57:愛おしい黒薔薇
真っ暗な夜空に溢れんばかりの黒薔薇…
独りきりでぽつんと立ち尽くしていた私の最愛は静かに空を仰いでいた。
「る、ルキさんっ!」
「!?…花子!?どうした!お前、結婚式は…というか何だそのドレスは!泥だらけじゃないか!」
私の大きな声に驚いたのかビクリと体を揺らしたルキさんは勢いよくこちらを振り向いたけれど
この姿に驚いたのか一目散に駆け寄ってガシリと私の肩を掴む。
「ああ、もしかして走って来たのか?この姿で…怪我はしてないか?どこか痛むところは…」
「え、あの…ルキさん…っ」
「まさか逆巻シュウが式の途中でお前を投げ出したのか…?いや、アイツに限ってそんな事…」
「ルキさん!」
止まらない彼の久々過ぎる過保護に私がもう一度大きな声をあげて彼の名前を呼べばハッと我に返ったのかすぐに私を離して大きな距離をとる。
ああ、悲しい…やっぱりこうして離れてしまうのは悲しいです。
「…どうしてここへ?」
「ルキさんに会いたくて…」
「貴様は利用された者の所へ態々足を向けるのか…とんだ愚か者だな。」
そんな酷い言葉を掛けられているのに私の顔は悲しみで歪むことはない。
…だってルキさん、すごく悲しそうな顔でそんな事言うんだもの。
以前は動揺しすぎて分からなかったけれど今ならとてもよく分かる。
ルキさん…何かを酷く我慢している。
「私にニセモノの顔使っても無駄ですよ。…歴は私の方が長いので。」
「花子…」
ゆっくりゆっくり彼の方へと足を進める。
周りの黒薔薇達が先程のバージンロードのようで思わず小さく笑ってしまう。
此処には参列者も誰もいないのに…何だか二人きりの結婚式のようだ。
「ルキさん、私は超能力者ではないので貴方が何を考えているかはわかりません…でも、無理をされているのは分かります」
「………っ、」
ようやく彼の傍まで辿り着けば苦しそうに顔を背けられてしまう。
けれど私は彼を見つめる視線を外さない。
「貴方の中で私が単なる計画の駒でも…何でもいいです。私は貴方の傍にいたい…」
「花子、お前…」
「ルキさんは私をシュウさんの傍に置いておきたいのだとしても…私は、貴方の傍じゃないと嫌なんです。」
最終的な結論に行きつけばもう後は全てを言葉にするだけだ。
揺れる瞳の彼をまっすぐ捕えた私はきっと今、誰よりも強い。
これがきっと本当の私の意志というやつだ。
「最後の最後に貴方を計画を台無しにしてしまった使えない駒でごめんなさい。…どうしても貴方を愛してるんです。」
それは紛れもない事実で、幾らルキさんがいらない、必要ないって思っていても
もう私は彼なしでは何もできない。
だから申し訳ないけれどもうここからは本当に私の単なる我儘を貫かせてもらいたい。
「…ルキさん?」
「花子…っ、この…大馬鹿者!」
「えぇ!?」
気が付けば強く強く彼に抱き締められてしまっていて
その力は弱まる事を知らないかのようにどんどん強くなっていってしまう。
そして何故だか分からないけれど盛大にルキさんに怒られてしまった。
「俺はもうお前に何も与えることが出来ないんだぞ?そんな男の傍に居たところで花子の幸せはもう…」
「…そ、そんなの!私が幸せかどうかなんて、私が決めることです!る、る、ルキさんには関係ありませんっ!」
彼の悲し過ぎる言葉に私はその場の勢いでとんでもない悪態を吐いてしまった。
けれど今の私はそれを謝罪するという余裕はない。
只々もう離さないでくれと自らも彼の背中に腕を回して力いっぱい抱き締める。
「私はルキさんの傍が一番幸せなんです。異論はいくらルキさんでも絶対…絶対認めませんっ!」
「花子…っ、ああもう…本当にやめてくれないか…離せなくなる。二度と…もう、二度と…」
「誰が離してくださいなんて頼んだんですか…ルキさんの馬鹿。」
じっと彼を見上げれば少し驚いた表情をしたルキさんが酷く嬉しそうにほほえんだ。
あ、この顔…久々に見るかもしれない。
「花子に馬鹿と言われたのは…初めてだな。」
「………はっ!ああああのあのあの!すすすスイマセ…っつい勢いで…んぅ、」
とんでもない事を言ってしまったと、ようやく謝罪の言葉を口にしようとすれば
それはあっさりと彼の唇によって塞がれてしまった。
冷たいはずなのに暖かくて胸が柔らかくなるのはきっと彼の愛情が籠っているからと自惚れたい。
「許さない。だから罰として、一生俺から離れないでくれ。」
彼のそんな懇願の言葉に私の顔は幸せに緩んだ。
離れません。もう何があっても…貴方から、もう絶対。
二人で強く強く抱き締めあって同時に微笑めば
少しだけ強い風が黒薔薇の花弁を散らした。
「なぁ花子…またお前を俺の愛で縛り上げても構わないだろうか?」
「えぇ、勿論…貴方に捕らわれるのが私の幸せなんですから。」
いつの間にか、無神ルキと言う甘い檻は酷く私の中に浸食していたようで…
もうその檻の中でしか私は素直に心底幸せに微笑むことさえできないでいる。
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