39:自己愛への一歩
今私の足は全く動こうとしない。
決心はした…したのだけれど。
「花子ちゃん早くはやくっ!ルキ君可哀想だから!!」
「え、な、何でルキさんが可哀想なんですか、コウさん…」
ルキさんの部屋の前で固まってしまっていれば
後ろからこそこそとコウさんが私に耳打ちをした。
可哀想って何だろう…私は怒らせはしたが悲しませてはいない。
シュウさんは家の前までは着いてきてくれたのだけれど
「これ以上は俺が可哀想」って言ってそのまま何処かへ行ってしまった。
「オラ、花子。はやくしねぇとまた俺達が放り込んじまうぞ?」
「あ、あわわわ。わか、わかりました。分かりましたから…大丈夫ですユーマさん」
わしゃわしゃと私の頭を撫でながら口調は乱暴なのに心配そうな顔で私の顔を覗き込んでくれるユーマさんは本当に実のお兄さんみたいだ。
意を決して扉に手をかけるけれどやはり緊張で震えてしまっている。
するとそんな私の手にふわりと重ねられた冷たい手。
「アズサさん…」
「だいじょうぶ…花子なら、大丈夫だよ…」
優しくそう言い聞かせる様に微笑んだアズサさんに最後は背中を押される形で
初めて自分からこの扉を押し開けた。
「…ルキさん。」
「………花子か。…答えは分かったのか?」
本を読んでいた彼はその視線を外さないまま私に言葉を投げかけた。
ああ、やっぱりまだ怒ってらっしゃる…
けれど今日はここで引き下がるつもりはない。
恐る恐る一歩二歩と彼に近付いて小さく息を吸った。
「私…少し、自分…大事にします。私が私を大事にしないの…私を愛してくれてるルキさんに…失礼だし…それ、…に!?」
言葉を続けようとしたけれどそれはかなわなかった。
今までとは全然違う、力強い腕にぎゅうぎゅう抱き締められてしまって私は動揺を隠せない。
「ルキさん…?」
「そうだな…突然は難しいだろう…少しずつでいい。…今は花子がそれに気付いてくれただけで俺は嬉しい」
気が付けば先程まで読んでいたであろう彼の分厚い本は床へと放り出されてしまっていて
彼もまた、感情のままにこんな行動に出たのだと思うと少し胸が苦しくなる。
「あ、あの…ルキさん」
「ん?」
もぞもぞと彼の腕の中で動きながら今一番言いたいことを口にする。
まだ恥ずかしいし、怖いから彼の目を見ながらは主張できないけれど…
「あの、もう保健室みたいな吸血は…嫌です。」
「花子、」
あ、ルキさんの声…ちょっとだけ驚いたような感じだ。
そうだろうな…いつもならルキさんの好きにすればいいって言っていたし、そう思ってた。
でも…私は私を少しずつ大事にするって決めたんだ。
小さすぎる勇気を何とか振り絞って
でもそうしても震えてしまう声で必死にそのまま言葉を紡ぐ。
「私は貴方の餌じゃなくて…こ、恋人…なので…もっと、優しく…」
「…………ああもう、」
抱き締められていた腕の力はするすると緩んでしまってルキさんはそのまま床にへたり込んでしまった。
ど、どうしたんだろうか…
少し心配になってしまって私も彼同様その場にしゃがみ込んで俯いてしまっているルキさんを覗き込む。
「あ、あのルキさん…?どうしたんですか?」
「ああ、わかった…もう二度とあのような吸血はしない約束する誓う。誓うから今はそっとしていてくれ…」
少しばかり早い口調でそう言われてしまえばもう私にはどうする事も出来ない。
只々また以前の様に少し震えてしまっているルキさんが落ち着くまで見守る事しかできない。
今は本当にまだまだ全然だけれど
これから少しずつ…少しずつでいいから私を愛してくれている人を悲しませないように
私は私を大切にできればいいと思う。
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