36:垣間見える本音
「…おい、何でルキがここにいるんだ。」
「えっと、」
「ああ、俺の事は気にしないでくれ。精々花子の義理チョコをありがたく受け取るが
いい。」
目の前には酷く不機嫌なご様子のシュウさん。
そして私の後ろには対照的に余裕の笑みのルキさん。
正直普段の真逆の立ち位置である。
実は無神家の皆さんにチョコを作っているときにこっそりもう一つ作っていた。
どうしてかわからないけれどいつもいつも私の事を助けてくれるシュウさんにも感謝の気持ちを伝えたくて。
最初は彼に渡すことをすごい勢いで大反対されてしまっていたけれど
自分に全く自信がなかったときも、どうしたらルキさんに好かれるか悩んでた時も…
私が死にかけたときに助けてくれたのも全部全部シュウさんで、
どうしても渡したいと必死に懇願すれば
同伴という条件付きで了承してもらった。
…現在しっかりとルキさんの腕の中である。
「花子は今から俺に手作りチョコを渡すんだろう?早くその汚い手をどけろ」
「ああ、そうだったな。ぎ・り・チョコを渡すんだったな」
あの、そんなに義理を強調しなくてもいいと思うのですが…
ようやく彼の腕から解放されて遠慮がちにシュウさんの前まで歩いて行く。
じっと私が辿り着くのを待ってくれるシュウさんはとても優しい。
「あの、いつも…たすけてくれて、ありがとう…ございます。」
「ん、ありがとう…花子」
小さな黄色い箱を差し出せばシュウさんは柔らかく微笑んでそっとそれを受け取ってくれる。
そしてそのまま小さな音を立てて頬にキスをしてきてしまったから大変だ。
瞬間、聞き慣れてしまったゴチンっ!と言う鈍い音が響き渡ってしまった。
お約束の様に私の頭上ではご長男の戦争勃発である。
「貴様義理男の分際で調子に乗り過ぎじゃないか?」
「本命ヘタレ野郎の為に唇は避けてやったんだ。有難く思ってもらいたいな。というかルキは俺に向かっての言葉遣いがなってない。表出ろ」
「上等だ、」
そう言って二人して扉の方に向かったのはいいけれどルキさんが部屋から出て
何とシュウさんはそのままぴしゃりと扉を閉めて鍵をかけてしまった。
ああ、これ…後ですごい事になりそうだけれど。
そんな事を考えてたらシュウさんがいたずらっ子の様に笑ってくたりと首を傾げる。
その光景はいつもの気だるげな感じではなくて何処か少年のようなあどけない雰囲気で思わず固まってしまった。
「これからも花子が悩んだり傷ついたりしたら俺の所へおいで?…全部救ってあげる」
「どうしてそこまで私の事を…?」
それはずっとずっと疑問に思っていた事だった。
私はシュウさんに何かした覚えは全くないのにどうしていつも彼はこんなにもよくしてくれるんだろう。
彼は私の問いに少しばかり瞳を揺らした気がしたけれどいつもの表情に戻ってまたふわりと微笑んだ。
「俺はいつだって、どんな花子でも愛してるよ。」
よく分からない彼の言葉と共に大きな音を立てて蹴破られた扉。
…蹴破られたというよりかは木端微塵なのだが。
もうもうと煙が経ってしまっているそこから恐ろしい形相のルキさんが現れたかと思えばシュウさんはいつもの意地悪な笑みを浮かべて
徐にぎゅっと私を抱き締めてしまう。
「あーあ、折角花子と良い感じだったのに邪魔とか…意味わかんない。」
「シュウさん?」
彼の誤魔化すような台詞に少しばかりの疑問符。
けれど何も知らないルキさんはビキリと青筋を立ててしまう。
そして彼は私の耳元で私にだけ聞こえるように呟いて徐に腕を離してしまった。
「はぁ…ルキがうざいから萎えた。俺はもう寝る。花子、コレ…ありがと」
ひらひらとチョコを振りながらこの場から退場してしまうシュウさんの背中をじっと見つめてしまう。
何だかその背中が小さな少年の様に見えてしまって…
「花子、逆巻シュウに何かされなかったか?平気か?怪我はないか?」
「だ、大丈夫ですよ…落ち着いて下さいルキさん」
がしりと肩を掴まれてそのまま至近距離で顔を覗き込まれてしまえば必然的に顔の温度が上がってしまう。
全く…どうして彼はここまで私に過保護なのだろうか。
けれどそれがうれしくてくすぐったくてどうしても笑ってしまう。
ああ、彼に大切にされるってどうしてこんなにも胸が暖かくなるんだろう。
酷く勿体無いこの感覚に私はどうやったらお返しが出来るのだろうか…
私が出来る事なら何でもしたいのだけれど。
それは先程出ていってしまった彼も同じ事で…
私はどうしたらこの大きな愛情に応えることが出来るのだろうか。
体も器も思考も何もかも小さすぎる私に何が…何が、
“俺はいつでも花子の味方だよ”
シュウさんが囁いた私にだけの言葉が脳内に響き渡る。
私は未だにその言葉の真意ですらつかめずにいる。
彼の、シュウさんの揺れた瞳も言葉も全部全部、私には分からないことだらけだ。
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