26:お前の血ごとき


ああもう、こうして勢いよく彼の部屋に放り込まれるのは何度目だろうか。
そんな事をぼんやり考えながらもこの気まずい雰囲気の打破を考え続ける。




あの後シュウさんが姿を消せば代わりにアイドルらしからぬ、
必死な形相なコウさんが現れて
私を勢いよく抱き上げたままお城からの大脱走激を繰り広げた。



どうして彼がここまで一生懸命になって私を助け出したのか、
その真意は分からないけれど
コウさんは逃げ出すときもずっとずっと前を向いていて、その表情が何処か羨ましくて…




何故あそこにいたのかとかどうしてすぐに逃げ出さなかったのかとか言い訳の言葉を紡げずにいれば、あっという間に彼の部屋へもうおなじみの様に投げ入れられてしまった。




この行為さえも酷く懐かしく感じたのはどうしてだろうか。




そして突然の私の登場に驚きで目を見開いた彼は今もずっと一定の距離を保って無言のまま。
視線さえ合わせてくれることはない。



「ルキさ…」



「花子、逆巻シュウの所へ帰れ。」


ずきり。
彼の冷たい言葉に私の心臓はたやすく抉られる。
ああもう、貴方は私の事見てくれないのでしょうか。
だったら、これが最後だっていうのなら
ぐっと一度唇を噛み締めてあの日から、彼に言う事の出来なかった気持ちを露土する。


「ごめんなさい…私の血、酷いですよね…辛かったですよね、ごめんなさい」


「花子…」


ようやく目を合わせてくれたルキさんに少しだけ安心する。
最後、これが最後なら笑顔で別れたい。
けれど、彼の前では張り付いた笑顔を向けることはしたくない。


「でも私、ルキさんに…私の血だけ、飲んでほしかったんです。ふふ、子供みたいですよね。」


「花子?」


ああ、ぐにゃりと歪に顔が歪む。
笑っているのに今にも涙しそうな私は酷く滑稽だ。


「独占欲酷くて…おこがましい。でもルキさんの事が大好きで…血の味変えてでも貴方の好みになりたくて…でも駄目みたいですね。」


だって私の血は少しおかしいのだから。
そんな悲しい現実。
遂に崩壊してしまった涙腺は鎮まることはなくて
もうこれ以上酷い顔を見られたくなくて両手で自身の顔を覆った。



「好きなんです。ルキさんの事がだいすき…愛してたって過去形に出来ないんです。ごめんなさい…ごめんなさい。」



今から突き放されようとしている相手に向かって私は何愛の告白をしているのだろうか。
馬鹿みたい。ううん、きっと馬鹿なんだろう。

何度も何度も謝罪の言葉を紡いでいると不意に何かが私の体を包み込んだ。
懐かしい感触と香りに思わず顔を上げると、いつもの困った表情の彼。


「ルキさん…?」


「全く、誰のためにお前を手放したと思っているんだ。そんな事を言って…今度はもう本当に離さないぞ?覚悟は出来ているのか?」


「そ、そんなの…そんなの…!」


初めは強制的に囚われてしまったその檻に、今度は私自ら縋り付き懇願する。


捕えて、もう離さないでと。


貴方の傍に居れるなら囚人だろうが家畜だろうが何だっていい。
そう言えば彼はお前は俺の最愛だろう。と怒ってしまう。
その言葉が嬉しくて嬉しくてもう涙は止まらない。


「…花子、」


「あ、だ、ダメです!ルキさん…っ!」


彼が何かの合図の様に私の首筋に舌を這わせたから慌てて制止する。
もうこれ以上ルキさんにおかしくなってほしくはない。
けれど困惑する私に対してルキさんの瞳はいつも以上に自信満々で、にやりと意地悪に笑った。


「逆巻シュウに聞いているだろう?確かにお前の血は変わっているが、堕ちるかは本人次第だ。これ以上にないくらい花子を愛してしまった俺はお前の血ごときに堕ちないさ。」


ちょっとやめてくださいそんな顔でそんな台詞。
もう今の私は顔真っ赤だ、見られたくない。恥ずかしい見られたくない。
そして彼は有無を言わさずこの首筋に牙を突き立てた。


「ぁ…や、…んん…やぁ…ひぅぅ!」


…………………。


一瞬静まり返った部屋。



「…………花子、」


「ち、ちがうんですさっきのは何かの間違いです幻聴です。リテイクを申請します。ちがうんですホント違うんです。」



早口で必死に首を横に振り弁解する。
何だ今の声。わ、私の口から出たのか?
さっきの甲高くて甘い声が私の声だとでもいうのか。


これじゃまるで…まるで…


初めて出してしまった声に戸惑っているとルキさんは驚いた表情からすごく嬉しそうな顔になってしまって
ああもうその顔はとても好きだけれど今ここでその顔はもうなんというか…!


「感じてしまったのか?なぁ…花子」


「ちが…ちが…っ!」


何度も否定の言葉を口にしようとしたけれど
その度にルキさんの唇で塞がれてしまって言葉にできない。
そしてがっしりと彼の腕に身体を固定されてしまいもう逃げ道は全て遮断されてしまった。


「久しぶりだから優しくしてやろうと思ったが俺を煽ったお前が悪い…精々良い声で喚けよ?」


「ゃ…やだ…や…ぁ、」



そんな綺麗な笑顔でそんな死刑宣告。
じりじり迫ってくる美形にもう私は涙目だ。
やだやだあんな声もう恥ずかしくて出したくないです本当にごめんなさい許して。

私のか細い懇願はいとも簡単に無視されてしまい、本日二度目の愛しい愛しい牙が身体に埋め込まれてしまった。



ああもうそうですか、貴方が望むのなら声だって血だって身体ってもう全部全部捧げますよ。




(「あれ?花子ちゃんすっごく声ガラガラだけどどうしたの?」)


(「ルキさんが…ルキさんが…うぅ」)


(「やだー!ルキ君のえっちー!ちょっとユーマ君アズサ君聞いて聞いて!ルキ君が花子ちゃんを穢したー!」)


(「コウ!誤解を招くような事を叫ぶんじゃない!」)


(「…あながち間違ってないですよ」)


(「うっ………」)



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