72:175kgと過去
『この騒ぎが落ち着くまでこの屋敷にいなさい』
あの後カールハインツ様は私にそんな優しい言葉をかけてくださってそのまま何処かへ出かけられてしまった。
今は懐かしく感じるこの場所でお世話になっている。
「花子…平気か?」
「もう大丈夫です。…それより、シュウさん…ごめんなさい。」
以前結婚ごっこと言う名目でお世話になったシュウさんの部屋で彼と二人きり。
心配そうな顔でこちらを覗く混んできてくれる彼に深く頭を下げる。
私が呑気に幸せを満喫していた裏で、彼には沢山迷惑をかけてしまったから…
ぽんぽんと、優しく頭を撫でられるとじわりと涙が浮かぶ。
一番にこうしてもらいたいひとは、今…ここにはいない。
「ええと、着替え用意しないとな…ってこんな会話、前もしたな。」
「そう、ですね…」
「一応聞いとくけど…好きな色、ある?」
彼の問いに私は以前とは違った答えを口にする。
うん、今回はなにものにも絶望はしていないから…
「スカイブルーとオレンジ…あとピンクも好きです。」
「………黒は?」
「…大好きなので、沢山お願いしていいですか?」
思い浮かべるのは大好きな彼等をイメージする色ばかりで
特に黒はいつだって何処かに纏っておきたいと、図々しくもお願いすると
「妬ける」と言いながらも沢山用意してくれたシュウさんに感謝だ。
「花子、ごめんな。俺の力不足だった。」
「いいえ、違います…そうじゃないです。」
ソファに二人で腰かけるとシュウさんが申し訳なさそうに呟いたけれど
その言葉に対して私は首を横に振る。
シュウさんは何も悪くない…私とルキさんの関係を元に戻そうと頑張ってくれただけ…
けれど彼の表情はずっと悲しそうな…悔しそうなままで
「俺は、また花子を失うのかって…思ったよ。」
「シュウさん?」
「俺の所為で…今度は花子の存在まで壊すのかって、思った。」
「シュウさ、あの…一体、なにを」
彼の言ってる意味が分からずに、動揺していれば
彼の顔は更に歪んだけれど、小さく息を付いた後、表情は元の緩やかなものへと戻った。
「今はまだナイショ。…俺に勇気が出たらその時は…な?」
「………はい。」
「はぁ…それにしても疲れた…だっる。」
これ以上は今は聞いてはいけないのだと感じて素直に彼の言葉に従い承諾する。
すると長い溜息の後彼はゴキゴキと大袈裟に肩を回して自身のベッドへとゆるゆると潜り込んでしまった。
「ったく、なんで俺が175kgも背負う羽目になったんだよ重いって…特に70kgな…成長するにも程がある。」
……………
「え?」
思わず変な声が出た。
けれどシュウさんはそんな私にお構いなしに相当しんどかったのか
ベッドとシーツの間でブツブツとひたすらに文句を並べ始めてしまう。
「野郎三人もずるずると引っ張った俺ってホント偉いよな…ていうか末っ子ガリガリじゃないか?運んでくる途中花子花子、って呪詛みたいで怖かったし…そして次男マジ煩い…ボロボロのクセにアイドルだからスタイルいいでしょーとか煩いっての」
「え、ちょ…あの、シュ」
「ていうかデカい…エド…じゃなかった…あの三男マジでかい。足10cm位ちょんぎってもいい気がするそして一番重かったもうヤダ。」
「………っ!!」
ぶすっとした様子で文句のオンパレードをやめない彼とは正反対で
私は安堵と歓喜で目にじわりと涙を溜める。
嘘…無事、だったんですか?
「あーあ。報われない。俺はほんっとーに報われない。騒ぎを収めながらボロボロの野郎を背負ったのに最愛の花子からお疲れ様のぎゅーも貰えない俺はホントに可哀想だなー。」
「しゅ、シュウさん…!」
大袈裟なそんな台詞に私はどうすればいいのかわからずあわあわとその場で慌てふためく。
すると小さく笑ったシュウさんがもぞもぞとベッドの中から起き上がってゆっくりと両手を広げておかしそうにまた笑う。
「ほーら、功労賞の俺にハグくらいなら、許されると思うんだけど?」
「し、しつれいします…っ!」
こういうのは恥ずかしがっては負けだと思い、
勢いよく彼の腕に飛び込んでぎゅっと抱き締めれば、私よりもさらに強い力でシュウさんの腕が私の体を抱きとめる。
そして耳元でささやかれた死刑宣告。
「あいつは…見つからなかった。………ごめん。」
「…………はい、」
シュウさんが謝る理由なんてどこにもないはずなのに、その謝罪の言葉に救われてしまっている私もいて何も言えない。
そうか…ルキさん、いなかったんだ。
「シュウさん、ごめんなさい。暫く…泣いていいですか?」
「うん、ココには誰もいないから…ホラ、好きなだけ泣け。」
喜ぶべきことだ。
アズサさんもユーマさんもコウさんも無事で…
なのに私の心は全然晴れない。
「う…うぇ、ルキ、さ…うぇぇぇ」
だって一番無事でいて欲しかった彼の…
ルキさんの安否が全然分からないんだもの。
嗚呼、もしかしたら…身体ごと消されているのではなんて…
ネガティブな思考回路ではそんな事しか思い浮かばず
只々ひたすら声をあげて泣いて喚く事しかできなかった。
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