17:キスの場所


「最近忙し過ぎるルキ君にプレゼントを上げたいと思います!」


「は…はぁ。」


唐突なコウさんのその言葉に私は間の抜けた返事しかできないでいた。
今現在の状況を簡単に説明しよう。
何故か私は無神家ご長男を抜いた三兄弟に壁に追いやられている以上。
知らないうちに彼等の気に触るようなことをしたのだろうか…そんな考えを巡らせているとがっしりと両腕をユーマさんにつかまれる。


「逃がさねぇから…覚悟しろよ?」

「は?え、な…なに、」


三人の真っ黒い笑顔に私は顔を引き攣らせることしかできなかった。




「し…しにたい」


「えー!?どうして!?超かわいいじゃん!」


「男なら誰だってイチコロだろこれ。」


「花子…かわいい…ふふ」


もはや成す術がなかった。
吸血鬼があんなに力が強いだなんて聞いていない。あの後私は彼等に無理矢理脱がされたかと思えばこの仕打ちだ。


「こういうのは、小森さんとか可愛い子がやってこそ意味があるかと…思うんですが…」


ひらりとふんだんにレースのあしらわれたスカートの裾をつまむ。
そう、今の私の格好はなんというか…その、どっかの外国の球体人形のような所謂何世紀か前の貴族のお嬢様が来ているような真っ白で華やかなお洋服を着せられて
更にはコウさんの手によって施されたあどけないメイクが私を飾っている状態だ。
ぶっちゃけ以前のコウさん私プロデュース計画の比ではない。


「というか、こういう服を私に着せたと言う事は…」


もう嫌な予感一つしかしない。
そしてそれは仕上げにと真っ赤なリボンで両腕を結ばれて未だに帰ってきていないルキさんの部屋にぽーいと放り込まれて確信へと変わる。



「…私がプレゼント的な奴ですよね。」



…何の罰ゲームですか。
一人取り残された部屋で大きな溜息をついてキョロキョロと辺りを見渡す。
そして辿り着いたのは彼がいつも眠っているであろうベッド。


自由の利かない両手でなんとかそこに上って一息。
徐に力を抜いてベッドへその体を沈める。するとふわりと彼の香りに包まれて、まるでルキさん本人に抱き締められているような感覚に思わず顔を赤くしてしまう。


そう言えばここ最近彼に会っていない。
何やらいろいろ忙しいようで少し前まではべったりだったのに…
ルキさんに会えない間正直私はずっと不安で不安で仕方なかった。


もしかしたら飽きられたりしてないかな?
ひょっとして忙しいのって他の女の人の所に行ってるから?
このまま自然消滅だってありうる?


だってしょうがない。
私は他の女性の様に綺麗でも可愛くも無ければ
性格がいい訳でもない。
いつだって彼が「愛してる」って言ってくれなければ真っ黒なこの不安はすぐにでも私の心を飲み込んでしまう。


「ルキさん…ルキさん…」


じわり。
不安と淋しさから遂に私の目から涙が零れてしまった。
それはポタリ、ポタリと彼のシーツに小さなシミを作ってしまう。
嗚呼、この間までは何事もどうでもよかったくせに今ではこんなにアナタに触れてもらえないのが悲しくて寂しくて仕方がない。
いつの間に私はルキさんなしではダメな家畜になってしまったのだろうか…


「ぅ…ル、キ…さ」


「…全く、お前は俺の理性を試しているのか?」


「!?」


聞きたかった低くて甘い声が私の上から突然聞こえてきて
思わずびっくりして勢いよく起き上がると、困ったようないじめっ子のような何ともいえない表情のルキさんが私を見降ろして立っていた。


「ル、ルキさ…」


「随分とそそる表情だな花子。」


そう言いながらギシリと音を立ててベッドの端に座った彼はいつもの様に優しく私の頬に触れる。
久々の冷たい感覚に嬉しさとくすぐったさから思わず声をあげてしまう。


「恋人のベッドの上で、こんな格好で、こんな表情で、こんな声…
花子。今のお前は俺に血の味を変えられてもおかしくはない状況なのを分かっているのか?」


「ぁ…」


血の味を変える?それはどういう意味なのだろうか。けれど今の私にとってそんな疑問はどうでもいい事だ。
腰と後頭部を抑えられて身動きが取れない状態で只々ビクリと体を揺らしてしまう。


「ルキ、さ…っ!どこにキスして…っ!」


「ああ、ココ…だな。」


完全に意地悪な笑みを浮かべて彼はその綺麗な指先で私の喉元をなぞる。まさかそんなところにキスされるだなんて思ってもみなかったので動揺を隠せない。


「知っているか?喉への口付けの意味…」


グイッと縛られていたリボンを彼の方向へと引っ張られて身体をルキさんに預ける形になってしまった私の耳元で小さく笑いこう言った。



“喉へのキスは欲求という意味があるらしい”



瞬間私は全身の熱が顔に集中してしまったことを自覚して顔を隠そうにも両手が自由にならない事を悟り、すぐそばにあったルキさんの肩にぎゅっと顔を埋めた。


「も…嫌です…ルキさんの意地悪。」


「…あのな、花子。俺の我慢を無駄にしようとするのはやめてくれないか。」


大きな溜息と困った笑いが部屋に響いた。


「嗚呼、そう言えばどうしてお前がこんな妖精のような格好で両手を縛られた挙句俺のベッドで泣いているんだ?」


「それは、コウさんとユーマさんとアズサさんが…」


「…ほう?」


…アレ?ロマンチックに言えばまるで夜空のような真っ黒な微笑みですよルキさん。
先程とはまた違った嫌な予感がよぎったがそれもまた現実のものへと変わる。



その後、私を無理矢理脱がして手を縛ったことが判明して弟三人が正座のまま長男の怒涛の説教を三時間ほど受けてしまったのはまた別の話である。



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