69:無神ルキの独白


『消えればいいのになぁ』


消えないでほしい…


『好きなんです。ルキさんの事がだいすき…』


ああ、俺もだよ…


『私…少し、自分…大事にします。』


嬉しい…うれしい。


『…ルキさんの馬鹿。』


眩しい…嗚呼、とても眩しい。



次第に色鮮やかになっていく花子の感情も心もとても眩しい。
それに比べて俺はどうだろうか…





いつだって真っ暗な闇のままではないだろうか?






「…っ、う…、っ」



「花子、平気だ。アズサもユーマもコウも俺の大事な弟だ。そう易々と死んだりはしない。」




もはや喚きすぎた彼女は声も出ないのか、只々ひっくひっくと俺の腕の中で体を揺らして
最後の1人になった俺の胸に縋るように顔を埋めて慰めの言葉に何度も自身に言い聞かせるように頷く。
嗚呼、本当に…花子、お前は変わったんだな。



自身の愚かな判断がここまで大ごとになるなんて思ってもみなかった。
けれど後悔している暇もない。コウ達が必死になって繋いでくれたこの道で立ち止まる気なんてない。




自信がなかった。




俺と一緒に居るようになってから花子はゆっくりではあるが確実に感情豊かになって自身を持って…魅力的になって。
次第に眩しくなっていく彼女にいつか「もういらない」と突き放されてしまうのではないかと心のどこかで恐れた。
だってもう、ここまで変わった花子に俺がしてやれることなんてないと思ったから。




だから一度、俺は離される前にとこの手を自ら離してしまった。




花子の傍にいる資格がない。
そんな綺麗事を並べたが実際には只魅力的になった彼女に捨てられるのが怖かっただけ。
けれどそんな俺の考えがこうして酷い結末を招いてしまった。




アズサもユーマもコウも無事な筈だ…きっと大丈夫。
自身にも言い聞かせているがそんな確証どこにもなくて只々花子に気付かれないようにギリリと奥歯を噛み締める。




「ルキさん…ルキ、さ」




ぎゅうぎゅうと俺の服を握り締める手に力がこもる。
この世から消えたいと願っていた少女が今こうして、俺達と離れたくないと必死に縋って声を震わせる。
嗚呼、花子…俺達を…いや、俺を愛してくれてありがとう。




きゅっと走り抜けていた足を切り返して木陰へと隠れる。
そこで腕に抱いていた花子をそっと降ろしてやれば、俺が今から何を言いたいのか察した花子の顔からサッと血の気が引いてしまう。
全く…お前のそんな表情は今まで見たことがない。



「花子、」



「や、やです…っ!1人でなんてそんな…っやだ…っ」




まるで子供の様に首を横に振りながら涙を零す花子に苦笑してしまう。
本当に、沢山と感情と愛を持ったお前は愛らしいよ。




「花子、頼む。…聞いてくれ。」



「ん、ルキ…さ、」



ちゅっと溢れて零れ落ちる涙を唇で掬ってやれば、未だに嗚咽は止まらないものの、ようやく止まってくれたソレにひとつ安堵する。
どうして俺はお前を泣かせてばかりなんだろうな。



「このまままっすぐ、この森を抜ければカールハインツ様の城だ。花子の足では遅くなるかもしれないが何とか、頼む。」


「や、ルキさん…やです!!どうして…っ」




彼女の肩を抱いてくるりと方向転換させてやり、王の城への抜け道を指せば、再び溢れてしまう涙と悲痛な叫び。
けれど今回だけはこの叫びに耳を塞ぐことにしよう。
嗚呼、けれど…うん、胸はかなり痛いな。




「花子、俺は今の花子に相応しい吸血鬼になりたい。」


「…ルキさん?」




ぐっと後ろからその小さな体を抱き締めて呟いた俺の本音。
初めの頃こそお前は俺がいないといけないと思うほど存在が危なっかしかったが今は違う。
きちんと自身の気持ちだって持っているし、何よりこうして俺の言葉に「いやだ」と喚く事だって出来る。


本人は気付いていないだろうか…こんな自身の気持ちを優先しての否定の言葉なんて、以前のお前からは考えられないんだぞ?



