20:血の味
「おや、君がルキの恋人の花子君か…以前パーティではシュウのパートナーだったからてっきり…いやいやこれは失礼。きっと彼が無理矢理君を連れ出したのだね」
「いえ、平気ですのでお気になさらず。」
ぎこちない微笑みを浮かべで出されていた紅茶を一口口に含む。
目の前の紳士様は先程から上機嫌なようでニコニコと笑みを浮かべ、こちらを見つめている。
「あの…ところで、私に何かご用でしょうか?」
「ああ、そうだった。最近私の用事で君からルキを取り上げてしまっていたからね。何かお詫びが出来ないものかと思って」
優雅に私の手を取り軽くそこに口付ける様は何とも絵になっていて、まるえ何処かの映画のワンシーンのようで思わず苦笑い。
お詫びだなんてそんなとんでもない。
「こうして貴方とお茶を楽しめるだけで十分ですよ、カールハインツ様」
「“様”だなんてつれないな、君は…、」
今度は彼が苦笑いを零したが、何かに気付いたのかふいにその金色の瞳を細めて私を見つめる。何かしてしまっただろうか…不安に重い瞳を揺らしていると彼は徐に私に質問を投げかけてきた。
「ねぇ、花子君…ルキに吸血された事はあるかな?」
「え、えぇ…一度だけですが…」
「その時彼は何か言っていた…?」
「い、いいえ…?」
私の返答に彼は暫く黙り込んでいたが
再び口を開く。
「他には誰かに吸われた事があるかな?」
「えぇっと…確かアヤトさんに…ぁ、」
無意識に彼に噛まれた首筋に手を添える。
そして当時の記憶をゆっくりと思い返す。
『っなんだコレ…身体が熱い…!』
私の血を啜りながら苦しげにそう言ったアヤトさんを思い出す。
「アヤトさん…私の血を飲んで体が熱いって言ってましたね…」
「そうか…やはり、」
「私には血の味などはよく分かりませんが、アレですか?発汗作用的なものがあるんですか?キムチ鍋みたいな」
「………自分の血の味をキムチ鍋に例える女性は初めてだよ」
どうやら私はおかしなことを言ってしまったらしい。目の前のカールハインツ様は片手で自身のお口を押えながら笑いを堪えるのに必死だ。
だって仕方ないじゃないか。私はヴァンパイアの世界なんて全然知らないのだから彼等の常識というモノだって知っているはずがない。
けれどやはり恥ずかしくて、少しだけ顔を赤くして俯いていると、彼は優しく私の頭を撫でてくれた。
「そうじゃないんだよ花子君。君の血は少しだけ変わっているかもしれないと言う事だ。もしよかったら私に確認させてくれないか?何、痛いようにはしないさ」
「は、はぁ…」
彼の誘いに曖昧な返事のまま乗ることにした。
理由は簡単。自分の血が少し変わっているかもしれないという事だ。
もし本当に変わっているのだとしたら、どんなふうに変わっているのかを知りたい。
そしたらどうしてルキさんがあの日から私の血を飲んでくれないのか原因もわかるだろう。
彼にされるがままに徐に手を差し出せば、手首をそっと掴まれ、ゆっくりと人差し指をその綺麗なお口の中に入れられてしまった。
瞬間、痛みは全く感じずに代わりに甘い感覚が全身を襲う。おかしな感覚だなぁとぼんやり考えていると、不意に掴まれた手は解放された。
「おや、これはこれは…ふふ、ははははは」
「え?は、えぇ?」
私の血を味わった彼は何故だか分からないが盛大に声をあげて笑いだした。
状況を掴み切れていない私は只々戸惑うばかりだ。
「あー、すまない。どうやら予想通りだったようだ…これは、ルキも苦労しているようだね…ふふっ」
「え、あの、私の血ってそんなに変なんですか…?ち、珍味…的な?」
ヴァンパイアの王がこんなにも盛大に笑うほどの血って、私はもう迫りくる不安を隠しきることが出来ないでいた。
もしかして私の血って相当不味いんじゃないのか?だからルキさんは私の血を吸ってこないんじゃ…
血の気が引いてもう顔面は真っ青だ。
だってそうだろう、このままじゃルキさんはずっとずっと私以外の血を吸うと言う事じゃないか
そんなの、そんなの………アレ?私、ルキさんが他の人の血を吸うのが嫌なのか?
「渇望、嫉妬、独占欲…素敵な瞳だね」
「…え、」
気が付けば間近に彼の顔。
そして満足そうに微笑み、私の瞳を覗き込む。
「君は今、そんな醜い感情に戸惑いを隠せないんだね。…可愛らしい。」
「ん、」
そう囁かれたかと思うと不意に先程吸血していた指にキスをされた。
すると不思議な事に先程まで存在していたはずの傷が嘘のように消えていて私は思わず目を見開いた。
「君の血を吸った事、ルキにはナイショにしておくれよ?私が怒られてしまうから…」
…ね?
と、困ったように首を傾げる彼はとてもお茶目で、ヴァンパイアの王にこんなこと言うのは大変申し訳ないのだがとても可愛らしい。
「………遺伝、か。」
「?何がかな?」
小さくそう漏らせば、またキョトンと首を傾げる彼を見て笑う。
そうです、そう言う所ですよ。
貴方様のご子息はその可愛いスキルを十分に受け継いでいるようです。特にご長男とか。
「嗚呼、そうだ花子君。君の血は決して不味くはないよ。少しだけ、変わっているけれど…自信を持ちなさい。」
「あの、だから変わっているっていったいどんな風に…」
「ふふ、それは私の口からは言えないな…」
不服気に私が問うてみても彼は意地悪に微笑むばかりで結局何も答えてはくれなかった。
けれど、まぁ…まずくはないと言う事が判明しただけでも良しとしようか。
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