34:過保護吸血鬼の日常


花子ちゃんはすごくイケメンだと思う。
それはきっと彼氏であるルキ君に似ちゃったんだろうけれど、それにしても彼女は自己犠牲精神が強すぎて傍から見ていてもそわそわしてしまう。
それは恋人であるルキ君も同じようで…


「アレ、小森さんまた貧血ですか?平気ですか?荷物持ちますね」


「あ、花子ちゃ…へいきだよ」


「いいえ、女の子が無理をしてはいけません」


エム猫ちゃんに有無を言わせないでそのまま彼女の荷物をひょいっと持ってしまう花子ちゃん。
…言わせてほしいんだけどさぁ、花子ちゃんも立派な女の子だからね?

小さく息をつけば不意に聞こえる花子ちゃんの「あ」という声。

どうしたんだろうと思えばいつの間にか彼女の隣になっていたルキ君が不機嫌な顔でエム猫ちゃんと花子ちゃんの荷物を取り上げていた。


「えっと、ルキさん…重いでしょう?持ちます。」


「黙れ。花子の手が赤くなってしまったらどうする。」


うん、過保護。
そんなちょっとした荷物だけで手赤くなるわけないじゃん。
ルキ君ってホント言っちゃ悪いけど花子ちゃんが絡むと頭悪いよね。
本人に言っちゃえば怒られるから絶対言わないけどさぁ。

そんな事を考えてると今度は花子ちゃんがさりげなくエム猫ちゃんを廊下を歩いている場所を替わった。

エム猫ちゃんが教室側、そして彼女が通行人とすれ違う側だ。

…それは彼氏がやる行動だからね。

果てしなく紳士な彼女の行動に見惚れていれば不意に彼女の肩にどっかの生徒が勢いよくぶつかる。
それと同時にルキ君の長い足がそんな生徒を蹴り上げる。
や、やめてあげてルキ君!その生徒君一般人だし、悪気があったわけじゃないし!ホラ生徒君涙目!可哀想!

するとそんなルキ君をじっと見つめていた花子ちゃんが小さくため息をついてその生徒君に深々とお辞儀。


「申し訳ないです…私なんかがぶつかってしまって…お怪我は?」


心の底から申し訳なさそうな彼女に顔を赤らめてしまう一般生徒君。うん、死亡フラグ。

言うのを忘れてしまったが花子ちゃんは以前の俺プロデュースによってとっても可愛く変身してしまっている。

前の地味な彼女ではない。そんな花子ちゃんに謝られては健全な男子としてはドキリとするだろう。
ルキ君はそんな二人のやり取りを静かに見ていたけれどニッコリ真っ黒な笑顔。


「ああ、花子…用事が出来た。すまない、すぐ追いつくから先に行っていてくれないか?」


基本ルキ君の言葉に忠実な花子ちゃんは頷いて素直にその場を後にした。
…その後一般生徒君がどうなったかは思い出したくない。

まぁヒントを上げるのであればルキ君の服に少しばかりついてしまっている返り血がすべてを物語るだろう。


「…おい花子、どういうことだ。」


「私にもさっぱりわかりません」


ルキ君がようやく花子ちゃんに追いつけば既にエム猫ちゃんはそこにいなくて
代わりに彼女にべったりと抱き付いてしまっているシュウ君。

ビキリと顔を引きつらせるルキ君とは対照的に余裕な笑みのシュウ君。
うん、いつも思うけれどシュウ君ってルキ君で遊んでない?


「さっき花子を偶然見かけたら一人だったから…口説いてる。」


「分かった理解した。どうやら貴様は本格的に俺に殺されたいらしい。」


険悪すぎる空気に肝心の花子ちゃんはもうオロオロである。
そうだよねぇ、ルキ君とシュウ君にこんなに愛されちゃってる彼女としては仲良くしてほしいよねぇ。

そんな事を頭で考えていれば不意に花子ちゃんと目が合ってしまう。
言わんとしている事は分かったけれど俺はそんな彼女に全力で首を横にする。


無理無理無理。
俺がこの恐ろし過ぎる長男の戦争を止めることが出来る訳ないじゃないか。

すると今まで睨み合っていたルキ君は徐にシュウ君に抱き締められている花子ちゃんの手を取って優しくそこへキス。
それはすごく絵になっていて、まるで何処かの王子様みたいだ。


「ホラ花子…そのような怠惰な腐れ外道の腕の中になんかいないで…こちらへおいで」


「おい、ルキ。お前随分な言い草だな。」


く、腐れ外道…!ルキ君の表現に俺は腹筋崩壊である。
シュウ君が眉をピクリと動かして花子ちゃんを更にぎゅうぎゅうと抱き締めれば笑顔だったルキ君の顔に一つ青筋が入る。
もう怖すぎて声も出ませんよ俺は。


「嗚呼、可哀想な花子…力任せに抱かれては苦しいだろう。すぐ解放してやる…そして俺が優しく抱き締めてやるからな」


そんな彼の台詞にシュウ君は無表情のまま抱き締めていた腕を解き、代わりに花子ちゃんの両手を掴みそのまま操ってぱちぱちと拍手をさせる。
その光景はまるで操り人形で遊んでいる子供のようだ。


