63:夏の思い出
「海に行こう!」
「行ってらっしゃいませ。ええと、では私は図書館にでも…」
「何言ってんだよ花子オメェは馬鹿かルキにセクシーな水着披露すんだよ逃げんな。」
そそくさと彼らの前から逃げようとすれば首根っこをユーマさんに掴まれて捕獲されてしまう。
ガタガタと震えながら振り返るとコウさん、ユーマさん、アズサさんが悪い顔してニヤリと笑った。
「嫌です無理です私自分の事嫌いじゃなくなりましたけど自信はないんです勘弁してください。」
シーツにくるまって部屋の隅に避難すればそのままの体勢でひょいっとユーマさんに担がれてしまいじたじたと足をばたつかせて大暴れするけれど
ユーマさんは全然気にも止めずにずんずんと何処かへ歩きだしてしまう。
「ま、まって…ほんと、まってください水着…嫌です…ホント、無理です。」
「なに言ってんの!この前裸でルキ君とお風呂入ったじゃない!今更だよね!」
「花子…ルキと…おふろ、はいったの…?俺の妹か弟は…?」
私の抵抗虚しく彼等はどんどん進んでいってしまう。
あああどうしようこんな事になるんだったらダイエットとかしとけばよかった。
というかアズサさん、なんでルキさんとお風呂に入ったイコールそれに直結するんですかもう私顔真っ赤なんですが。
「で、でも…水着。水着ないです…スクール水着しか…」
「「「は?」」」
ユーマさんに担がれながらそもそもな話をすれば
ようやく彼らの足はビシリと止まってれたが同時にとんでもなく微妙な空気が流れてしまった。
「う、ううう…サイアクだ。」
「それはこっちの台詞だよ!もうもう!海に直行したかったのにまさかの水着持ってないとか勘弁してよね!!」
ぷんぷんと怒っちゃってるコウさんの両手には大量のピンクな女のモノの水着。
どれもこれも可愛すぎてなんだかちょっと…うん、私には無理だ。
「んだよコウ!全部ガキくせぇのばっかじゃね?おう花子、コレはどうだ。」
「ぬ、布面積少なすぎます…!」
そんなコウさんの頭にのしっと顎を乗せたユーマさんがずいっと私に見せたのは
その…なんともまぁ…セクシーと言うかあの、これ私が着たら痴女じゃないですか?というものだった。
ユーマさんは私に何を求めてるのだろう。
「そ、そもそも私水着なんてそんなの無理ですよ恥ずかしい…私の事はいいので皆さんで楽しんで来て下さい。」
私が学校指定の水着しか持っていないと言えば彼等はそのまま海に向けていた足をクルリと方向転換して
可愛らしいショップの水着売り場までこうしてやってきてしまったのだ。
しかし当の本人の私は全く乗り気ではない。
だってルキさんに水着姿を見せるとかなんだか…恥ずかしい気がする。
そんな事を考えて思わず顔を赤くすればどうしてだかコウさんもユーマさんも困ったような嬉しそうな感じで苦笑してしまう。
彼らの真意が掴めずに首を傾げていると私と二人の間からぬっとアズサさんが現れた。
あ、アレ…こういうの前にもやられた気がする。
「花子の水着は…コレ。」
「わぁ…」
アズサさんにショップバッグをぐいっと押し付けられて思わず受け取ってしまえば
後ろのコウさんとユーマさんが「抜け駆け狡すぎる!」って声を荒げてしまったけれど
当のアズサさんは全く気にしてないといった感じで嬉しそう。
そしてそのままスススと私の後ろに回り込んでぐいっと背中を押し始める。
「コウ…ユーマ…早く行こう…?俺、みんなとはやく海水浴…したい。」
「全く…アズサ君ってばマイペースすぎ。でもそうだねぇ…早くいかないと一日終わっちゃう!」
「だな!オラ花子、行くぞ!!!」
右腕をコウさん、左腕をユーマさんに掴まれてそのまま勢いよく前進してしまう。
突然の事で驚いてしまって「ぅええ!?」と変な声が出てしまい、三人がそれを聞いて声をあげて笑ってしまう。
うう、恥ずかしい…
けれどもっと恥ずかしいのはこれからだ。
だってその…もう逃げられない。
わ、私は人生で初めて最愛の前でこの水着姿というモノを晒す羽目になるみたいだ。
「皆で海水浴?…俺はいいから皆で楽しんでくるとい、」
「うるせぇ!それは冒頭で聞いたわ!!黙って来い!!似た者カップルが!!!」
再度無神家に戻ってルキさんを誘おうとしたら全く同じセリフを言っちゃったものだから
ユーマさんがビキリと青筋を立ててルキさんを愛読書をぽーいと放り投げてそのまま彼と私を誘拐するかのごとく部屋から連れ出してしまう。
うう、い、今更吸血鬼は太陽苦手なんじゃないですか?
とか言い訳がましく聞いても無駄な感じだなぁ…コレは。
私の諦めの溜息は誰にも聞かれないまま
珍しく青空と眩しい太陽へと吸い込まれて消えた。
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