花子はよくコウをお星さまだというけれど、ならば花子は俺にとっての月だろうか…
決してギラギラと強い訳ではないが柔らかで穏やかなその光は気が付けば俺を優しく包み込んでくれていた。



「花子、あいしているよ」



そっと耳元で囁けば振り返った彼女の瞳に写ったのは自身でも驚く位穏やかな俺の顔。
瞬間、彼女の瞳は涙で溢れてその姿は揺らいでしまったけれど、今はそれで満足だ。





とん、とあくまでも優しくその背を押してやれば
二三歩よたよたと前に進んでこちらを振り返る彼女はとても悲しげだ。
だから俺は安心させる様に今までで一番優しく、この顔を微笑みへと変えてやる。




「花子、どうか俺を信じてくれ。」



その言葉に彼女の顔は少し歪んでしまったけれど俺達より頼りないその足は一歩一歩確実に前へと進んで次第に加速する。
嗚呼、ありがとう花子…俺を信じてくれて。




次第に鮮やかになっていく花子に対して俺は真っ暗なままだ。
けれど彼女はそれが心地いいと「黒が好きだ」と言う。
ならばそんな彼女の為に根本は変えずに、けれどやはり何処か変わりたい。
彼女を守りたい、包み込みたい。




…愛したい。




花子が月ならば、俺はそんな彼女を優しく包み込む夜空でありたい。
単なる闇なんてごめんだ。




「花子、愛してる。…愛してる。」



何度かそう呟いて、少しでも彼女の時間を稼ぐために自ら刺客の元へと進んでいく。
生憎こんな所でむざむざ死ぬつもりは更々ない。
花子を独り残すわけがないだろう?彼女の悲しい顔を見るのはこれで最後にしたい。
そして俺はいつだってそんな彼女の隣にいたいんだ。



………ん?
俺も、もしかして変わっているのか?




以前ならば俺の事はいいからと、いつだって自己犠牲を自ら進んで行ってきたのだが
全く…俺も相当強欲になったものだ。



「貴様らをここで皆殺しにしたうえで尚も花子と幸せでいたいなんて…な。」




小さく笑ってそんな台詞。
嗚呼、なんだ。俺も、少しは自信を持っていいのかもしれない。



「おい、お前達。奇襲を仕掛けるなきちんとアポを取れ。全く…おかげで俺の宝物が家の中で放置じゃないか。」



敵意と悪意の塊である彼等を睨みつけて凄んでも
もはや暴徒と化していて全く聞いていない。
…これだから躾のなっていない家畜は嫌なんだ。




「そうだな、もし万が一家の中の黒縁眼鏡を壊してしまったゴミがいるなら今すぐ名乗り出ろ。魂ごと粉砕してやる。」




アズサ、ユーマ、コウを振り切った輩だ。
無傷でここから抜け出せる気はしないがどうしてだろう…
死んでしまうのではないかという気持ちは微塵もない。




「全く…本当にお前は恐ろしい女だよ、花子。」




俺が死んでしまって絶望に打ちひしがれる彼女の顔を想像するだけで死なないと、死ねないと思えてしまう。
ああ、これこそ愛される者の幸せ……か。




ゴキリと指を何度か鳴らして目の前の獲物を捕らえればようやく空気が変わったのに気付いたのか二三歩後退してしまうがもはや逃がす気などない。
嗚呼、久々に大暴れしてしまいそうだ。




「さぁ、調教の時間だ」




花子を包み込む夜空になりたい。
勿論、歪な城、兵器も、花畑も全て丸ごと包み込めるような…
穏やかで優しい夜空に。



俺達の城を守るのは誰でもない俺達だ。




ふわり



歪で不格好な夜空が全てを包み込んで
消えた。




花子、待っていてくれ。
必ず。
必ずすぐにそちらへ行くから…



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