73:ただいま
『どうか俺を信じてくれ』
彼のそんな最後の言葉がずっとずっと頭に響いて回る。
無理ですルキさん…だって現実に今、貴方はどこにもいないじゃないですか。
「………、」
徐に意識を覚醒させてゆるゆると目を開ければ部屋には誰もいなかった。
いつも学校では眠っているはずのシュウさんが何処かへ出かけているなんて珍しい。
ゆっくりと体を動かして窓から見える夜空を見上げればそれはどうしてだか色を感じることが出来ずにじわりとまた涙を浮かべる。
いつだって愛おしい夜の黒に温かみを感じないのは彼の生死が分からないから。
「ルキさん…」
震える声で名前を呼んでも今は困ったように微笑んで安心させるように抱き締めてくれる腕はない。
離さないでと、ずっと閉じ込めていてと望んだのにも関わらず…
独り、悲しみと不安で震えていればカタリと小さな物音がしたので振り返る。
けれどそこには誰もいない…但し先程までしまっていた扉は少しばかり開いていた。
「?」
恐る恐るそちらに向かえば床に数枚の青い花びら。
拾い上げて視線を廊下へと向けると点々とそれは続いていて…
人間である私がこの部屋から外へ出るのはあまり好ましくないのは分かっていたけれどこの花弁の行方がどうしても気になって
恐る恐る足を進めてその青い花びらを拾い上げながら辿っていく。
「あれ、オレンジだ…」
廊下の角を曲がれば青は終わって今度はオレンジの花弁が続いていた。
ドキリと胸が期待で膨らみ拾い上げる早さも無意識に上がってしまう。
きっと次…次の色はあの色だ。
「やっぱり、ピンク…」
次に角を曲がれば今度は予想通りのピンクの花弁。
ドキドキドキドキ
期待が大きすぎて手が震える。
だってあれからまだ一度も会ってない。
無事だというのは聞かされていたけれど、怪我が酷いからと言う事で面会は許されなかったんだ。
気が付けば私の腕の中は三色の花びらでいっぱいで、目には沢山涙が溜まっている。
そして歩む速度は次第に早くなっていくのも分かる。
沢山の花弁を辿っていれば気が付けば庭園に出ていてようやく下を向いていた顔を上げる。
そこに広がっていたのは色とりどりの花々と
未だに包帯まみれだけれどニッコリと笑ってその花畑の中で待ってくれている三人の姿だった。
「み、皆さんがお別れの言葉なんて…言うから…もう駄目だって、思ったじゃないですか…っ!」
「ごめんね…花子、でも…もしも無理だったらって、おもって…」
「す、すごく…すごく心配したんですよ…っ!?」
「俺があんな雑魚にやられる訳ねぇだろばーか。…まぁニートには貸し、出来ちまったけどな。」
「また、私…っ、笑顔がつくれなくなるって…おも、」
「それは駄目だよー!!花子ちゃんには笑顔がいっちばーん似合うんだから!!ね?」
先程まで瞳に溜まっていた涙が決壊してボロボロと零れ落ちて視界が揺らぐ。
その所為ではっきりとした彼らの姿は見えないけれど声は全てとても懐かしくて優しい。
「花子…」
「花子!」
「花子ちゃん」
潤む視界の中でも両手を広げてくれたのが分かったので
私はもう我慢の限界と言わんばかりに両手いっぱいの花弁を放り投げてその腕の中へと体を差し出した。
『ただいま。未来のお姉ちゃん』
未だに夜空にぬくもりはない。
けれど…それでも大事な彼らが戻ってきてくれた事実は酷く嬉しくて腕の中で声をあげて泣いてしまった。
ねぇ、後は貴方だけですよ。
何処にいるんですか、ルキさん。
私に信じろって言ったのは、嘘だったんですか?
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