35:贈り物の意味
「ねぇ、花子ちゃん!花子ちゃんはルキ君にどんなチョコをプレゼントするの?」
「え?」
『え?』
コウさんのウキウキした質問に首を傾げれば
無神家長男を覗いた三兄弟がピシリと固まってしまった。
…そして今に至る。
「や、無理です。無理ですってば…」
「ぅるせぇ!作るっつったら作るんだよ!」
何度も首を横に振っても一向に聞き入れてくれないユーマさん。
手には大量のチョコの材料がかごいっぱいにあふれかえっている。
そして今すぐにでもこの場から逃げたいのにそれをアズサさんがしっかり抱き締めて阻止してしまっている。
…アズサさんってこんなに力あったんだ。
「にげちゃ…だめ。ルキ…楽しみに、してるんだから」
「そんなまさかまさか…ある訳ないですよ」
それでも彼の腕の中でじたばたと暴れていれば
ようやく私達に追いついたコウさんが息を切らせながらこちらへ駆け寄って来た。
両手には大量のきらきらした包装紙などのラッピング材料が見える。
もうここまで来たら嫌な予感以外全然しない。
「全く、俺が聞かなかったらバレンタインにチョコ渡さないままだったとか勘弁してほしいよね!」
だって仕方ないと思う。
ルキさんはよくご飯を作ってくれるのだけれど、それもどれもがとてもおいしくて…
そんな人に手作りチョコ?ふざけるにも程がある。
何が悲しくて態々料理上手な彼に不格好なチョコを渡さなければならないのか…
「駄目です。材料の無駄です。ルキさんが受け取ってくれるはずないです。」
「何処からやってくるそのネガティブな自信!」
コウさんが頭をわしゃわしゃと掻き毟りながら叫んで
私はそのまま無神家のキッチンへと連行されてしまう。
ルキさんはどうやら今日はお留守のようだ。
「えっと、本当に作るんですか?」
何処からか用意された可愛らしいエプロンを付けさせられて
戸惑いがちに背後でじっと監視する三人に問えば同時に首を縦に振られてしまう。
うぅ…こうなってしまってはもう逃げ場はない。
私は小さく息をついて用意された大量のチョコレート達に手を付ける。
…本当に、誰かのために何かを作るのっていつ振りだろう。
こんな恐ろしい事久々だ。
一生懸命作れば作るほど、捨てられたり断られたりするときのショックは計り知れないはずなのに
気が付けば私は夢中でチョコづくりに励んでいた。
ああ、ほんと…私、変わったのかもしれない。
「で、でき、まし…た、」
それから数時間後、大量にあったチョコを全て使い切って出来上がったのは
ピンクと、オレンジと、スカイブルーとブラックの四色のそれぞれラッピングされたチョコたち。
コウさん、ユーマさん、アズサさんは一つだと思っていたらしく、きょとんとチョコと私を交互に見つめる。
「あ、あの…いつも、皆さんにはお世話になってる、ので…その…」
いつだってマイナス思考過ぎる私の背中を押すと言うか抱え上げて放り込んでくれるのはこの三人で
お蔭で私はこうして今回もルキさんの彼女らしいことをすることが出来た。
だから、だからせめてものお礼にとこうして彼等にもささやかだけれど感謝の気持ちを沢山込めてチョコを作ってみたんだけれど…
「うけとって…くれます、か?」
ああ、どうしよう。不安で不安で声が震えてしまった。
もしかしたら余計な事をしてしまったのかもしれない。
そもそもこんなのでこの三人が喜んでくれるもの限らないのに…
けれど私の考えをよそに降りかかって来たのは大きくて冷たい三人分の体だった。
「あ、あの…え?」
「ありがと!花子ちゃん!さいっこうの友チョコだよ!」
「やっべぇ、シュガーちゃんしばらく放置だわコレ」
「ふふ…やっぱり、花子は、すてきなお姉さんだなぁ…」
ぎゅうぎゅうと三人に抱き締められてしまって
もう完全に周りが見えなかったけれど、どうやらすごく喜んでもらえたみたいだ。
ああ、誰かのために頑張るって…なんだか幸せなもしれない。
小さく声を出して笑えば、どうしてか三人の体がビクリとすごく大きく揺れた。
そしてガタガタと小刻みに動いてしまっている。
え、何…どうしたんだろう。
「さて、どういう事か説明位は出来るのだろうな。弟達よ。」
「る、ルキさん?」
酷く穏やかな彼の声が聞こえて、もぞもぞと動きながら姿を確認すれば
どうやら買物帰りだったようで、お店の袋を持ちながらニッコリ微笑んでいる。
…顔には青筋が何本も入ってしまっているが。
「えっと、ルキさん…」
「コウ、ユーマ、アズサ」
『…………っ!』
三人は名前を呼ばれた瞬間弾かれた様に私から勢いよく離れて
まるでそうやって躾をされているかのように素早くルキさんの前に姿勢正しく正座した。
何だこの光景。
「俺がいない間に花子と何をしていた。というか花子に何をしていた。事と次第によっては調教をしてやるが…?」
とんでもない物騒な発言に私は気が付けば黒くラッピングされたそれを持って
彼と弟達の間に立ってしまっていた。
「花子?」
「ち、違うんです!」
いつもより大きな声をあげれば少しばかり驚いた表情のルキさん。
固まった彼に対して私は言葉を続ける。
「みんな私がバレンタインのチョコ作らないって言ったから協力してくれただけです。何もしてません。だから…怒らないであげてください!」
「…花子の口からそんな言葉が出るとはな。」
そりゃそうだ。
今まで彼の行動に意見するだなんてした事ないもの。
どうしよう…嫌われてしまうかもしれない。
けれど、けれどこんなに私の為に動いてくれる三人が大好きなルキさんに酷い仕打ちをされるのなんて見たくないもの。
自分が今している事が凄く大胆な事に気付いて、少しばかり体を震わせれば
ふわりと大きく手冷たい手が優しく何度も私の頭を撫でる。
思わず見上げると、私に意見されたにもかかわらず嬉しそうなルキさんの顔。
「こういうのも、花子となら悪くない。」
「ルキさ、あ…」
すごく嬉しそうな彼は徐に手に持っていた黒いチョコの箱をひょいっと取り上げて
代わりに真っ白な雪のような箱を空いた私の手に乗せた。
「これ…」
「折角だからな。逆チョコだ。」
耳元で囁かれて顔が一気に赤くなるのを感じる。
ああ、私、本当にルキさんにチョコ作ってよかった。
「あり、がと…ございます」
だって大好きな人からの贈り物はこんなにも嬉しくて胸がいっぱいになるんだもの。
彼にチョコを作った事も、彼にチョコを貰った事も
嬉しくて嬉しくて嬉しくて
私は心から最高に幸せだと顔を緩めて微笑んだ。
(『あ、あの〜…もう正座、いいですか?』)
(「「……………あ。」」)
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