32:私だけのアナタ
「あの…ルキさん、質問が。」
「ん?どうした花子。言ってみろ」
愛おしげに絡められる指に心地よさを感じながらも
今まで気になっていた事を問う。
あれから私は鎖と檻からは解放されたが暫く彼の部屋に置かれている。
別に嫌ではないし、寧ろ嬉しいと思うから私は彼の気が済むようにさせている。
「あの時…どうしてルキさんは急に怒り出してしまったんですか?」
「お前…気付いていなかったのか?…全く、呆れたな。」
大きな溜息の後に私から離れてしまったルキさんは徐に手鏡を持ってきてくれた。
映し出された私の首筋には一つ赤い跡。
「…………んん?」
「おおよそ、逆巻の変態にでも付けられたのだろう。見た瞬間息が止まった…」
あ、そう言えばライトさんが私の首に顔を埋めたときに小さな痛みがあったっけ。
というか…というかルキさん。
「こ、これだけであんなに怒ったんですか?」
「あのなぁ花子。何度も言うようだが自身を過小評価しすぎるな。俺をこれだけ溺れさせておきながら無防備にも程がある。」
コツンと額を小突かれてしまい思わず目を瞑れば降ってくる優しいキス。
目を開くと彼は意地悪に笑っていて…
「嗚呼、そう言えば以前コレを俺につけようとしていたな…理由は?」
「え、あ…あの、」
覚えていたのか…私は少し気まずくなってしまい、一瞬視線を逸らしたのだけれど
伝えなければいけない事だろうと思い意を決して羞恥心と戦いながらも言葉を紡ぐ。
「所有の証、と…聞いて…その、ルキさんはいつも“愛してる”って言ってくれるんですけど…言葉だけじゃ、不安で…その、少しでも…私のだって証が…欲しくて、」
「花子…」
ああもうどうしよう、ルキさんの顔が見れない。
きっと呆れてしまっているだろう…
こんな情けない感情私だって呆れてる。
「でも、付けることが出来なくて…ああ、やっぱり私のものになって頂くには、ルキさんは素敵すぎるのかなぁって…少し、悲しくて…」
芽生えたばかりの独占欲というものはあまりにも幼すぎて
私はそんな感情に戸惑い振り回されてしまう。
けれどルキさんは小さく笑い、ぐいっと私の顔を彼の首筋へと持っていく。
え、アレ?どういう状況だ?
「ホラ、付けるんだろう?」
「で、でも…付けれな、」
私が反論すれば、少しだけ強く頭を押さえつけられてしまい
強制的に彼の首に唇が触れる。
「俺が教えてやる…ホラ、花子」
「………ん、」
甘くそう囁かれて、私の思考は毒に侵された様に痺れて働かない。
彼の言うがまま、おずおずと遠慮がちにそこへ吸い付いてみる。
「ああ…弱いな。もっと、強く…」
「ん、んん…っ」
ちゅ、っと音を立ててしまい恥ずかしくなって顔を上げようとするけれど
ルキさんはそれを許してはくれなくて、ふるりと震えてしまえば困ったように笑った。
「花子、まだ足りない。もっと…ん、そうだ…いいこだな。」
「ルキ、さ…ぁ、」
ようやく解放されて不意に先程まで唇を落としていた場所を見れば
雪のような白い肌の彼に咲いた小さな赤い痕。
ああ、ようやく付けることが出来た…私は嬉しくてそっとソコに指を這わせて顔を緩める。
「ホラ、これで心も体も全て花子のものだ」
「ルキさんが…私の?」
何も持つことがなかった私に出来た、私の…私だけのもの。
じわりと胸が何かに満たされるような感覚に戸惑う。
こういう時って何と言えばいいのだろうか…
瞳を揺らしていればルキさんはまた困ったように笑って私の首筋についていたライトさんの跡をなぞる。
「なぁ花子…上書きさせてくれないか?」
「え、あの…」
「俺の心も体もくれてやる。だから…お前の心と体を俺に、」
「私、なんかでいいんですか…?」
戸惑いがちに問うてみればまた小突かれる額。
その痛みに涙を浮かべれば彼の舌によってそれは舐めとられる。
「お前がいいんだ…花子。」
その言葉と同時に首筋に舌を這わされてしまい思わず体が揺れる。
そんな私の反応が気に入ったのか低く喉で笑ったと同時に唇が落とされる。
「…んっ、」
ピリっとした甘い感覚に顔が歪む。
そっと唇離されて、彼は満足そうに微笑んだ。
「嗚呼、俺の花子、だな…」
嬉しそうにそんな台詞。
私は恥ずかしさやくすぐったさ等でいっぱいになった感情のままに彼に抱き付いた。
「はは、どうやらお前は俺の理性を試すのが趣味らしいな。」
「…知りませんよそんなの。」
呆れたように呟いた彼に精いっぱいの悪態を吐いても
彼はご機嫌なままで、私はそんな彼に抱き付いたままこの胸いっぱいの感情ごと瞳を閉じた。
戻る