64:砂の城
「か、覚悟を決めないと…」
更衣室に入って数分、私は未だにショップバッグを開けることが出来ないでいた。
けれどいつまでもここままだという訳にもいかない。
勇気をだし、小さく息を吐いてアズサさんから頂いた水着を取りだして、瞬間ビシリと固まってしまった。
「だ、誰か嘘だと言ってください。」
「おう花子!オメェ着替えにどんだけ時間かかってんだよ日ぃ暮れるわ!!」
「ゆゆゆゆゆユーマさ…っうわぁ!?」
取りあえず着替えてみたはいいものの、恥ずかし過ぎてずっと外に出れずにいれば
痺れを切らせたであろうユーマさんが大きな音を立てて更衣室へ殴り込んできて、そのまま私を担ぎ上げて外へと飛び出した。
あ、あの!ここ、女子更衣室で…その、も、もし私が着替え途中だったらどうしたんですか!!
そんな事を頭の中で喚きつつも、大人しくされるがままになってしまった。
「あー!花子ちゃんおそーい!って…花子ちゃんのお尻に話しかけてもダメか。ホラホラ、ユーマ君降ろしてあげなよ。」
「ったく、いつまで経っても出てこねぇからこんなこったろうと思ったぜ…っと。」
「ううううう」
ユーマさんの肩に担がれたままの登場にコウさんは苦笑してたけれど降ろされた私は目のやり場に困るし自身の今の姿も恥ずかしくて死にそうだ。
だって目の前には美形男子様三人の水着姿。
そして私は…真っ白で清楚な水着を着てしまっている。
アズサさん、私は天使ではないのでこういう清楚すぎるのはどうかと思うのです。
「全く…遅いぞ花子、誰かに誘拐でもされたのかと心配、に」
「る、ルキさ…」
「ふふ…ねぇ…ルキ、花子…かわいい、でしょう?俺が…えらんだ…の」
溜息交じりに登場したのはパーカーを羽織ってはいるが例に漏れずに水着姿の最愛。
そして私の姿を見てビシリと固まってしまい、私もルキさんの素敵な姿に動けずにいればコウさん達の困った笑い声が響いてしまった。
「っし!いつまでも固まってんじゃねぇよ!泳ごうぜ!!うらぁ!」
「わぁ!ユーマ君何いきなり担ぎ上げ…うわぁぁぁ!!!」
「ぶっ!」
気を取り直したユーマさんの底抜けに明るい声と同時に彼の両脇に抱えられたコウさんとアズサさんは
勢いよくそのまま海へと放り投げられてしまいビターン!!と痛そうな音が聞こえたけれど
暫く沈んでいた二人がお返しにと言わんばかりにユーマさんの顔に沢山の海水をかけてしまったので弟さん達のリアルファイトのゴングが鳴らされてしまった。
「やったな!チクショウ!!お前らまとめて相手してやんよ!!」
「お兄ちゃんとしてここは負けらんない!!アズサ君一緒にユーマ君を倒そう!!」
「うん…げこく、じょう…」
きゃっきゃと海の中で大はしゃぎな彼等を見つめて思わず声を出して笑えば
ルキさんはそんな私を見て穏やかに微笑んだ。
「えっと、ルキさんは行かないのですか?」
「ああ、そうだな…俺は花子の傍にいたいから」
海はナンパ者が多いしなと付け足されて、相変わらず過保護すぎるこの吸血鬼様に苦笑してしまう。
けれど折角の海だ。何もせずにぼーっとするのもどうかと思うのでここで一つ提案してみる。
「ええと、じゃぁ砂遊びとかしませんか?」
「たまには童心に返るのも悪くない、か」
そうと決まれば話は早い。
波の少し離れたところで私とルキさんは何気ない会話を織り交ぜながら小さな砂の城をせっせと作り上げていく。
何だかこういうの、以前なら想像もつかなかっただろうな…
誰かとこうして上辺だけの笑顔じゃなくて只々無邪気に笑い合って何かをするのって…
なんだかとてもしあわせ。
「よいしょ、出来ました。」
「我ながら完成度が高くて満足だ。」
最後にお城の門に穴を開けて完成の合図。
ルキさんの言葉通り出来上がったお城はとても綺麗で何処かの美術品のよう…
彼は手先がとても器用みたいだからこういうのも得意だったのだろうか。
けれどこの素敵なお城の寿命はとても短いものだった。
「「あ!」」
ザパン!
