65:報復、崩壊の音色


歪んだ砂の城
お城の周りが淋しいからと、アズサさんが沢山のお花を作ってくれた。
今度波が来てもお城を守れるようにとユーマさんが大砲やミサイルを付けてくれた。
いつだってキラキラ輝けるようにとコウさんが白いお星さまのような砂をお城全体にかけてくれた。




不器用で不格好な
私とルキさんの素敵なお城







「花子!はやくこっちへ!!もうこの扉は持たない!!」



「る、ルキさ…っ私、あの…っ!」



「イイコだ…っ行くぞ!!」




震える手でようやくルキさんの手を取れば、彼が勢いよく私を抱き起す。
嗚呼、こんな事になるなんて思ってもみなかった。



幸せで穏やかなある日、ソレはいとも簡単にこの日常を壊してしまった。
どうしてだか分からないけれど沢山の吸血鬼や使い魔のような化け物たちが無神家を襲撃してきてしまったのだ。
見覚えのない出来事に私もルキさん達もパニックだったけれど、それでもこの場から逃げないとと思って急いで避難したけれど…



所々に聞こえる声も視線も空気も全て私に対する敵意のようで、ブルリと体を震わせた。





「一体なんなんだアイツら…突然やってきておっかねぇ。」



ユーマさんが不機嫌に唸る。
屋敷から逃げてきた道端でようやく休憩していれば不意に鳴り響く私の携帯。
画面を見ればいつ入れたのかは分からないけれど【逆巻シュウ】の文字。



「しゅ、シュウさん…?」



『花子、ゴメン。ルキ…そこにいるだろ?代わって?』




ノイズ交じりのシュウさんの声の後ろはどうしてだか酷く荒れているようで
このタイミングでの彼の電話に疑問を感じつつも言われるがままに携帯をルキさんに差し出す。



「ああ、俺だ。…は?なんだと…いや、今回は俺が全面的に悪いだろう。貴様に落ち度は…ああ、わかった。」



みるみる険しくなってしまうルキさんの表情に私も弟さん達も首を傾げる。
けれどルキさんはそのまま携帯を切って一つ溜息をついてこちらを苦しそうに見つめた。



「奴等が狙っているのは花子だ。」



「……どう、して?ルキ…花子、なにもいけない事…してない…」



「………。」



ああ、やっぱり。
彼の言葉にアズサさんは酷く動揺しているけれど私は少し納得してしまった。
彼らの敵意と悪意の矛先は全て私に向かっていたから…理由は、分からないけれど。



アズサさんが納得がいかないと、「どうして?どうして?」とルキさんに詰めよれば
彼は申し訳なさそうに、居場所なさげに視線を泳がせながら理由を話してくれた。



「花子が、逆巻シュウとの結婚式を抜け出しただろう…おおよその輩は奴が沈めたらしいがその…過激派と言うのか…そいつらが秘密裏に我々の隙を伺っていたらしい。…すまない、花子。」



「そんなの…っ!べ、別に花子ちゃんもルキ君も悪くないじゃん!!なんだよ!!なんでそんな…っ」




コウさんが頭を下げたルキさんの肩を掴んで何度も揺するけれど彼が頭をあげることはない。
…悪くないなんて事はない。
だってヴァンパイア王の子息であるシュウさんとの結婚式をすっぽかしてルキさんと逃げたんだ。
きっとシュウさんを慕う彼等にとっては万死に値する行いな筈。



最近シュウさんの姿を見ないと思っていたら、彼は私とルキさんの後片付けを請け負ってくれていたのか…
どうして…どうしてシュウさんはそこまで私の為にしてくれるのだろうか。
最近の出来事が幸せすぎて抜けていたその事実に私は酷く胸を抉られる。
嗚呼、私はなんてことを…



“自分自身”を持つきっかけをくれたシュウさんが大変な思いをしていたのに私はなんて呑気なんだろう…




そしてこうなってしまった責任を感じて未だに頭を上げてくれないルキさんに対しても胸が痛い。
私が…私がもっと彼の真意を早く見抜いていれば…彼の悲しい演技に気付く事が出来ればこんな事にはならなかった。
私を愛してくれてるが故に行ってくれた行為が今、こうして酷い形で返ってきてしまった。



そしてそんなルキさんや巻き込まれてしまった弟さん達の為に私が出来る事は一つしかない…
ひとつしかないのに…



「……っ、…っ」



言葉が出ない。
喉までは出てきている。
でも出ないのだ。




“私が彼らの元へ行けば全て解決です”



その言葉が出ない。
以前ならすんなり出たはず…私なんか1人犠牲になる事で平和になるならどうぞご勝手に、ご自由にと口に出せた言葉が出ない。




「ぅ…ルキ、さ…う…っ」




いやだ、一緒にいたい。
ルキさんと…コウさん、ユーマさん、アズサさんと一緒にいたい。
そんな酷く我儘な感情が解決の言葉を邪魔してしまう。




「ぅえ…っ、う…ふっ」




ポロポロと理不尽な涙が零れる。
分かってる…こんなに周りに迷惑かけておいてそんな都合のいい事言えないって分かってる。
分かってる…のに、どうして…





嗚呼、私はいつからこんなに我儘で厚かましい生き物になってしまったのか





ひっくひっくと只無意味な嗚咽を漏らせばコウさんがじっと私の瞳を覗き込む。
そしてすぐにその眼はとても穏やかで優しいものへと変わる。




「うん、そうだね…花子ちゃん。花子ちゃんのその気持ちは間違いじゃない。」



「コウ…さん?」



「ルキ君、カールハインツ様のとこへ行こう。あのお方ならきっとこの騒動も沈めてくださるよ。」



コウさんがぐいっと私の手を引いてルキさんの胸の中へとおさめる。
するとルキさんも条件反射の様に私の体を抱き締めてくれるからふわりとこんな状況なのに安堵してしまう。



「そうだな…なら事の発端の俺と花子だけ向かおう…。お前達は念の為何処か安全な所へ、」



「っだぁぁぁあ!今更水くせぇ事言ってんじゃねぇよ!!バカルキ!!!」



ルキさんの言葉にわしゃわしゃと自身の頭を掻き毟りながらユーマさんが吠えた。
その大きな声に思わずビクリと体を揺らしてしまう。
けれどルキさんの言葉にユーマさんは未だに不機嫌顔。



「あんな大量の輩全部振り切れる訳ねぇだろ!?俺達も行くにきまってんだろ!!ルキは平気かも知んねぇが花子は守らせろ!!俺達の将来のねぇちゃんだ!!」



「ゆーま、さ」



「そうそう!シュウ君が頑張ってくれたみたいだけど流石にあの数はねぇ?あ!あとあと花子ちゃんが走り疲れたらこのアイドルコウ君がお姫様抱っこしてあげるってサービスもつけなきゃ!!ね?」



「……、」



じわり
じわり
ポロポロ



収まっていた涙が再び零れ出す。
どうしてそんなに皆さん優しいんですか…分からない。
どうして私なんかに優しくしてくれるんですか…




未だにルキさんの腕の中の私にアズサさんの指が頬に触れる。
安心させるように微笑むその笑顔は更に私の涙腺を崩壊させてしまうモノへと変わる。



「俺達は…ルキ、と…花子がしあわせに笑うのが…だいすきなんだよ…?なんでだろうね…ふふっ」




「理由は俺達にもわからないけれど」と困ったように付け足されて
もう私は我慢できずに声をあげてわんわんと泣いてしまった。




その時に、離さまいと
ルキさんの腕の力がぐっと強く感じた気がした。



戻る


ALICE+