25:失恋記録大更新
『花子は、逆巻シュウに預けた』
ある日、血塗れのルキ君が凄く苦しそうな声でそう言った。
少し目は赤くて、頬は濡れていた。
事情はさっぱり分からない。分からないけど…
きっとこれはルキ君と花子ちゃんの望む結末じゃない。
「どういう事だよ!説明してよシュウ君!」
「…めんどくさい。」
それから一週間後、今まで学校を休んでいたシュウ君が登校してきたから
俺はそのまま彼に掴みかかって喚き散らした。
「何でシュウ君の所に花子ちゃんがいるんだよ!返せよ!花子ちゃんはルキ君のだろ!?」
「………俺もそう思うよ。」
「…は?」
今はアイドルの職業とか関係ない。
只々、あの幸せそうな二人の日常を取り戻したくて必死の形相で叫んだら、シュウ君はすごく悲しそうな目でそう呟いた。
何で…なんでシュウ君がそんな傷付いた顔するんだよ。
「まぁ、けどちょっと間違ってるな。花子がアイツのモノなんかじゃない。アイツが花子のモノなんだ。…あと、俺もだな。」
自嘲気味に微笑んで尚も話を続けるシュウ君に戸惑いを隠せない。
彼は普段こんな饒舌な人物ではないのだ。
「なぁコウ、知ってるか?毒には即効性と遅効性ってのがあるんだ。花子はどっちかって言うと遅効性だ。ゆっくり、じわじわと時間をかけて浸食してくる。気が付いた時にはもう中毒だ。」
彼の言葉に今までの日々がフラッシュバックする。
確かに花子ちゃんは変わっていた。毎日を俺達と過ごすことで。劇的に。
でもそれは彼女だけだっただろうか。
誰よりも繊細で優しくて、強いのに弱くて、でもちょっと馬鹿な所のある彼女を俺達は無意識のうちにどれだけ大事にしてきただろうか。
「今もお前は花子をアイツの所に戻したがってる…なんで?」
「それは…っ」
それは勿論ルキ君と花子ちゃんの為だ。
あの二人は互いが互いを大好きなんだ。
それなのに引き離すだなんてあんまりだろう!
嗚呼、でも俺が人の為に此処まで怒ったり焦ったりすることってあったっけ?
「そう言う事だよ。」
俺の考えが読めたのか、シュウ君はニヤリと笑って掴みかかっていた俺の手を振り払い
一つ大きな欠伸をした。
そして一枚小さな紙切れを俺に投げつける。
「俺はさ、花子を溺愛してるから、花子の望むことなら何でもする…別にその先に俺がいなくてもいい」
「え、なんで…」
「お前に言う必要はないだろう?」
でも、
シュウ君の瞳は先程からずっと悲しみの色をしている。好きなら、愛してるならこのまま彼女を奪ってしまえばいい話なのに
ぶつけられた紙切れを見つめてぎゅっと空いている手を握りしめる。
書いてあるのはきっと花子ちゃんの居場所と護衛がいなくなる時間。
「何でコレ、俺に渡したの?」
「言っただろ?俺は花子の為なら何だってするんだ。」
―悪役にだって、魔王にだって、それこそ恋のキューピッドにだってなってやるさ。―
そう微笑んだ彼は、悔しいけれどどこまでも格好良くて
俺は何も言わずにその場から走り去った。
この場所と時間めがけてまっしぐらに。
「あーもう、俺は何回花子に失恋すればいいんだ?」
だから空を仰いだシュウ君の独り言なんて絶対これっぽっちも聞いていない。
もし聞こえたと認めればきっとこの足は止まってしまうから。
今度お礼に彼の愚痴でも聞いてやろう。
だからごめん、俺はまたシュウ君の失恋記録を更新するために今は全力で真っ暗なこの夜道を走り抜けるよ。
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