61:いつか
俺は他の連中より少しだけ背が高い。
ゴンっ!
「いって!!」
なのでよく扉のてっぺんに頭をぶつけてしまったり…
小さなガキに「怖い」とか言われて大泣きされたりしてしまう。
この身長で得する事もありゃ嫌な気分になる事もよくあるもんだ。
「………!」
花子に初めて会った時もアイツはビビッて体を揺らしてた。
いつもの事だからしゃがんでやって俺は別に怖くねぇって笑って頭撫でてやりゃすげぇ勢いで首がガクガク揺れて思わず焦った。
人間の雌豚は脆いって言うのをよく忘れちまうから。
でもその時、花子がおかしそうにへにゃりと笑ったのが実はすげぇ印象的でずっと覚えてるのはナイショの話だ。
「たなぼた?」
「あ、いいえ違います七夕です。たなばた。」
いい加減蒸し暑くなって来た季節に聞き慣れない四文字を呟いた花子の言葉を復唱してみれば
あわてて訂正されちまった。別に「ぼ」と「ば」くらい変わんねぇと思うけど…。
「ええっと簡単に言えば年に一度しか会えない恋人同士が会える日とでも言うのでしょうか…あ、あと笹に短冊を飾って願い事をかなえると言うのもやります。」
「そう言えばそのような行事が日本にはあったな。」
ルキの隣にぴったりくっついてる花子がその「たなばた」って奴について教えてくれたけど
そうか…短冊に願い、ねぇ。
俺とコウ、アズサは互いに目配せして一緒にガタリとその場から立ち上がった。
すると花子はどうしたのかと首を傾げるが、流石兄のルキはこれからおっぱじめる事を理解したのかなげぇ溜息を吐く。
「っし!折角だからその七夕ってのやってみようぜ!!」
「そうだねー!俺もお願い事書きたいし!!」
「うん…俺、も…ナイフもっと、欲しい…」
三者三様にはしゃげばルキの「やはりそうなるか…」っつーノリの悪すぎる言葉と
花子の「す、すいません、私が余計な事を言ったばかりに」というルキへの謝罪の言葉を耳にする。
ったく、花子はちっとルキに気使い過ぎなんじゃねぇの?
そうと決まれば話は早い。
コウとアズサが短冊調達係、図体が一番デカい俺は取りあえず沢山短冊が飾れそうな出来るだけデカい笹の調達へと走り出した。
後ろからルキの三度目の溜息と花子の苦笑が聞こえたけれど今回は無視だ。
俺とコウとアズサにはどうしても叶えたい願いってのがあるんだ。
「コウ、ユーマ、アズサ…コレは一体何なんだ。」
それから暫くしてそれぞれ短冊と笹を用意して
皆で願い事を書けば俺達の記入済みの短冊を持ちながら内容を見たルキがぶるぶると震えだした。
「だーって俺、もぉーっとボンゴレちゃん食べたいんだもん!!」
「だからと言って365日三食ボンゴレビアンコ食べれますようにはないだろう!!栄養失調になる!!」
「やー!最近あの菜園だけじゃ物足りなくてよォ。できれば…な?」
「何が出来ればだ!!屋敷中の庭を家庭菜園で埋め尽くしたいは無謀だろう!!しかもトラクター免許が欲しい!?何をする気だユーマ!!」
「ルキ…俺、の…お願いは…まともだよ…?」
「そうだなもっとお友達が欲しいだもんな…なんて騙されるか直訳すれば新しいナイフ大量に買えじゃないか俺達の家計はそんな甘くなんだぞ。」
俺達の願い全てに全力でツッコミを入れたルキは疲れたのかまた溜息をついたけど
やっぱそこは兄貴だからなのか書き直せとか全て無効だとは言わずにそのまま俺が取って来た笹に全員分の短冊を飾ってくれた。
多分、そういう変なとこ優しいのも花子にしてみれば魅力的なのだろう。
だって花子が短冊を飾るルキの背中を見てる目、すげぇ優しい。
「あー…っと、ルキと花子も書いて来いよ。折角だからみんな飾ろうぜ。」
「そうだな、たまにはこういうのも悪くない。…花子。」
「は、はい。そう…ですね。何と言うか本当に皆さんと七夕が出来るなんて思ってもみませんでした。」
俺の少し不自然な言葉にルキは只素直に短冊を二枚取って一枚花子に渡す。
何を書くかわかんねぇけど二人が願いを書いている間に俺達三人にはやる事があるのだ。
後ろ手に隠された俺達の三人のホントの願い事をアイツ等に見つからねぇように飾りたい。
「ユーマ君…」
「ユーマ…」
小さな声でコウとアズサが俺の名前を呼び、二人の短冊を俺に差し出した。
それをこっそり受け取って俺はニヤリと意地悪く笑うのだった。
「任せとけ」
「……さて、書けたか。ではそうだな…少しでも願いが星に届くように高い所にかけておこうか。」
俺達のこっそりした願いを飾り付けた後に何も知らないルキがぐっと手を伸ばして少し高い場所に彼の願い事を飾る。
その直ぐ下では花子も負けじと一生懸命手ェ伸ばしてブルブル震えながら飾り付けてるからすげぇ可愛くて思わず吹き出した。
…ホントは二人の短冊も俺が付けてやりてぇけど今回ばかりは手を貸すつもりはねぇ。
一番お星さんに近付いて叶えるのは俺達三人の願いって決まってんだよ。ワリィな。
「よいしょ。…出来ました。…ってルキさんなんですかコレ。」
「俺の願いだが。…というか花子こそ何だコレは」
二人でじっと互いの願いの内容を見て二人で困ったように笑ってる。
まぁ仕方ねぇなコレは。
俺達も二人の内容を見て相変わらずなルキと花子に小さく息を吐きながら笑った。
『花子が幸せになりますように』
『ルキさんが幸せになりますように』
お互いにお互いの幸せを願うなんざホントお前ららしい。
でも、そうだなぁ…俺達弟勢としてはその願いはちっと惜しい。
「さてっとぉ!今日はこのまま晴れるみてぇだしぃ?俺達の願いは100%叶うな。待ってろ家庭菜園とトラクター!!」
「……俺としては叶ってほくはないがな切実に。」
苦笑してルキはそう言うけどでも多分本気じゃない。
ルキも多分花子と俺達とこういう穏やかな行事が出来て内心嬉しいんだろう。
チラリと笹の一番てっぺんに飾られてる三つの短冊を見つめて「へへっ」と小さく笑う。
デカい俺が背伸びして頑張って一番星に近い位置につけたんだ。絶対叶えろよ、年に一度しか会えないバカップルよ。
『ルキ君と花子ちゃんがずーっと笑顔でいれますように コウ』
『ルキと花子が一生離れませんように ユーマ』
『ルキと花子が永遠にしあわせでいれますように アズサ』
背がデカイと嫌な事って結構多い。
でもこうして…すげぇ大好きな二人の幸せを一番空に近いとこまで持ってこれるってのは存外悪くない。
いつかルキと花子の願いの接続詞が「が」ではなく「と」になるって事を
俺もコウもアズサもこっそり願ってる。
花子がしあわせにとか
ルキがしあわせにじゃなくて
いつかでいいから二人が
花子としあわせにと
ルキと幸せに
そう言える時が来ますように。
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