70:友情と僕の変化
本当に愛してるなら
その人の思惑を汲み取ってあげればいいのにこの惨状。
お前らが好きなのはシュウを好きな自分自身だろう?
「あーあ。今回も僕が出来る事は黙ってる事だけなのかぁ…」
ベッドにぼふんと体を投げ出して天井をじっと見つめる。
シュウは未だにお馬鹿さん達の鎮圧に忙しい。
無神さん達はどうなってるのか分かんないけど、僕が出ていったとしても現状は変わんないと思う。
大事なお友達の為に何もできずにぼーとしてるのがこんなにも辛いだなんて思わなかったな。
「うぅ…花子ちゃん、大丈夫かなぁ」
花子ちゃんは僕と自分が似てるって言った。
多分それは事実だけど、今の花子ちゃんと僕はちょっと違う。
きっとそれは変わろうと一生懸命だった彼女とそれを怠って開き直った僕の違い。
それでも彼女は僕を最愛ではないけれど友人として迎え入れてくれたときはホント、毒気全部持ってかれちゃった。
「うーん、うーん…僕だって花子ちゃんの為に何かしたいよ!!」
初めて出来た友達。親友。
その子が今理不尽な悪意に晒されてきっと自身の大切なものもひとつひとつ奪われていると思うともどかしい。
いてもたってもいられなくてガバリとベッドから起き上がって窓から外を眺める。
あ、微かだけど血の香り…
「ていうかいつから僕はこんなおせっかいになっちゃったんだろ…」
覚えのあるその香りに胸が騒めいて早足に廊下を駆ける。
いつもみたいにこんな騒ぎ、傍観して嘲笑えばいいのにどうやら今回はそれが出来ないみたい。
僕にここまで行動させてしまう花子ちゃんって…ホント、不思議な子。
「きっと、こっちからだ…」
先程の血の香りに混じって漂った彼女の香りにこちらに向かっていると確信して
外に飛び出し彼女がやってくるであろう方向一点をひたすら見つめ続ける。
今から僕に出来るのはシュウや、無神さん達がしてる事に比べればほんの些細な事だけれど
…それでも、うん。
僕だって君の…友達の役に立ちたいんだよ。
「花子ちゃんっ!」
「!?ら、ライトさん!?」
ようやく姿が見えた彼女にぶんぶんと手を振ればさっきまで沢山泣いていたのか赤くなっちゃた目をぎょっと見開いちゃったので笑っちゃったけど…
うん、今は久々の彼女との再開を喜んでいる暇はない。
よろよろしてる花子ちゃんの手を取ってぐいっと引っ張れば、頼りない体はグラリと勢いよく前へ倒れそうになってしまう。
そうだった…人間の女の子は弱くて脆いんだった…うっかり。
なんて思ったけれど、花子ちゃんは転んじゃう前にぐっと足に力を入れてその場で持ちこたえた。
ふーん…強くなったね、花子ちゃん。
前の君ならどうでもいいやってそのまま倒れて大けがしてたんじゃない?
「正面からじゃきっと他の奴に見つかっちゃうから、僕が抜け道案内してあげる!んふっ♪」
「ライトさん…、ありがとうございます。」
「………ホント、花子ちゃん変わったね。」
僕の言葉にすんなりお礼が出た彼女に一瞬動きが止まった。
すごいね、誰かに愛されるとここまで変わるものなんだ。
なんだか愛の結果を目の当たりにしたようで思わず顔が綻んでしまう。
あれ、ちょっと前ならムカムカしたのになんで今は胸があったかいのかなぁ…?
誰にも見つからないように彼女の目的地まで走る。
花子ちゃんが言わなくても此処に来るって言う事は目的地は必然的にあそこだ。
「今回はシュウが忙しいから僕でごめんね。頼りないと思うけど、でもちゃーんと送り届けるから!!」
「ライトさんを頼りないって思った事、ないです。頼もしい親友です。」
「…………そっか、」
ちょっと自虐的な、でも事実な言葉を口にすれば花子ちゃんはまっすぐ僕を見て慰めの言葉ではなくて心のうちから思っているであろう言葉で返してくれた。
そっか、キミにとって僕は必要のない子じゃないんだね。
向けられているのは愛情じゃないのに花子ちゃんの言葉で救われた気分な僕はとても単純なのかもしれない。
「友情って、悪くないよね。」
「?ライトさん?」
「何でもないよっ!んふっ♪」
小さな呟きは彼女に届かなかったけどいいんだ、それで。
花子ちゃんが教えてくれた友情って言うの、もうちょっと自分の中で噛み締めていたい。
「ついたよ、此処にあの人がいるから。」
「…………、」
じっと大きな扉を見つめる花子ちゃん。
けれど、うん…ここで物怖じしてる時間もないはずだ。
ルキたちがどうなったのかなんて全然わかんないけどあの過保護集団無神さんが花子ちゃんをここにひとりで寄越したって事はよっぽどだろう。
「花子ちゃ、」
ギィ
それでもやっぱり異形の、吸血鬼界の王に面会なんて一人じゃ怖いかなって思って
僕が扉を開けてあげようと、手をそちらに持っていく途中で花子ちゃんは自分からその重い扉をゆっくりだけど、確実に開いた。
行き場を失くした宙ぶらりんのこの手は淋しくはなくて、今の僕の表情と同じくとても嬉しそう。
「花子ちゃん、いってらっしゃい」
その手をひらひらと左右に振ってお見送り。
僕が出来る事なんてほんと些細な事だけれど、それでも花子ちゃんの役に立てたかなぁ…?
「ねぇ花子ちゃん、がんばって」
この僕が他人の幸せを応援するなんて…
全く、ホント彼女に毒と言う毒を中和されたみたいで怖い。
でも、うん
この気分…正直悪くはないって思ってる。
戻る