めきってないであろう彼がゆるい口調でそんな事を言いだした。
「おい、そこをどけ。花子が嫌がっているだろう。」
「は?嫌がってないし。寧ろ嬉しいだろ?俺にこうされるの。」
「うううううう…」
ぐりぐりぐり
ぎゅうううう
私の頭の上に置いている頭をぐりぐり動かし後ろから抱きしめてる腕の力を強める。
目の前にいるルキさんは相当ご立腹なようだ。
「逆巻の長男が花子に何の用だ。」
「アンタ花子のなんなの…うっざ。」
恐れ多いですが彼氏様ですよ。と心の中でツッコミを入れたがまぁ彼には通じるはずもなく、私は小さくため息を着いた。
そもそもなんでいきなりこんな体勢になったのかとかいつの間に私の名前を知ったのかとか
色々疑問に思う事が多いのだが取りあえず目の前に彼氏様がいるのに他の男性に後ろから抱き締められるとか勘弁してほしいので何とか脱出を試みる。
「あ、の…シュウさん…離して頂けると嬉しいのですが…」
「ん?やぁだ。ていうか俺の名前知ってたんだ…嬉しい」
そりゃ逆巻家は有名だから知らない方がおかしい。というか現代社会のイケメン達にはもれなく可愛い機能も標準装備なのだろうか。
私に名前を呼ばれて心底嬉しそうに笑うシュウさんはとっても可愛らしい。
「花子」
普段より低くて怒っているような声色で私を呼ぶルキさん。
思わずそちらに顔を向けるとスッと頬を撫でられくすぐったくて声を漏らしてしまう。
「お前の恋人は誰なんだ?そんな奴に見とれていないでこちらだけを向いていろ。」
「なぁに?嫉妬?アンタ独占欲強すぎ。そんなんじゃすぐに花子に捨てられるな。」
「な…っ!」
「いやいやいや捨てませんし、寧ろ捨てられるのは私ですしでも捨てられたら私死んじゃうどうしよう。」
「大丈夫、捨てられたら俺がもらってやるから…な?」
「煩い黙れそれ以上口を開くな殺すぞ」
ゴゴゴゴゴ
私を差し置いて真っ黒いオーラを出しながら対峙する二人。
え、怖い。ホント怖いんですけど。
取りあえずこの状態から少しでも解放されたい。
「シュ、シュウさん…私に何かご用があったのでは…?」
「ああ、そうだった…。」
「今夜逆巻家主催のパーティがあって、それ相応の女を連れて行かなくちゃいけない…俺はあんたがいいな、って。だからお誘い。」
ちゅっと手を取って唇を落とし、ふわふわと微笑むシュウさん。
ん?パーティ?相応の女?お誘い?
「どぉせそいつは意気地がないからアンタの事誘ってないんだろ?だったら俺と来ればいい。」
「や、誘わないのは当たり前ではないですか?だって私ですよ?連れて歩くの恥じゃないですか。」
確かに今夜はパーティがあるから一緒に帰ることは出来ないとルキさんから聞いていたし
コウさんから、そのパーティにはパートナーとして女性を同伴させるのだとも聞いていた
ユーマさんには心配そうに嫉妬とかしないのか?と顔を覗き込まれた
アズサさんはてっきり私がルキさんのパートナーだと思っていたらしく残念だと呟いた。
…正直、嫉妬はしていると思う。
顔の分からない女性に対して。けれどそんな幼稚な感情だけでルキさんに恥をかかせるのは忍びなくて私はこの気持ちに蓋をしていた。
「あんたみたな可愛い彼女がいるのになぁ。コイツが今夜連れていくのはユイなんだぜ?」
「………小森さん、ですか。」
意地悪そうに笑ながら放つシュウさんの言葉に
彼は目を背けたからその言葉は事実なのだろう。
嗚呼、彼女か。確かに私なんかより綺麗で可愛くて…
…駄目だ。やっぱり私は彼の事になると駄目なようだ。嫉妬とか憎しみだとか、そんな感情がぐるぐると頭の中で渦巻いていく。
「花子にこんな顔させるなんて、あんたホントサイテーだな。」
「…っ!」
「え、わ…わたし…」
慌てて顔を隠そうとしたけれどそれはもう遅くて、私はひょいっとシュウさんに抱え上げられて目を白黒させる。頭上から「うわっ、アンタ軽すぎ。ちゃんと食べてる?」って声が聞こえたけど私の視線は今その場から動こうとしないルキさんに釘付けだ。
…もう、怒ってもくれないんですね。
追いかけてもくれないんですね。
そんなルキさんの態度に苛立ちを覚えたのかシュウさんは小さく舌打ちをしてその綺麗なお顔を歪めた。
「惚れた女が連れ去られるのに動かないとか、アンタ何なの?ホント、サイテー。花子もあんな奴やめて俺にしとけ。」
「あ、の…」
「じゃぁな、また後で。」
バタンとその場から動かないルキさんを一人残して彼は扉を閉めた。
「…シュウさんも私なんかやめて他の方を探した方が…あの、私不細工、だ…から…」
私を抱えたまま歩くスピードを緩めないシュウさんにそう提案したけど完全に無視された。
自分で言ってて悲しくなる。震える声。
私がこんなのだからルキさんはパートナーに私ではなく彼女を選んだのだ。
私じゃ彼に釣り合わない。そんなの知ってたはずなのに実際事が起こると心はうまく割り切れないものである。
『私の事が好きなら私を隣に置けばいいのに』
そんな幼稚な考えが頭を支配する。
私が小森さんみたいにもっと可愛くて綺麗だったら彼の隣で今夜のパーティを過ごすことが出来たのかな…少し、悲しいし、悔しい。
「アンタは自分の魅力を知らなさすぎ、自虐すぎ、卑屈。」
「シュウ、さん?」
「何でもない。ホラ、時間無い。急ぐから」
彼の言葉は聞こえなくて
私はそのまま抱えられて夜の学校を後にした。
戻る