普段ならこんな所まで来るはずないのに
こんな時に限ってやって来た特大の波によって私達の砂の城はあっさりと崩れて海へと連れ去られてしまった。
残されたのは四分の一程のお城のかけらだけ。
「ふふ、一瞬でしたね。…なんだか淋しいなぁ。」
「そう、だな…何だか、俺と花子みたいだ。」
その言葉に胸がズキリと痛む。
二人で作ったお城。とても綺麗だけど酷く脆い。
こうしたちょっとした波だけですぐにボロボロだ。
今までいろんなことがあった。
その度に私もルキさんも傷付いたり悲しかったり辛かったり、色々な感情を持ったと思う。
でも…それでもこうして一緒に居るのはもうきっと出会った時のように私が自身を大切にしないからという理由だけじゃないと思いたい。
「ルキさ…」
「っあー!ちょっとちょっと何コレぼろぼろじゃーん!!」
「お城…かわいそう…ねぇルキ…作り直して…いい?…いいでしょう?」
「折角なら波が来ても返り討ちに出来るように大砲とかつけようぜ!!」
彼の名前を呼ぼうとした時、ひょっこりと私の後ろから先程まで海で戦争をしていたはずの三人の声と顔。
もう既に作者であるルキさんと私を無視してどんなお城に再構築するか会議を始めてしまっている彼等に私とルキさんは困ったように微笑んだ。
「ご、ごめんねルキ君…ぜ、全然元通りにならなかった…ぐすっ」
「花子と、ルキの…おしろだから…頑張ったん、だけど…うぅ」
「やー…俺不器用なの忘れてはしゃいじまったって言うか…ワリィ。」
「「………。」」
数時間後出来上がったのは以前より何倍も大きなお城。
だけど私達がつくったのよりぐちゃぐちゃで不格好。
お城の周りには何故か砂で作られた妙なお花畑があるし、お城自体も歪。
そして何故かお城なのに大砲とかミサイルが搭載されてしまってる。
けれど、このお城はとてもあたたかい気がする。
「コウ、ユーマ、アズサ。」
ルキさんが三人の名前を呼ぶと彼等はビクリと体を揺らしてその場に正座だ。
怒られると思っているのか、その体の震えは止まる事はない。
もう、そんな事…顔を上げてルキさんの顔を見ればこれから彼がなんていうのか分かるだろうに。
そしてきっとこれから彼が紡ぐであろう言葉は私もおなじ気持ちだ。
「ありがとう、最高の俺と花子の城だ。」
彼の言葉に三人同時に顔を上げてルキさんの顔を見た瞬間彼らの表情はとても嬉しそうな笑顔になる。
だって今、ルキさん…すごく嬉しそうなんだもの。
きっとこの砂の城は間違いなく私とルキさんだ。
儚くて脆い。多少の事ですぐにボロボロに崩れてしまう。
でもこうして、彼らが…コウさんが、ユーマさんが、アズサさんがいつだって一生懸命になおしてくれる。
いびつな形でも、周りに変な花が咲いていても、どうしてか兵器が搭載されても
彼らの優しさで出来たこの城は…私達はとてもあたたかで愛おしい。
「皆さん、ありがとうございます。私とルキさん、ここで幸せに暮らせますね。ふふ、」
ちょいちょいと完成した不格好すぎるお城を突きながら微笑めば三人はぎょっと目を見開いた後勢いよく私に抱き付いてきてしまったので
支えきれずそのままそのお城へとダイブしてしまった。
「花子ちゃんが…あの花子ちゃんが!!!花子ちゃんとルキ君がって!!!うわあああん!!!」
「よ、ようやく…ようやく花子が自分“と”ルキって…ぐすっ」
「おりひめさま…と、ひこぼしさま…が、俺達のお願い…かなえてくれた…っ」
彼らの意味の分からない言葉に私の頭上にはハテナマークばかりだったけれど
押し倒されていた私をそっと救いだしてくれたルキさんもクスクスと微笑みながら私と同じような言葉を紡ぐ。
「そうだな。俺“と”花子で、しあわせになるとするか。」
「「「こ、こんやはお赤飯だぁぁぁぁ!!!」」」
気が付けば既に日が沈みかけてる海で遂に泣き出してしまった弟さん達にまた困ってしまって微笑んだ。
チラリと見えるのは私が倒れたのでぐしゃぐしゃになってしまった砂のお城。
けれど今は全然淋しくない。
だって私達のお城は何度崩れても私達自身は勿論、彼らも一緒になって
何度も何度でも立て直してくれるんだから。
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