33:第一次長男大戦争
「ああもう、最低…サイテー…ルキさいてー。」
「煩い黙れ貴様に言われる筋合いではないだろう。というか花子を離せ。」
「あの…、ええと…」
私としては是非この懐かし過ぎる体勢を何とかしていただきたいものである。
目の前には不機嫌すぎるルキさん。
向かい合って座るのは私。
そしてそんな私を後ろからぎゅうぎゅうと抱き締めているシュウさん。
あれから私はようやく元の生活に戻ったのだけれど、どうしてか今この体勢だ。
先程からシュウさんはわざとらしく悲しげにルキさんを睨みつけて嘆いている。
そしてルキさんの後ろには言ってはいけないかもしれないけれど地獄の閻魔さまが降臨している気がする。
「俺の花子にこんなのつけやがって…もういいよ、死んで来いよお前。」
「いつ花子がお前のものになったんだ。お前が死んで来い。そしてもう二度と帰ってくるな。」
シュウさんは盛大にため息をつきながら先程からちょんちょんと私の首筋の赤い痕をつつく。
その度にルキさんの綺麗な眉がピクリと揺れる。
「俺が…この俺が大事に大事に見守って来た花子を泣かせるし、廊下でヤろうとするし、挙句にはキスマークだと…?サイアク…花子もホント俺にしとけ。いつかボロボロにされるぞ?」
「俺が花子をボロボロにする訳ないだろう!いい加減離せ!」
バンっ!と大きな音を立てて机を叩いたルキさんは勢いよく立ち上がりシュウさんの額に自身のそれをぶつけて私の上で両者にらみ合いが始まってしまった。
いつもなら余裕な表情のルキさんなのにどうしてかシュウさんが絡むとこんな感じで非常に大人げない。
「大体な…それでも花子は俺を選んだんだ。申し訳ないが花子は俺のものだ。選ばれなかったからって僻みか?ハッ…逆巻の長男も情けない。」
「あぁ?何得意気になってんの?お前今までどれだけ花子を傷付けてると思っているんだ…一から教えてやろうか。」
あ、ああ…黒い。
外は月が綺麗に光っていて穏やかなのに、どうして私の周りだけこんなに今にも台風がやってきそうな感じで真っ黒なんだろうか。
「そもそもだ、貴様の所は弟の教育がなっていない。特にあの三つ子だ!毎回毎回花子におかしな事をしおって!」
「はぁ?そんなの俺には関係ないし。まぁ取りあえずアヤトとライトはまぁ………うん、」
「な、何したんですか…シュウさん。」
彼の台詞の濁し方に思わずぶるりと身体を揺らせば抱き締める腕に力が籠められる。
そう言えばあれからアヤトさんは一度も私の血を吸いたいとも言ってこないし、ライトさんも私を見つけても引き攣った微笑みだ。
もしかしたらシュウさんはすごく恐ろしい方なのかもしれない。けれど、私の視線に気付いた彼はニッコリと優しい微笑み。
あれ、やっぱり可愛い方なのかなぁ。
「ああもう花子が可哀想だ。過保護とか見せかけてこの野獣め。廊下で無理矢理とかサイアクだからな。」
「…っ!そ、それは未遂だろうが!」
「花子が泣かなかったらヤってだだろう」
「…………」
え、ちょ…どうしてそこで黙っちゃうんですかルキさん。
羞恥と困惑でオロオロしているとバチリと彼と目が合い微笑まれる。
「心配するな。その時はきっちりベッドでシてやるから」
「あ、あの…」
「はぁ?誰がお前なんかに花子をやるか。絶対…ぜぇーったいやらない。」
「貴様は花子の父親か何かなのか?“お父様、花子を俺に下さい”とでも言えば良いのか?」
「え、っと…」
ギリギリ。ごごごご…
いつの間にか二人は額を小突き合いながらシュウさんは私を抱き締めていた腕を離して今やルキさんと取っ組み合いだ。
そして置いてけぼりを食らう私。
…正直少しばかり淋しい。
「俺に向かって何だその態度…花子が死にかけたときに助けてやった恩をもう忘れたっていうのか?」