「きゃールキさーん格好いいー花子ってばすきになっちゃーう」


「う…うぅ…」


棒読みでシュウ君は花子ちゃんの台詞を言ってみれば困ったかのように苦笑する彼女。
そしてついに我慢の限界を突破したルキ君が盛大に喚き散らす。


「上等だ逆巻シュウ!銃殺、火あぶり、生き埋め、その他もろもろ好きなものを選ぶがいい!今すぐ息の根を止めてやる!」


「俺は花子の上で腹上死したい」


ムキになったルキ君を見つめながらのんびりそんな台詞だ。
シュウ君ってホント大物だと思う。

けれどルキ君だって負けてない。
ガシリとシュウ君の顔面を鷲掴んでそのままギリギリとすごい力で持ち上げる。


「ふざけるな。誰が抱かせるか。以前にも言ったがな、花子は俺のものなんだ…それを忘れるなよ。」


勝ち誇ったような彼の台詞に俺は思わずガッツポーズだ。

俺はどちらかといえばルキ君派だ。花子ちゃんとルキ君の結婚式の際バージンロードを彼女と一緒に歩くのは誰かというのを最近ユーマ君とアズサ君とで争っている。

けれどそんなルキ君優勢のターンもそこまでで、ヌッと不気味に伸びてきたシュウ君の手が彼の頭を掴んで思い切り地面へと叩き付けた。


「調子に乗るな。最近じゃ姫が魔王に奪われるバッドエンディングだって流行っているんだ。余裕ぶっこいてるとすぐに花子を攫ってやるからな。」


そんな彼の台詞に固まって傍観していた花子ちゃんが首を傾げてトンデモ発言。


「姫って…私はどちらかといえば村人Aですが。」


一瞬静まり返る廊下。
それもそうか。この場面で彼女の台詞はお馬鹿すぎて呆れてしまう。
けれど順応性の高いシュウ君は徐に正面から花子ちゃんをぎゅうぎゅう抱き締める。


「じゃぁ俺村人B。結婚しよう村人A。」


「え、あの、シュウさん魔王でしょう?」


「魔王は廃業。村人として慎まやかに花子と愛しい毎日を送る。めでたしめでたし。」


「な、何がめでたしめでたしだ!離れろ!」


大きく叫んだルキ君がべりって音を立てる勢いでシュウ君と花子ちゃんを引きはがす。
するとシュウ君はすごく不機嫌な顔で一言。


「王子様が御乱心した。俺はホモじゃない。」


「生憎俺も同性愛には興味がない。早く消えろ殺すぞ。」


「あーれー。たすけて村人A−。」


そんなのんびりとした可愛い口調なのにまたシュウ君はルキ君を蹴り飛ばす。
口調と行動が一致してなくて、呆然と見つめていれば花子ちゃんは苦笑。

…アレ、もしかしてこの状況を優しく見守っている花子ちゃんが一番大物だったりする?

けれど瞬間彼女の頭からぼふんと大きな立ててはいけない音が上がってしまってルキ君とシュウ君はピタリと固まってしまった。

そして同時に後ろに倒れそうになった花子ちゃんの身体をガシリと支える。


「…最低。ルキマジ最低。」


「うるさい黙れ。…しかし今回ばかりが俺に否があるか…」


小さくそう呟いたルキ君はそのまま花子ちゃんをお姫様抱っこしてこちらへすたすた歩いてくる。

シュウ君は真逆の方へとため息をつきながら歩いて行く。きっと行先は教務室。
察するに花子ちゃんの早退を知らせに行くのだろう。こういう抜け目ないところ素直に格好いいと思う。


「ねぇ、ルキ君…花子ちゃん平気?」


ひょいっと彼の腕の中の花子ちゃんを覗き込めばぐるぐと目を回してしまっている。
ああ、しんどそう…


「ああ、今まで色々あったからな…疲れが出てしまったんだろう。」


愛おしげに花子ちゃんを見つめながら微笑むルキ君は今までの俺の知っている彼ではない。
すっごく優しげな瞳に思わず俺がドキリとしてしまう。


「そうだ、コウ。俺はこのまま花子を連れ帰るから、買い物を頼まれてくれないか?」


「うん!いいよ!まっかせなさーい!」


どんって勢いよく自分の胸を叩いてふんぞり返る。
それくらい可愛い可愛い将来の義姉ちゃんの為ならお安い御用さ!
するとルキ君は静かに息を吸って早い口調でまくしたてた。


「じゃぁ、風邪薬と栄養ドリンクと消化に良いゼリーとスポーツドリンク、後はそうだな氷枕とパジャマも必要か、確か花子のサイズは…」


「わわわわちょちょちょっとまってまってまって!メモ…!メモ取らせて!」


慌てる俺の静止をよそにルキ君は尚も言葉を続ける。
も、もうもうもう!ルキ君の過保護も大概にしてよね!ていうか何で花子ちゃんのサイズとか知ってんのさ!


「ヘタレ参謀のクセに…」


「ああ、すまない。聞こえなかった。もう一度言えるものなら言ってみろ」


「す、スイマセン!お使い行ってきまーす!」



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