「生憎花子に関してだけは前を向いて歩くようにしているのでな。そんな遠い昔の事忘れてしまったな。」
両者睨み合いは一向に終息見せることはなく私は大きくため息をつく。
ごちんごちんと何度も頭をぶつけ合っての睨み合いはとても恐ろしくて、けれど出来ればお二人には仲良くして頂きたいなぁ…なんて。
ルキさんは勿論大好きだし、シュウさんにも色々優しくして頂いてる訳だし…。
「あ、あの…」
「そもそもルキは独占欲強すぎ。もうそのまま花子に怖がられて捨てられろ。」
「…………」
「貴様こそ彼氏でもないのに花子に慣れ慣れすぎるんじゃないか?花子が優しいからと言って調子に乗るんじゃない。」
「…………うぅ、」
「「!?」」
どうにか仲直りしていただこうと一生懸命話しかけるも私の言葉なんて聞いて頂けなくて
それがどうしてかすごく悲しくなってしまいじわりと涙を浮かべてしまえば二人同時に勢いよくこちらに顔を向けてくれた。
突然の事で驚いてしまい、目を見開けば零れ落ちてしまう涙にいち早く反応したのは
ガスッ!
「…っ!」
「え、っちょ…しゅ、シュウっさ…!」
固まってしまっていたルキさんをその長い足で勢いよく蹴り飛ばした彼は
倒れ込んでしまったルキさんのもとへゆらゆらと近付いて行き、その場にしゃがみ込んで乱暴に髪を掴み上げる。
私はもう今起こっている事態にオロオロするばかりである。
「おい、お前これで花子泣かしたの何度目だ?もうアレか、消えるか?ん?」
「い、今のはお前にも原因があるだろう…!」
痛みに顔を歪めつつも反論するルキさんが気に食わなかったのかシュウさんはその綺麗な顔に一筋青筋を浮かべて引き攣った笑顔だ。
うん………正直に言おう。すごく、怖い。
「ほぉ〜?随分な事を言ってくれるじゃないか…偉くなりまちたねぇルキくーん?」
も、もう本当にこのままじゃルキさんがなんていうか…うん、シュウさんに消されてしまいそうで私はどうにかしたいと思い色々頭を回転させて一番平和的に解決できそうな策を練る。
ええっと今までのお二方の行動から今私に出来る事はこの台詞だけだと思う。
正直恥ずかしいし、思い上がりにも程があるのだけれども、私はお二方に仲良くして頂きたいのだ。
「あのっ!な、仲良くして頂かないと…っ、ふ、ふたりとも…き、嫌いに…なります…」
「…………」
最後の方は恥ずかしくて消え入るそうな小さな声だったけれど
私の台詞は二人にちゃんと届いたみたいで、ビッシリと固まってしまった。
そしてシュウさんは素早くルキさんを起こしたかと思えばぎゅっと彼に抱き付いた。
そして何故かルキさんもそのまま彼に抱き付いている。
「あれ、花子知らなかった?俺達超仲良し。親友。マブダチ。」
「そ、そうだぞ花子。何でも語り合える親友なんだ。」
…引き攣った笑顔で、抱き締めあいつつ足をガスガスとお互い踏みまくっている状態で言われても全く説得力がないのですが。
そんな二人を見て私は思わず苦笑いだ。
こんな素敵で可愛らしいお二人に好かれているという事実は酷く光栄なのだけれど
どうにか仲良くして頂きたいなぁ。そんな事を考えつつ、顔を合わせれば喧嘩のお二人に少しだけ意地悪をする事にした。
「じゃぁ今日は仲の宜しいお二人と一緒にご飯が食べたいです。」
「「……………」」
二人の顔が凄く引き攣って私はもう声を上げて笑うしかできなかった。
(「あ、ごめん。手が滑った」)
(「きっさまぁ…!ナイフを投げ飛ばしてくるな!壁に刺さっているぞ殺す気か!」)
(「親友としてはせめて一瞬で眠らせてやろうかと」)
(「よし、上等だ。表へ出ろ逆巻シュウ。」)
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